魚のカルパッチョと五月の風と

イワシ?

と思わず聞いてしまった

ううん

と彼女は首を振って

ニシンよ

と言った

お皿の上には
きれいな菊花造りにされた
魚の刺身

刻んだ玉ねぎと
オリーブオイルが振ってある

食べるのがもったいない

ってつぶやいたら

せっかく作ったんだから食べてよ

って
ちょっと怒った感じにたしなまれる

今日ね
鮮度のいいニシンがあったから
買ってみたんだけど
脂ののり具合がイマイチだから
カルパッチョにしたの

ニシンなんて
田舎じゃとれないでしょ?

彼女は港町の出身で
子供の頃から
魚に触れていたので
魚料理はお手のもの
でも彼女の育った港には
ニシンなんて
揚がらないんじゃないのかな?

って思ったんだ

ニシンは揚がらないけど
イワシはよく揚がるわ
ニシンなんて
大羽の大きなヤツでしょ?

そう笑った
彼女の顔は
やっぱり可愛かった

テーブルには
ニシンのカルパッチョと
ミネストローネと
ジェノベーゼのパスタが並んだ

窓でも開ける?

彼女の手がリビングの窓を開けた
梅雨入り前の風が
レースのカーテンをゆらした




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