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ひらめき☆マンガ教室 第4期 チームA制作『欲 その望みは破滅─。』感想

「ひらめき☆マンガ教室 同人誌売上レース」というものがあります。株式会社ゲンロン主催で四期目をむかえるマンガ教室の企画です。

概要を公式サイトから引用してみましょう。

ゲンロン ひらめき☆マンガ教室 第4期の受講生たちが3チームに分かれて同人誌を制作、5月8日(土)に行われる特別授業までの期間、販売数を競い合います!
売上レースはカリキュラムの一環として行われ、その部数によって講座の成績ポイントが加算されます。
同人誌は各600円(税込、送料別)。ゲンロンショップ、BOOTHで販売を行います。ゲンロンショップでは4月6日(火)に先行予約を開始、同人誌の発送・BOOTHでの販売開始は4月26日(月)を予定しています。
5月8日(土)に行われる特別授業は、インターネットで無料生中継(番組のアドレスなど、詳細は後日発表)! 主任講師のさやわか先生に加え、ゲスト講師にマンガ家の大井昌和先生と武富健治先生をお招きし、売上レースの結果発表、同人誌の講評を行います。

3チームの同人誌をすべて買ったので、その感想らしきものをかんたんに書いていこうと思います。

各作品について説明をする気はないので、同人誌をお持ちの方以外が読んでも何言ってるんだかわからないと思います。あとネタバレも配慮してないです。

感想に突入する前にちょっと自己紹介をしておくと、僕はもともとゲンロン誕生以前(ゼロ年代)からの東浩紀さん(ゲンロンの創業者です)のファンで、そのころから主任講師のさやわかさんの存在も認知していました。

両者のファンなのでひらめき☆マンガ教室(ひらマン)にも関心はあるわけですが、ひらマンを追いかけることはできていませんでした。

なので、作家のみなさんの過去の課題の提出作や人となりをまったく知りません。ただ同人誌を読んでそっちょくに思ったことを書こうと思います。

本記事ではチームA制作の『欲 その望みは破滅─。』の感想のみ。以下は概要の転載と試し読みと購入サイトのリンクです。よかったら買ってあげてください。

概 要
12名の作家による欲望をテーマにしたコミックアンソロジー。
支配欲、収集欲、独占欲、食欲…様々な登場人物が抱える
様々な欲望と、"それ"が叶った先にある12の物語の形を収録。
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《豪華対談・インタビューも3本収録!》
【さやわか×小田イ輔】【今酒ハクノ】【vaneroku】
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仕様:A5/202頁
発行:2021/4/26
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《Twitter稼働中!【@hame2_chan】》
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ひらめき☆マンガ教室第4期Aチームによる合同誌企画によって
誕生したアンソロジーです。

●試し読み

●購入サイト(ゲンロンショップ、BOOTH)

タイトルと表紙について

表紙絵を見てまず思ったこと。3誌の中でこれがいちばん好き。

画像1

この(おそらく19歳以上であろう)お姉さんの、前髪ぱっつんが風で揺れて乱れたっぽい髪が好みなんですよね。ハサミを持っているのに切断の対象でなくこちらを見据えているのも吸引力あるし。表情からこのシーンに至る流れをいくつも想像できて、物語喚起力ありますよね。リボンも拘束しているとも繋いでいるとも受け取れますし。

全体的な色彩設計も良い気がします。たぶん。僕にセンスがないのでよくわかりませんが。白い背景に白いお召し物でありながら、リボンが赤いのとか。

タイトルも10代の終わりにアリプロとか聞いていたころ、あるいは昨今の殺伐百合とかの読者を思わせる若々しい感じを受けました。

ゲンロン友の会50番の古参である僕的には丫戊个堂さんがいるのが目を引きます。

彼はたしかネットスターの公開収録の後の飲み会ust凸ったのがこの界隈に初登場した瞬間のはずなのですが、その瞬間もリアタイで視聴していたので。

iyutani「毒煙」
キャラクターのデザインや葬儀始まりというシチュエーションにいきなり惹かれました。

でも、そのぶん短くって物足りなさを感じたのも事実。キャラデザとそれにふさわしい状況設定から味わえる魅力に期待を抱いてしまっただけに。

そして「毒」というモチーフ的にも、やっぱりもう一捻りトリッキーなものがあってほしかったです。それこそ短編ミステリーとか短編幻想小説、幻想小説寄りの短編SFとかみたいな感じで。

男性キャラクターの表情の描写などから推察すべき何かが隠されているのだとは思いますが、その隠されているものがさほど深いものではないのではないか、と思ってしまいました。

とはいえ、絵だけでじゅうぶんに楽しめるクオリティでした。

片橋真名「僕だけのひみつ」
絵柄と描いている内容がマッチしていると思いました。キャラデザと着せる服もいいですよね、パーカーとか。

内容的にも読んでいるこちらの予測を裏切ってくるし、裏切ってくるところで1ページつかったりしてコマ割りも良いのではないでしょうか。描きなれてる人の作品だと思いました。

僕も髪が長かった10代のころに「オカマ」とか言われたので当時を思い出しましたよ。おなじように記憶を呼び覚まされるひとはけっこういそうな作品ですよね。

桃井桃子「えいえん、あるいはラブホテルの休憩時間」
お名前を拝見した瞬間「櫻井桃華か!?」と脳が勘違いしました。てっきり母になってもらえるのかと思ったのですが……。

それはさておき。

ふつうにコミック百合姫の短編でありそうな作品だなぁと感じました。

細かいところについて言うと、「でも夜風は陰湿な私のことが好きなんでしょ」のセリフのあとに過去に時間が飛びますが、「陰湿」という語に関係する過去が語られるのかと思いきやそうでもなかったので「あれ?」と思ってしまいました。ちょっとだけ。ほんとちょっとだけですが思いました。

motoko「王城の鼠たち」
いわゆる異世界ファンタジー。

王城で殺し屋がかち合ったと思ったらステータスがカンストしてる赤ちゃんのベビーシッター試験だったっていうアイディアはさすがに予測不能ですごく感心しました。

小説家になろうやカクヨムなどの小説投稿サイトでは異世界モノネタはやり尽くされていて(それこそピザを作ってエルフに食わせるために転生するハイカロリー勇者なんていうニッチな作品もある)、少なくとも短編では隙間隙間を狙うしかなく、それは異世界モノ漫画においても同様でしょうし、このネタはいいなぁ、と思いましたね。

一点、もし僕がこの漫画のネームを書くとしたらこうするなぁ、という箇所があります。

それは53ページ最上段のコマの右。僕だったら酒場の連中の小馬鹿にした会話のなかで「魔力暴走」についてふれておきますね。短編だから周到な伏線とかなくてもいいと思いますが、1個だけなら張ってもいいかな、と。驚かせるための伏線でなく唐突感をなくすため、あーあやっぱり感を出すための伏線としていいんじゃないでしょうか。

かずみ「永遠の愛」
僕的にはこの作品はたいへん好みでした。僕が好みなだけでなく、ツイッターとかでもRTされそうな気がしないでもないです。

作品の前半の主人公はガチでロリコンであり、ヒロインはガチでロリ。後半において主人公はロリコンでなくなっていて、ヒロインはロリでなくなっているわけですね。

で、漫画って絵で描かれているわけじゃないですか。絵って(『サクラノ詩 -櫻の森の上を舞う-』というエロゲーの主題歌の歌詞を引用して表現するなら)「瞬間を閉じ込めた永遠」なわけですよ。

なので、ページを遡行すればいつでも過去のガチロリ(コン)時代に戻れるんですよね。それが「永遠」という主人公の名とかかっているように読めて良かったです。

しかも主人公の永遠は自分が変化してしまうこと。その瞬間瞬間が永遠のものでなく流れていってしまうことに対して一抹の寂しさを覚えてるわけでしょ。作中の彼は僕たち読者のように遡行できない。だから余計良いですよね。

おそらく作者さんの意図としては主人公の永遠が変化していくことでロリ時代を脱した愛と「永遠の愛」を実現できるって意味でつけたタイトルなのではないかと思います。

もしそうだとしたら、作者さんの意図以上のものを宿した作品になったんじゃないでしょうか。たぶん。おそらく。

あ、あと、もひとつ。浅瀬で足がつくつかないみたいな表現も素晴らしいと思いますが、そこで胸の谷間がちょい見えているのもいいんですよね。左右の胸の離れ具合の絶妙さとかね。

本誌の漫画で僕の好み度ナンバー1でした。

かれーとさうな「晴れときどきV」
正直そんなに感想はないです。漫画本編よりも後書きの方が印象に残りました。後書きの文体にどことなくテキストサイト世代のにおいを嗅ぎ取りましたが全然違ったらすいません。

瀬戸チヒロ「恋はストレートと共に」
「こういう男いるわー」とリアルに知り合いの顔が浮かぶラブコメでした。
線の多い絵柄と暑苦しい男の登場する内容がマッチしていると思いました。

丫戊个堂「ミステリー好きとクトゥルフ好きがぐうぜん出会って破滅?になるハナシ」
これに関してはマジでよくわかりませんでした!

丫戊个堂さんは10年くらい前にニコ生で村上裕一さんたちと『うみねこのなく頃に』の配信をした晩があったくらいですので、ミステリーのこととかご存じなのかもしれませんが、おなじく多少はミステリー好きでクトゥルフも概説書くらいは読んでる僕でもなにがなにやら……。

漫画の終わりに「クトゥルフ神話とは……」という一文が載ってますが、これもけっこうとっ散らかっていて整理された解説とはいえないような……。

この同人誌全体で見開き1ページを使っているのは今作だけなのですが、吹き出しの配置の仕方もなんか無理があると思います。

あとタイトルに「?」が含まれているのも腰が引けている気がします(僕もやる夫スレを書いていたころに同じことをやったことあるので余計にそう感じました)。

watagashi「僕を軽蔑して欲しい」
細部につっこみどころが多くて話の流れにうまく気持ちがのれませんでした。短編だから話の筋に瑕疵はあると思いますが、気になるレベルだと漫画を素直に読むどころじゃなくなってしまうなーと。そのへんを解消したうえで、もっとページ数多めで読みたかったです。

内存ナコト「ロフト」
これけっこう良いんじゃないでしょうか。クリーチャーの絵が力入ってるし。絵的なアイディアも効果的だったと思いました。

ヤバい美人っていうのもホラーの王道ですし。異様なものが2段構えなのも満足感があります。

線の硬い感じや白と黒の配分も作品に奉仕してるように見えました。

あと、ページ数たいして情報量がふさわしいとも思いました。これより少なかったら描けないだろうし、多くても余分なものが増えそうで。

のり漫「結婚記念日のディナーは。」
めっちゃツイッターでRTされてそうな漫画じゃないですか。すごくツイッターユーザーの共感を呼びそうだし。

本誌で読んでもじゅうぶん良い漫画なんだろうけど、ツイッターじゃないのが(RTされないのが)もったいなく感じました。

田山「うたげの日々」
もしかしたら、かつてだったら僕はこの少女に憧れたかもしれないと思いました。5年以上前に読んでいたら感情が動かされたかもしれません。でもも38歳だからな……。

「うたげ」という言葉のチョイスがあんまり美しくも儚くもないな、と思ってしまい気になりました。まだ「うたかた」とかの方が良いような……。いや、そうでもないかな……。

絵は好みです。

破滅系インタビュー企画 その1
酒クズ系Vチューバー 今酒ハクノに聞く、正しく欲望・破滅に向き合う方法
急にインタビューが始まり、東浩紀のゼロアカ道場第四回関門を想起して懐かしさを覚えました。

とはいえ「破滅といえば酒だよね」くらいでいきなり漫画と無関係なインタビューが始まったので戸惑ったし、「俺は何でこれを読んでるんだ?」という気持ちになったのも事実。

僕自身はVチューバーに疎いし興味がないので、インタビューそのものの価値はよくわかりませんが、本全体の中での位置づけをもうちょっと説明してほしかったです。東浩紀のゼロアカ道場第四回関門においては掲載の必然性が説明されていないインタビューは低評価でした(とはいえ、これは漫画同人誌。ゼロアカは批評同人誌なので違うっちゃ違いますが)。

インタビューを一読して「これはひらマン受講生こそ読むべきインタビューではないか?」と思いましたね。「楽しくやれればいいか、数字を気にするか」「見てくれてる人がいて支えになる」という話をしていますので。

破滅系インタビュー企画 その2
4万フォロワー人外エロ絵師vanerokuが語る、SNSで広がるワールドワイドシコリティ

これ面白いですね! なんかインタビュイーの圧が強いし!

基本的には性癖の話ばかりしてるんですけど、ちゃんと現代のコンテンツ消費環境や自分の立ち位置の分析があって勉強にもなるんですよね。これもひらマン受講生必読では。

最終的には全米ライフル協会みたいな話になっていて、ためになる話で終わらせたくないという意志も感じました。

あとなんでもかんでも断定してくれるのでお話が説得力あるんですよね。断定はしていけ、って思いましたよ。

さやわか×小田イ輔 対談
インタビューにかこつけて、俺の人生救ってくれたさやわかさんと八時間飲みました

正直いって、この対談がいちばんおもしろかったです。なんせ小田イ輔さんは僕と同世代ですからね。そりゃ面白いと感じるわな。ウガニクのオナニー日記の影響でテキストサイトをジオシティーズ上に開設し、ReadMe!に更新報告していた20年前を思い出しましたよ。

昔話がかなり良い話なのですが、それとはべつにさやわかさんの仕事が2010年くらいを境に変化するとおっしゃられているのが印象的でした。僕がさわやかさんを知ったのも、そのちょっと前(2008年くらい)なので、そこからどんどん存在感を増していくのをなんとなく知っているから、なるほど、と。

ひらマンでやっていることが何なのかも説明してくれているので、ひらマン受講生は受講期間を最大限有効活用するためにも、これ読んで素直に話聞いた方がいいと思いました。これもひらマン受講生必読ですよね。

総評的なもの
漫画についていえば、半分くらいの作品から「短い」という印象を受けました。単純に漫画だけで12人も描いているんだから、仕方ないといえば仕方ないですが。

短いことのよさは「作品を完成させたことがない人も完成を経験させる」ことができてる点ですよね。ここ20年でテキストサイト→音楽→やる夫スレ→小説といろいろ作ってきて思うのは、やっぱ完成はさせないといけないってこと。それを達成できているのはこの本の良いところですよね。

「短い」と感じてしまう理由がページ数にふさわしい話を用意できてないからだとしたら、そこは今後の作品制作の課題にしてもいいような気もします。

あと「短い」と感じた理由が「もっと読みたいのに」という欲求が生まれたからでもあるので、今後レベルアップしたらもうちょっとページ数のおおいものを読ませてもらいたいし、もしくはページ数にふさわしい情報量のものを読ませてほしいと思いました。

今後につながる作品が多い本という感想でした。

3本のインタビュー・対談記事は、どれもすでに世の中で活躍している人に話をうかがったもの。

共通しているのは、今の立ち位置にどうやってたどり着いたのかを話している点ですよね。これはどう考えてもひらマン受講生の参考になるはずなので、ぜったいひらマン受講生は必読だし、受講してなくても世の中に何か作品を発表したいと考えている人や実際に活動している人は読んだ方がいいと思いました。

以上。チームB『読めば、聴こえる。』の感想に続く。


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