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オードリーは名香である

このタイトルの「オードリー」がオードリー・ヘップバーンだと思った方、残念、お笑い芸人のオードリーです。

「オードリーと香水に何の関係があるんだ!」と思った方、まぁ私の話を聞いて欲しい。
この記事では、オードリーと歴史に残る名香が同じような性格を有していることについて論じていく。

ここ最近、お笑いのマイブームがきている。特に、お笑い芸人が「面白さ」について解説しているのを聞くのが好きだ。『史上空前!! 笑いの祭典 ザ・ドリームマッチ』(TBS)も面白かったが、それに関する感想を各芸人さんがラジオで話しているのはさらに興味深かった。
オードリーの若林さんは、ラジオやテレビにて、面白さの構造を言語化することが他の芸人に比べて多いように思う。「○○すれば落ちる」等の発言にて、笑いの仕組みをよく解説している。また、彼がMCを務める番組では、フリがしっかりしていることによって、きっちり笑いを作っていく印象がある。結果的に、『オードリーさん、ぜひ会ってほしい人がいるんです』(中京テレビ)や『日向坂で会いましょう』(テレビ東京)といった、素人やアイドルなどの、芸人とは違うトリッキーな動きをする人たちに、うまくフリで道筋を示し、彼ら彼女らの面白さを、若林さんのシステムによってきっちり笑いへと転換する役割にて真価を発揮している。この点において、若林さんの笑いは(ネタはさておき)どちらかというと正統派だと言えるのではないか。特に『日向坂で会いましょう』は、回を追うごとにメンバーが笑いに関して成長していくのが手に取るようにわかるが、これは多分に若林さんのフリのうまさによっていると考えられる。
ちなみに、若林さん自身の笑いの好みは、『オードリーのオールナイトニッポン』にて言及している通り、あまりフリがしっかりしている「きちんとした笑い」ではないようだ。2020年4月5日の放送にて、喋るオウムが今まで絡んだ人と比較し一番面白い理由を「フリがない」からだと説明していた。

お笑い芸人はどのようにして売れ、ときに廃れ、そしてときに売れ続けるのだろうか?私はただのにわかお笑いファンなので、とても浅い考察になってしまうが、今考えていることを文章にしてみたい。そして、なぜオードリーが名香であるのかを解説したいと思う。

一発屋と実力派

売れる芸人さんは「一発屋」と「実力派」に大きく分かれる。前者は色物的なネタがたまたまウケたことにより成功を掴み取り、後者は笑いのシステムをしっかりと構築することによりジワジワと人気を獲得していく。
一発屋はスタートダッシュに強いが、後半の失速が大きいことは否めす、「あの人は今」的状態に陥りやすい。一方の実力派は、人気が出るまでに時間がかかるため、忍耐力が求められる。芸人間で実力は認められているにも関わらず、お茶の間の人気がイマイチ、という状態が長く続く。しかし、一度人気に火がつくと、幅広い仕事をこなすようになり、最終的には大御所となっていく。

オードリーもご多分に漏れず、苦労した下積み時代があるようだが、ブレイクしてからはスムーズに売れっ子街道を歩み、お茶の間に飽きられたことは一度もない。今では複数の番組のMCもこなす。この点を鑑みると、オードリーは「実力派」に分類されそうだが、一方でピンクのベストにテクノカットの春日さんの出で立ちは、どう考えても「一発屋」のそれだ。また、「ズレ漫才」という新しいスタイルを確立したという点においても、王道のお笑いからは少し外れていると考えるべきだろう。

このように、オードリーが大ブームを勝ち取り、かつそれ以降も継続して売れ続けた背景には、彼らのスタイルが一発屋と実力派のハイブリットであったことが一因となっていると考えられる。一発屋的な目立ち方で人々の注目を集めつつ、実力派としてのネタの面白さで目にした人々の心を掴んだのだろう。

一周回って面白い

さて、一発屋芸人の中で、忘れ去られた後にじわじわと復活してくる人がそれなりの数存在する。ダンディ坂野さんや小梅太夫さんあたりがいい例だろうか。こういった人の面白さは、「一周回って面白い」と表現される。
この「一周回る」というのはどういった状態を指すかというと、一発屋の場合、ただの色物だった芸が、時間とともに慣れ親しまれ、“普通”になることを指すように思われる。ダンディ坂野さんであればダンディさんという「コンテクスト」が見る側に共有されている状態がいつの間にか作られることにより、なぜか面白く感じられるようになるということだ。これをここでは、「コンテクスト化」と呼ぶことにする。
(この辺りの笑いのメカニズムはよくわからないので、あくまで私の想像で書いたが、もし何か詳しい説明があるのであればぜひ教えていただきたい。)

今日のオードリー

実は、オードリーにも昨今同じようなことが起こっているように感じている。春日さんという色物が、一発屋における「一周回って」面白くなっているのではないか、ということだ。当初テクノカットにピンクベスト、ゆっくり歩いてきてはよくわからないツッコミをする春日さんに、いい意味で違和感を抱いていたはずが、今となっては何だか普通に感じられていないだろうか。人々は「春日」というキャラクターを受け入れ、そこに「王道の面白さ」を見出していると言っても過言ではないと思う。

ここまで書いたことをまとめると、今日のオードリー人気は、

① 春日さんの色物キャラ(一発屋)
② 若林さんのシステマティックな面白さ(実力派)
③ 一周回った春日さんの色物キャラ(コンテクスト化)

の3つの要素によって構成されていると言える。

オードリーと名香の類似点

この要素は、実は名香と言われる香水たちが歴史の荒波を潜り抜け、不朽の名作となるプロセスと同じである。シャネルのNo. 5は、

① 合成香料の過剰投入(一発屋)
② ローズやジャスミンを中心としたクラシカルな構成(実力派)
③ それがスタンダードとして定着したこと(コンテクスト化)

により、名香となった。

名香というものは、得てして世に出た当初は違和感を持って受け入れられるが、それが時代とともに受け入れられ、いつの間にかスタンダードになる。その違和感というものが、受け入れられるべくして受け入れられるものなのか、あくまで“結果的に”そうなっているのかはよくわからない。きっと「神のみぞ知る」類のものなのであろう。

未来のリトルトゥースへ

外出禁止令が出ていた約2ヶ月間、オードリーの2人にどれだけ救われたかわからない。フランスに帰ってきて1週間と経たぬうちに外出禁止令が出され、急に人と会えない状況となったが、その間彼らの笑いの力で楽しく乗り越えることができた。きっとこの感謝の気持ちがオードリーの2人に届くことはないと思うが、これを読んでくれた方が1人でもリトルトゥースになってくれたら、彼らにほんの少しだけだが恩返しをしたことになるのではないか…そんな気持ちでこの記事を書くことにした。
(注:「リトルトゥース」とは、『オードリーのオールナイトニッポン』のリスナーのことを指す)

これからも、オードリーが、シャネルのNo. 5やゲランのミツコのように、お笑いの歴史の中で輝き続けてくれることを、1人のファンとして、切に願っている。そして、私もオードリーのような名香をいつの日か世に出せることを目指して、香水を作っていきたい。

今日はだいぶ香水の話から逸れているが、まぁこういう日もたまにはあって良いかな、と思っております。次回も乞うご期待!

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