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従業員承継をどうとらえるか~メリット・デメリット

前回、事業承継のパターンについて、3パターンあると書いた。親族内承継については既に述べたので、残り2つの承継パターンについて触れたいと思う。今回は「従業員承継(社内承継)」について、私なりの考え方をお話しする。

親族内に適任の後継者がいない場合、社内に後継者となりうる人物を探すのは自然な流れだと思う。従業員承継は、周囲からの理解を得やすく、承継後の会社経営がスムーズに進みやすい。基本的には、その会社での業績で貢献、そして社内外で信頼のある従業員を後継者として選ぶことになるので、社内からも取引先からも喜ばれるケースが多いのだ。早くから後継者候補を選出しておくことで、時間をかけて後継者育成をしていくことも可能になる。

長い時間をかけて育成していくことができ、周囲との関係を構築していくことができるという点においては親族内承継も同じだ。親族内承継では、「社長の子ども」として幼いころから社内外に接点を作ることができるし、早くから会社に入社させ、役職に就かせることもできる。しかし逆に「社長の子どもだから」という圧を感じさせ、遠慮や忖度を生んでしまうのも否めない。特別感が周りとの壁になってしまうこともあるだろう。その点、従業員承継は、仕事のできる先輩であり上司であった人材が社長になるので、社内において心の壁ができにくい。役職まで務め上げ、経営にも携わってきた人となると、取引先からも喜ばれるような、社内外から人望が厚い人物であることがイメージできる。

しかし、早くから目星をつけ後継者候補として育成していたつもりでも、社員である以上、辞めてしまうということも有り得る。後継者候補を一人に絞ってしまうと、このような事態に踏ん張りがきかない。何人か候補を考えて育てておくということも必要だ。いずれにしても「退職してしまう可能性がある」ということは、従業員承継を選択する上でリスクとなるだろう。

また、従業員承継という選択肢の最大の問題点は資金面だ。資産価値のある会社を、一従業員である承継候補者が譲受するとなると資金が必要となる。創業者利益を確保した上で、可能な限り会社の価値を下げるなどして資金を融通したとしても、数百万から数千万、場合によっては億を超える金額が必要となってしまうこともある。その資金を一会社員である承継候補者が用意できるかどうか。基本的には、給与や役員報酬以外に収入源を持っていたり、そもそも資産家であるなどでない限り、難しいだろう。もちろん借り入れという手段もあるが、返すことを念頭に置くことになる。会社を承継し経営者となれば、事業用途で銀行からの借り入れも発生するし、その他にもリスクを背負っていくことになる。業績が下がったらどうしようという不安や心配事も付きまとう。一従業員である時とは全く違う立場になるのだ。その覚悟や心構えができるかどうか、というのも大きな問題だ。

金銭的な問題がネックとなって従業員承継ができないという会社は多いと感じる。

金銭的にも資質的にも問題のない後継者候補を外部から登用し、社員として迎え入れた上で時間をかけて引継ぎし、承継するというケースを耳にすることもあるが、これは中堅企業以上の規模の会社における話だ。会社側にそうした魅力的人材を引き入れられるだけの魅力があり、雇い続けるだけの体力と資金力もあるかどうか。それがないと難しいので、中小企業にとって現実的ではないだろう。無理に誰かを探し、長年雇って育成するというようなことをするなら、M&Aを検討することも良いかもしれないと私は考える。
従業員承継も、適切な人材がいて初めて成り立つものである。
資質に加え、資金を準備できるかという問題、また会社に対する想いの深さ(退社せずいてくれるのか)なども考えて後継者を決めなくてはならないので、非常に難しい承継パターンだ。しかしこれが叶えば、承継後は良い形で新しいスタートを切ることが期待できる。

どの承継パターンにもドラマがある。社外承継(第三者承継)となると、目的や条件も様々になるので一言では語れないが、これについてもまた私の見解を書く機会を設けたいと思う。


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