北陸新幹線延伸 ~小浜・京都ルートの自治体の財政負担~
はじめに
令和6年の京都市長選挙でも大きな争点となった北陸新幹線の延伸事業。直近の報道では、現行の「小浜・京都ルート」の総建設費が、資材高騰・人件費高騰の影響で計画当初の約2倍になると言われています。
この建設費の負担と環境への負荷が懸念され、「小浜・京都ルート」に反対する意見も多く、「米原ルート」を始めとする別ルートの再検討を求める声が高まっています。
多額の建設費は、誰が負担するのか、京都市の負担はどうなるのかを知って頂きたいと思います。
北陸新幹線整備事業の概要
北陸新幹線は、首都圏と北陸、近畿圏を結ぶ新たな国土軸として、「全国新幹線鉄道整備法」に基づき、昭和48年の11月に決定された「整備計画」により整備が進められています。
事業区間は、「東京都-大阪市」の約700kmであり、「東京都-高崎間」は上越新幹線を共用、「高崎-長野間」が平成9年10月に開業、「長野ー金沢間」が平成27年3月に開業、「金沢-敦賀間」が令和6年3月に開業し、現在「東京ー敦賀間」が開業しています。
敦賀以西(敦賀-新大阪間)については、小浜・京都ルート(敦賀-小浜-京都-京田辺-新大阪)が現行ルートとして整備予定となっていますが、整備費用の高騰と環境負荷の課題があり、米原ルート(敦賀-米原を延伸し米原で東海道新幹線に接続)の再検討を求める声が上がっています。
新幹線の整備方式と建設費の負担ルール
整備新幹線の整備方式は、上下分離方式となっており、鉄道・運輸機構が建設を行い、開業後はJRが鉄道施設を借り受け運営を行います。建設費は、JRからの貸付料収入を充てた後、国と地方が2:1で負担します。
JRからの貸付料の額は、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構法に基づき、「新幹線を整備する場合」と「(仮に)新幹線を開業しない場合」の収益の差を計算したものとなっています。
また、地方負担分のうち90%は起債対象になりますが、償還時に約50%が交付税措置されるため、起債対象外の一般財源支出分10%と合計で地方の実質負担は、地方負担分の55%となります。
なお、地方負担分は、都道府県が区域内の市町村の意見を聞いた上で、都道府県議会の議決をもって、市町村が受ける利益を限度に市町村の負担すべき金額を決定することができる建付けとなっています。(他府県のこれまでの実績を見ると市町村は都道府県全体の1割の負担をしています。京都府の場合、沿線自治体が少ない為、同様の計算になるかはわかりませんが、この後の計算は1割で仮定して計算しています。)
参考までに、こちらの記事でも書いていますが、地方交付税には明細がなく、交付税措置が本当に適正に行われているのか懸念が残っています。
計画時当初における建設費の負担
小浜・京都ルートは、計画時当初(平成28年度)の試算では、総建設費が2.1兆円と計算されていました。
JRからの貸付料収入の見込みが9,000億円で、残額の1兆2,000億円を国と地方で2:1で按分すると、国が8,000億円で地方が4,000億円という計算になります。
4,000億円を福井県・京都府・大阪府で負担割合を決めた上で、京都府の負担から京都府と沿線が通る自治体である南丹市と京都市で負担を分けるということなります。南丹市は通過だけなので負担無しと想定されます。
具体的な負担割合は話し合いがされておらず、京都府から具体的な負担額を示したことはありませんが、福井県の試算では京都府の負担は1,600億円とされ、距離や駅数で決めると2,000億円を越えるとされています。
京都府全体の負担が2,000億円だとすると、金沢-敦賀間の沿線市町村のケースが適用されれば、市町村の負担は1/10で京都市は200億円の負担になり、京都府単体は1,800億円の負担となります。
ここから、起債部分の交付税措置分の国負担を除くと実質負担は京都市が110億円、京都府単体が990億円となります。
建設費の高騰による影響
計画当初の試算であっても、大きな自治体負担があるわけですが、ここにきて資材高騰や人件費の高騰の影響で、少なくとも建設費が当初の約2倍の3兆9,000億円、最大で2.4倍の5兆円にまで膨らむということが、国土交通省及び鉄道・運輸機構から公表されました。
前述のとおり、“JRからの貸付料の額は、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構法に基づき、「新幹線を整備する場合」と「(仮に)新幹線を開業しない場合」の収益の差を計算したもの” と定められていますから、原則的には建設費が膨らんでも金額は変わらないこととなります。
総建設費が3兆9,000億円ということになると、JRからの貸付料収入の見込みが9,000億円で、残額の3兆円を国と地方で2:1で按分すると、国が2兆円で地方が1兆円という計算になります。
この場合、京都府全体の負担は5,000億円になり、京都市の負担は500億円、京都府単体の負担は4,500億円と想定されます。
ここから、起債部分の交付税措置分の国負担を除くと実質負担は京都市が275億円、京都府単体が2,475億円となります。
現在想定されている最大の負担の5兆円の場合、京都市の負担680億円(実質負担374億円)、京都府単体の負担6,120億円(実質負担約3,366億円)です。
「小浜・京都ルート」推進派は、JRや国の負担割合を増やす交渉をするとしていますが、ともに法律で決まっていることであり、またJRは民間企業であることから利益を生み出すことの出来ない負担を受け入れることは難しいと考えます。
なお、比較の参考として、京都市が財政破綻の危機までに溜めてきた過去負債の累積残額が505億円(令和4年度決算時点)であることからも、数百億円のインパクトの大きさがわかります。
そして、リンクを貼った北國新聞の記事にもありますが、建設費が上がった分、費用対効果(建設費に対する経済効果)は当然低下しますから、計画当初の1.1倍から0.5倍へと大幅低下してます。
おわりに
京都市長選挙でも大きな争点となった北陸新幹線の敦賀以西の延伸は、「小浜・京都ルート」が現行ルートとして予定されているが、自治体の財政負担と環境への負荷の課題から見直しの声が挙がっている。
資材高騰・人件費高騰から、建設費が当初計画の約2倍の約4兆円まで膨らむことが明らかになった。
当初計画でも京都市の負担は200億円(実質負担110億円)だが、建設費が約4兆円まで膨らむと、京都市の負担は500億円(実質負担275億円)、京都府単体の負担は4,500億円(実質負担2,475億円)。
5兆円の場合、京都市の負担680億円(実質負担374億円)、京都府単体の負担6,120億円(実質負担約3,366億円)。
建設費が上がった分、費用対効果(建設費に対する経済効果)は低下し、計画当初の1.1倍から0.5倍へと大幅減。