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プロセス改善は、人間心理への洞察が必要な奥深い仕事

きっかけはこのツイート

noteに関わってる深津さんと安藤さんに熱烈に欲しいと言われたので、すごくマニアックな複雑な業務を紐解く過程を本気出して解説してみる。(宣言してからもう2ヶ月経過してたw)


そもそもビジネスプロセスとは

本書ではビジネスプロセスを「お客様に始まりお客様に終わる価値提供のライフサイクル」と定義しています。ビジネスプロセスはいくつもの業務の集合体です。それぞれの業務はインプットとなるモノや情報に処理を加えて、より価値のあるモノや情報をアウトプットとして送り出します。

山本 政樹. ビジネスプロセスの教科書 アイデアを「実行力」に転換する方法 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.30-33). Kindle 版.

まさに上記の通りなのだが、問題が表面化するのはお客さまとの接点であることが多く、問題の原因は途中の社内プロセスであることがかなり多い。そして、お客さまとの接点は注目が集まりがちだけど、その裏のロジスティクスであるビジネスプロセスに光が当たることは少ない。

宅配業者に例えると、遅配・誤配達・配送物の破損などが起きた場合、クレームを受けるのはお客さまと接する配達員だが、その原因は配達途中のどこかに存在する。ビジネスプロセスが整っているサービスは、どのプロセスで問題かあったかをすばやく検知でき、検知した問題点もすばやく改善される。文字で書くと当たり前のことなのだが、当たり前のことを地道に積み重ねていく先にしか、到達できない境地は間違いなくある。




ビジネスプロセス改善の3大ポイント

ビジネスプロセスマネジメントには三つの大きなポイントがあります。
「自社のビジネスプロセスの構造理解」
「ビジネスプロセスの目標と実績の管理」
そして「適切な社内コミュニケーション」
です。

山本 政樹. ビジネスプロセスの教科書アイデアを「実行力」に転換する方法 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.63-65). Kindle 版.

「自社のビジネスプロセスの構造理解」・「ビジネスプロセスの目標と実績の管理」に関しては、本書を読めば勘所がかいてあるので、興味がある方はぜひ読んでほしい。

ぼくがこのnoteで記述するのは、一般論で片付けられがちな「適切な社内コミュニケーション」についてだ。僕自身が体験した事例を交えつつ、生々しさが伝わるように書きたい。


「適切な社内コミュニケーション」のポイント

この話を語らせたら三日三晩は話せるが、要点をまとめると下記のようになる。

1. 持つべきマインドセット
 1-1. 現場にリスペクトを持つ
 1-2. 社員をユーザーと思い、徹底的に行動観察する
 1-3. 課題・原因の検証は、やり過ぎくらいやる
2. 誰にどの順序で話を持っていくか
 2-1. 最初は事業長・部長→マネージャ→現場
 2-2. 「意見の食い違い」には重要な事実が潜んでいる
 2-3. 丁寧な説明が納得感につながる
3. 経営と現場の両方に味方を作る
 3-1. 経営陣が後ろ盾になる意味
 3-2. 現場のエースが最後のひと押しをくれる
4. 数字が見えない仕事だから成果を主張する


1.持つべきマインドセット

1-1. 現場にリスペクトを持つ

複雑な業務を整理する際に、コトに臨むマインドセットは非常に重要だ。オペレーションをしている人たちは時間がない中で仕事をしている。そして、ビジネスプロセスの下流に位置しているので、上流側の雑な仕事・遅延のしわ寄せをモロに受ける。しかも、社内の業務システムは結構雑に創られていることが多く、蓋を開けてみるとしんどいオペレーションを強いられている

「お客様が使う画面じゃないし最低限の実装で!」と、えいやで設計&雑実装されたシステムで業務を回してたりする。事業グロースを志向するイケイケドンドンなスタートアップ人材を縁の下から支える重要な役割なのだが、何かと優先順位を下げられてしまう。

もどかしいのは「これ改善して売上上がるの?」と、問われると具体的な数字が出せないこと。「事業に必要な仕事してるのにいつも後回し。ぐぬぬ」と思った経験をたくさんしてきているのだ。

なので、現場の人にリスペクトを抱くのは基本中の基本。上から目線でヒアリングに行って嫌われ、大事な情報を何も掴めず、成果を出せなかった人をたくさん見てきた。現地現物を見ずに机上の空論を回して「この業務意味ないからやめましょう」とか言っちゃうやつは、プロセス改善の仕事に向かない。この仕事は対面ヒアリングでの情報収集が大きな比率を占めるので、現場の人に嫌われたら絶対にいい仕事はできない。


1-2. 社員をユーザーと思い、徹底的に行動観察する

ぼくがプロセス改善の時に必ずやることがある。それは業務をしている様子を観察 & 実際に体験させてもらうこと。実際に体験すると、判断に必要な情報が一つの画面にまとまってない、複数ページで別々のボタンを押さないと一連の処理が完了しない、など如何に難しい状況での仕事を強いられているかが分かる。ちなみに初めて業務を体験すると、めっちゃ覚えるの大変なことに気付く。普段やってる人と比べると、一件処理するのに倍以上掛かるのとかザラ。

個人的に衝撃だったのは、とある業務を後ろから見させてもらったときに、5ツールくらい跨いで1つの業務をやってたことだ。Gmail/Slack/Chatwork/内製ツール/Salesforceに、散らばっている情報を脳内で統合して事務処理をしていたのだ。どの情報を見て、何を判断して、どのボタンを押したのかが、後ろから見てるだけだと全く理解できない。

「なんで今、次の画面進む判断できたんですか?」と聞いて、「Gmailのココ、Chatworkのココを見て判断して、内製ツールのボタン押した」という答えが返ってきて ( ゚д゚)ポカーンって何回もなった。この状況下でノーミスを求められるの無理ゲーすぎるやろ。。。

こういう話を聞いていると、現場で仕事してる人にリスペクトの念が湧く。孤軍奮闘が過ぎる、偉いにも程があると。あとは熱心にヒアリングしていると、好感を持ってもらえたりする。彼ら彼女らは「いい感じにオペレーション回しといて。あとよろしく」という雑な扱いを常に受けてきている。なので、仕事の詳細に興味持って改善してもらえるということを、喜んでくれる。


1-3. 課題・原因の検証は、やり過ぎくらいやる

複雑な業務を紐解くときは、結論を急がないのはめちゃくちゃ重要。1週間とかそこらで結論を出せるようなことなら、そもそもみんな苦しんでいない。色々な人の話を聞く粘り強さ、自分で考えた仮説も絶えず検証する疑り深さ、勢いで納期を決めない慎重さが重要になる。

特に着手し始めの段階では、複雑であるが故に、どこに不確定要素が潜んでるか分からない。経営者は結論を急ぐせっかちな人が多いが、プロセス改善に関しては、まとまった時間をもらうことはマジ大事。間違っても勢いで「2週間後に解決します!」とか言っちゃわない事。短すぎる納期は、不十分な調査・原因特定の誤り・解法選定のミス・品質の妥協に繋がり、問題を解決できないどころか、より事態を悪化させる

「勢いで始める→何も変わらない」と言うことが一度でもあると、プロセス改善への信頼感が一気に失墜する。信頼が失墜した後に巻き返そうとしても、「どうせまた号令だけでしょ」と現場が白けてしまい、ますます実行難易度が上がってしまう。部署間のプロセスに問題がある時、根深い組織課題が横たわっていたりするが、短期間ではその辺の組織力学を見落としてしまい、因果関係を誤認する危険が高い。


2. 誰にどの順序で話を持っていくか

2-1. 最初は部長→マネージャ→現場の順序

最初は全体を見渡してる人から、話を聞く方がいい。上の人は現場が見えないため、プロセスの話は印象論になりがち。でも「上の人がどんな印象を持ってるか」も重要な情報なのだ。誰をキーマンだと思っていて、何が問題と伝わっているのか。その情報を最初に仕入れていく事が大事。

次に、上の人がキーマンだと思ってる人に話を聞きに行こう。問題があるプロセスのヒアリングに入ると、高い確率で聞けるフレーズがある。それは「XX部署のせいでうちの仕事は負荷が上がってる」というものだ。この発言が示すのは部署横断プロセスだと「自分たち以外のどこかに問題がある」とみんな考えがちという点。誰がどこを問題だと思ってるかは、とても貴重な情報なので、頭に刻んでおこう。

色々な部署に話を聞いてると、お互いに批判し合う構図になってる人達を発見できる。ありがちなのは、セールス↔︎管理部門、企画部門↔︎開発部門などだが、この対立構造を解像度高く理解することが、プロセス改善の突破口になる。


2-2. 「意見の食い違い」には重要な事実が潜んでいる

人間は自分に都合の悪い情報は、意識的・無意識的に隠す。お互い批判し合って意見が食い違う時は、両方とも「自分に都合が悪い情報を隠してる」可能性がある。なので、色々なアプローチで紐解く必要がある。

矛盾点をあぶり出す手法1 業務フロー図

全体像の整理ができるかどうか、プロセス改善の成否はそこ次第。プロセスの全体像表現は業務フロー図が一番分かりやすい。自分自身で何回もヒアリングしたならば、書き方さえ分かれば創れる。

縦のレーンに登場人物、四角は処理、菱形は判断分岐、というスタンダードなやつである。下図は実際にぼくがdraw.ioでテキトーに書いたそれっぽいフロー図。判断分岐の"No"の線を赤くすると、可読性が高くなるのでオススメ。

詳しい書き方はネットに転がってるので、見様見真似で書いてみると良い。無駄なループがあったり、同じような判断を複数箇所でしていたり、1つの処理を行うのになぜか複数システム跨いだり、謎に複雑度を上げている箇所が浮かび上がってくるはず。

矛盾点をあぶり出す手法2  データ分析

事実の一側面を掴むのに、データは非常に有用な材料。人間は都合の悪いことは忘れてたり、話してくれなかったり、実態よりも誇張したりする。業務システムに溜まっているログデータを見て事実検証をするのは、絶対にサボってはいけない。

・「みんな全然やらない」と言ってたのに実態は2-3人だけだった。
・「いつもエラーが起きる」って言ってたのに1週間に1件だった。
・承認プロセスに5人いるのに、実は誰もチェックしてなかった

上記はぼくがプロセス改善プロジェクトで、データ分析をして明らかになったことの一例だ、正しく事実を把握しないと、意志決定を間違えるし、建設的な議論にはならない。なので、ヒアリングの後はデータ分析は必ずやるようにしている。

なお、データ分析の実務については、この記事を読むといいと思う。


2-3. 丁寧な説明が納得感につながる

プロセス改善プロジェクトにおいて、ぼくは同じ人に少なくとも3回くらいは話をすることにしている。

・1回目は現状のヒアリング
・2回目は自分が理解した全体像の説明と、ヌケモレ確認
・3回目は具体的な解決策の相談、考慮漏れ確認

同じ人に複数回話す目的としては、推進者である自分を信頼してもらう意味が大きい。信頼してもらうために、常に心掛けていることは下記の3つ。

1. プロジェクトを着実に進めている様子を見せる
2. 様々な要因・選択肢を考慮していることを伝える
3. 受けた質問に対しては必ず答える。即答できない時は、その日のうちに一次回答。最終回答も絶対に忘れない

自分に対する信頼度が高いか低いかで、プロジェクトの進めやすさ・成果のでやすさが全然違う。プロジェクトが進めにくいと感じる時は、そもそも自分が信頼されているのかを疑ったほうがいい。信頼が薄いと感じたら、まずは自分を信頼してもらうところから再スタートすべき。


3. 経営と現場の両方に味方を作る 

3-1. 経営陣が後ろ盾になる意味 

プロセス改善は部署を跨ることが多い。部署間の問題を責任を持って動かせる役割は、経営者しかいない。色々な部署に協力してもらうためには、経営者のお墨付きが必要なのだ。

プロセス改善の始まり方は経営者が「XXXというプロセスに問題があるって色々な人が言ってるんだけど、ちょっと何が起こってるか調査しておいて」みたいな依頼から始まる事が多い。この調査依頼に対して、鮮やかな原因特定・解決策の提示ができるかどうかが、プロジェクトの命運を決める。ここのアウトプットで、「こいつに任せよう」と思ってもらえるかどうかが一番大事な部分なのだ。

プロセス改善は四方八方から文句を言われる仕事である。横から来て「お前らの仕事の進め方イマイチだから、やり方変えるわ」って言われて気持ちのいい人間など誰もいない。ただ、どれだけ現場に反対されようが、コスト改善・生産性改善に繋がるなら、経営的には絶対にやるべき。

なので、現場から反対があった時は、経営者に盾になってもらうのが一番いい。いざという時に「経営陣のAAさんに承認もらってるんで」と、印籠を出せる状況を創ろう。同じ職位の相手に文句を言える人は多いが、経営者にまで文句を言える人は少ない。

とはいえ、経営陣の後ろ盾アピールは奥の手である。いつもいつも後ろ盾があることを強調すると、虎の威を借る狐だと思われて、信頼を失う。どうにも反対を抑えられないとか、全体にお願いする必要がある時とか、そういう局面だけにしよう。

アリを踏み潰すために、毎回バズーカをぶっ放してはいけない。


3-2. 現場のエースが最後のひと押しをくれる

プロセス改善は現場に浸透・定着して、初めて成功と言える。その際に重要になるのが、その部署で一目置かれている人に協力を仰ぐことだ。マネージャも当然そうだが、実務でエース級の活躍をしている人であることが望ましい。実務でバリバリ活躍している人が賛同してくれると、他の現場の人も納得しやすい。

どういう風にエースを味方に引き入れるか?それは計画段階から常に相談をし、改善後のプロセスにエースの意見を反映させる、と言うのが一番効果的だ。人間は自分のアイデアだと思えるものはきちんと推進しようとするし、そのためには考える段階から一緒に仕事をするのが良い。

「おれが考えたこのプロセス最強だから広めてよ」という持っていき方では誰も協力しようと思わない。「せっかく一緒に考えたんだから、みんなにもやってもらいましょう」という共犯関係を事前に築けるかが重要なのだ。



4. 数字が見えない仕事だから成果を主張する

プロセス改善は、結果をわかりやすい数値で測定できないことが多い。売上・MAU・DAUとか、誰が見ても結果が出たと言える数字を示せないのは、プロセス改善の宿命である。逆説的に言うと、こういう分かりやすい数値で効果測定ができないからこそ、問題が大きくなるまで放置され続けるのであるが。

プロセス改善に取り組む人は称賛されづらいが、そこは折に触れてアピールするのがリーダーのいちばん重要な仕事だ。数字を使わない時に、どう成果をアピールするか、ぼくが編み出した技をいくつか紹介したい。

・なぜ今まで誰も着手しなかったかを語る
・プロセス改善の難易度、掛かる労力を語る
・現場・お客さまがどれだけ喜んでるかアピールする
・その効果が未来にどう積み重なっていくかをアピールする

せっかく頑張って仕事をするんだから「やって良かった」と思ってもらいたい。なので、チームがやった仕事の意味を他部署・社外にストーリーテリングするのは、リーダーとして重要な仕事である。


強いプロセスは差別化になる

プロセス改善は黙っていて評価される仕事ではない。しかし、放置し続けると最終的にはUXを毀損するし、強い企業・強いサービスは確実に改善している部分だ。UIや機能は簡単に模倣できるが、プロセスは非常に模倣しにくい。

お客さまから逆算したプロセス設計、中で働く人の地味で地道な積み重ね、両方揃わないと良いプロセスにはならない。最後にぼくがプロセス改善に取り組んだ際に、胸に刻んだ一説を引用して、この記事を締めたい。

もちろん、ビジネスモデルもビジネスプロセスも一流の会社が業界をリードするであろうことは間違いありません。しかし、ビジネスモデルが一流でビジネスプロセスが二流の会社と比べれば、ビジネスモデルがありふれていてもビジネスプロセスが一流の会社の方が勝者になる可能性が高いのです

山本 政樹. ビジネスプロセスの教科書アイデアを「実行力」に転換する方法 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.411-413). Kindle 版.


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