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老舗プラスチック工具メーカーと対馬の海洋問題③

皆様、こんにちは。
2022年09月に対馬市へ訪問し、漂着した海洋プラスチックゴミを配合した収納ボックスを販売開始してから、約1年6ヶ月が経過しようとしています。

まず初めに、今日まで約820kgの海洋ゴミを”長く使える収納ボックス”に再生しました。それに伴い、対馬市への寄付も82万円となりました。(初年度は444kgにて440,000円が受理され、対馬市長より感謝状を頂戴しております。)
又、本事業をきっかけに、たくさんの企業や消費者も対馬市へ関心を示し、プラスチックへの理解や向き合い方にも変化が現れてきているように感じます。これも今日まで応援していただいた皆様のおかげだと心から感謝しています。この場を借り、御礼申し上げます。
本当にありがとうございます。

改めまして、株式会社リングスターの唐金と申します。
弊社は株式会社リングスターという明治20年から続く、創業130年を超える工具箱の専門メーカーです。職人さんに対して圧倒的な耐久性を提供しており、今日まで日本の職人さんを支えて参りました。釣りやキャンプ用のアウトドア用の収納ボックスも展開し、多種多様な企業様とコラボレーションを実現しています。
詳細につきましては、前回のnoteを見ていただければ理解していただけると思いますので、ご一読いただければと思います。

この期間を経て、対馬の海岸はどう変わったのか?
周りにどんな影響を与え、行動変容につながったのか?
これからどうしていくのか?
現実的なお客様や販売店様の反応なども、皆様にお伝えできればと思います。
2024年07月12日-13日に2年ぶりに対馬市へ訪問しましたので、このnoteにて報告させていただこうと思います。

左から小紫生駒市長、リングスター唐金代表、比田勝対馬市長

1.一般社団法人CAPPAさんへ訪問

対馬CAPPAとは
Coast and Aquatic Preservation Program Associationの略で
美しい対馬の海洋環境を保全するべく企業・研究機関・行政・学校・地域等と連携し、海ごみの発生抑制および普及啓発に取り組む一般社団法人
詳細はこちらからご覧ください。
https://www.tsushima-cappa.com/

前回、訪問した際にもご案内いただき、今回も新たな状況やデータを共有していただくべく、末永さんの講義から本視察が始まりました。

講義の様子。末永さんの講義はいつも心震えます。

講義の中で非常に心を打たれた言葉がありました。
「リングスターの取り組みには本当に感謝している。SDGsとグリーンウォッシュの企業も増える一方で、本気で一緒に解決していきたいと心から思わせてくれる。最初は海洋プラスチックゴミを10%配合と聞いて、たったそれだけかよっ!!新しい原料を90%も使ってるじゃないかっ!!と思ったけど、そうじゃなかった。『製品に対する愛』『企業としての想いや歴史、責任』があるからこその選択なんだと思った。」

こちらから何も話をしていないのに、ここまで理解し、来島する方に事例として紹介いただける事は本当に嬉しい思いでいっぱいです。
確かに、含有率10%というのは決して、多い訳ではありません。
しかし、堂々と説明し、含有率の多寡ではなく「そもそもどうしたらこうならないか?」根本から解決していく事が本当に大切だと考えています。

一方でショッキングなデータもありました。
私たちがメインで削減している漂着海洋ポリタンクですが、枚挙に遑がない為、年間漂着量は仮説のデータでしたが、無理を言ってCAPPAさんに年間の漂着量を1年間調査していただきました。
仮説データでは年間2,000個〜3,000個でしたが、実際の調査量はなんと年間『40,000個』という膨大な結果となりました。
ゴミの漂着量も残念ながら年々増えてきており、回収できない崖や砂浜も徐々に埋め尽くされてきています。
悲しい気持ちを胸にCAPPAさんの事務所を後にしました。

余談ですが、状況は良くなっているであろう甘い期待と、対馬市の皆様から感謝され調子に乗ってバス移動している私がこちらです。

「傲慢な人間は他人の意見に耳を傾けない。自信のある人間は異論を歓迎し、素直に耳を傾ける勇気を持っている」byジャックウェルチ(誰)

2.ビーチクリーン活動

「少しは良い風に変わっているかもしれない。」
そんな期待を胸に、対馬市へ訪問しました。しかし、現実はそんなに甘くはありませんでした。
寧ろ、年々そのひどさは増すばかり。
辛酸をなめる思いで次の目的である、クジカ浜へ到着しました。
ここでパタゴニア日本支社メンバーと合流し、清掃活動を行いました。
この活動では対馬に漂着した海洋ゴミを配合したバスケットにて回収しました。パタゴニア日本支社、韓国支社はこの清掃活動の為に、対馬へ来島されました。

クジカ浜の様子
対馬オーシャンバスケットを使い、ゴミを回収する様子
パタゴニア日本支社長 マーティ・ポンフレー氏
クジカ浜は、地上との高低差が非常に大きく、クレーン車や機械搬入ができず、人海戦術依存となる為、回収作業に困難を極める。私たちの数日前に同市の学生がボランティアに訪れたそう。

拾っても拾ってもキリがありません。
特にこの暑い時期には異臭、虫、危険物(薬品、注射器等)がぐちゃぐちゃに混ざり合い、回収が思うように進みません。
通年で5分の1程しか回収しきれていない現実がそこにあります。
清掃活動を終え、ゴミを持ちながら坂を登っていく事は本当に大変でした。
ボランティアの皆様には本当に感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございます。

追記:2024年夏に佐渡島市より招待を受け、清掃活動及び、行政との打ち合わせに行ってきました。
佐渡ヶ島でも、対馬と同様に海底掃除にも対馬バスケットが使用されておりました。
佐渡島も非常に悩ましい問題です、なんとか解決を図りたいです。

海底清掃に使用されている様子
佐渡ヶ島でのビーチクリーン

3.クリーンセンター

ただ悪い事ばかりでなく、確実に変化が起きていました。
クリーンセンターは、海ゴミ回収作業後に輸送され、保管されている場所です。
2年前はとりあえず回収したものを一元管理している状況で分別管理等は充分にできていませんでした。
これができなければ、企業はプラスチックの種類や、まとまった色等で引き取る事ができなくなり、参入障壁が高くなります。
漂着した海洋ゴミを企業が触れない大きな要因の1つです。
プラスチックリサイクルのジレンマについては①のnoteをご一読ください。
対馬市全体がプラスチックと向き合い、知識をつける事によって、分別管理が綺麗にできている状態まで変化していました。

この大きな変化は希望の兆しで、この途方もない問題の解決への一歩を大きく踏み出せたのではないかと思っています。
海洋ゴミは今までずっと研究が進んできましたが、一向に解決の糸口が見えてきませんでした。
その理由として
・使用用途、素材が漂着過程のダメージにより把握、分別できない
・同じ素材や色等の量がまとまらない(プラスチックリサイクルの原則に反する)
・ビジネスとしてスケールメリットを出せない(企業が手を出せない)
・使用するにあたって、使用機材、成形機、金型等の破損のリスクがある
上記だけでは書ききれない理由から、一向に解決の糸口が見えてきませんでした。

それを本気で解決しようと、企業、自治体、行政、消費者と一体となって正しく向き合う事で解決困難な問題を解決できる可能性を示せたのではないかと思います。

以上が、対馬市での工程でした。
リングスターの取り組みの後、数々のプロジェクトが商品化されました。
また大手の会社さんが対馬市の問題解決に向けて動いたと聞いています。
ただやはり、品質管理のジレンマで思うように進まないのが現実です。
大手企業が参入する事で一気に削減できるのですが、資本主義構造やステイクホルダーへの責任もある以上、なかなか進まないのが現実です。
私たち中小企業が全力で安全性や前例を作っていく事で、進む事を願っております。
最後にリングスターのこれまでの活動や今後について書かせていただきます。

余談ですが、晩の懇親会で4次会までカラオケで踊っていた私がこちらです。

「傲慢な人間は他人の意見に耳を傾けない。自信のある人間は異論を歓…

4.リングスターの今後について

私たちの今後の活動について書かせていただきます。
やはり、私たちがどれだけゴミを削減しても、元を絶たない限りは解決はできません。寧ろ、このままのペースでは現状維持もままならないでしょう。
本取り組みを開始してから、さまざまな出来事がありました。

■ローカル・ブルー・オーシャン・ビジョン
※海洋ごみの回収・発生抑制の実効性を高めるため、自治体と企業等の連携による自走性のある取組の実証を支援し、広く展開することを目的とした環境省の事業

生駒市と対馬市とリングスターの共同申請によって採択され、教育パッケージを展開できる事になりました。

この事業は「そもそもゴミが流れつかない世界」を作る必要があります。
それは”脱プラスチック”では到底解決なんでできません。ここは断言します。
プラスチックの特性を知った上で、今あるこの素材と人類がどう向き合っていくかを考える事が大切です。
それを今、地域の小中高に赴き、プラスチックについての授業を行なっております。

生駒市役所、対馬市役所、教育プランナー尾崎えり子さんと教育パッケージの打ち合わせ
鹿の台中学校
光明中学校 職業体験 面接編
光明中学校 職業体験プレゼンテーション編
※掲載確認済
プレゼンを聞くアウトドアショップ『orange』の山本統括MD
生駒台小学校
腕相撲絶対負けてあげないジャックウェルチ

ローカル・ブルー・オーシャン・ビジョンの1年ゴール設定にて、本年のゴールは「オンラインで交流した生駒市と対馬市の子供たちが大阪万博で海洋ゴミについて考える」時間を作る事です。
現在、学校への訪問回数は6回(今期は10回予定)
大阪万博でも大きくこの事業は絡んでいますので、時期が来れば、お知らせさせてください。

■ワークショップ
子供たちに、紙芝居にて対馬の現状を伝え、対馬オーシャンプラスチックで製作した自分達のケースとして完成させるプロジェクトです。

目の前のゴミを削減しつつ、長期的な目線で、子供たちにプラスチックや消費の大切さを考えてもらう重要なプロジェクトです。
生駒市にある『まほうのだがしやチロル堂』様とも共同でお祭りを開催しまし400人近くの子供達がこのケースを制作しました。

行動変容
【良かった点】
物流センターの主任が「小さくてもできる事から」と、自販機の横に分別ボックスを設置しました。
【ペットボトルのキャップを外す、ラベルを剥がす、中身を濯いで捨てる】
本当に小さな事です。究極いえば、やらなくても業者の方がやっていただけます。(厳密に言うと液残存はやめてね)
しかし、この行動と思いやりや愛情が世の中を変えるきっかけになると信じてます。
いつだって世の中を変えてきたのは小さな正義です。
その愛情を受け取った人は、自分の仕事に自信や誇りを芽生えさせます。
そうやって、自信が溢れた人が長期的に、他人を思いやる事ができます。
そうやって愛情が広がっていくと
「分別してくれたので時間を作れた、+αの仕事をしてみよう」
「もっと喜ばせる仕事ができるのではないか」
「分別の御礼を伝えてみよう」

そういった、他人への想いやりが次々と伝播していきます。
この循環が世の中を良くしていくと信じています。
最初はめんどくさくて、そのまま捨ててた社員も、皆が続けるのを見て分別するようにやりました。
やってみると意外と気持ちがよかったらしく、これも大切な一歩だと思います。

【悪かった点】
この事業をしていると綺麗事と揶揄される事も多くあります。
「対馬から船でゴミを船で運んでCO2排出してますよね」
「これで利益を取っているなんて、偽善ですよね」
「流してきた国に報復すればいいのに」
こういった言葉をよく浴びせされます。仕方ないです、社内でも飛び交った程です。
彼らも生まれた時からこのような考え方を持ってこの世に生を授かった訳がありません、きっとどこかで自信を失ってしまい、他人を攻撃する事で自分を守っているのだと思います。
社会的システムや環境が良くないですね。
もちろん彼等にも努力は必要ですが、私は同じ高みを目指せるように向き合い続けたいです。
この揶揄に対しては以下のように回答してます。
「確かにCO2を排出しながら海で運んでますが、私たちが遠い島国でゴミが埋立されている事を知って何か行動変容が起きてきたのか」
「利益の享受なしでこの事業を永年続ける事ができるのか?それで体力が尽き、事業を放棄する事こと自体、綺麗事になってしまわないか」
リサイクルされずに、埋立されてきた海洋ゴミですから、過去noteに書いたようにリサイクルコストは非常に高いです。
その価格差を納得して導入してくれるお店さんは本当にわずかです。
しかし、取り組みに共感していただき、導入していたただくお店は徐々に増えてきています、本当にありがとうございます。
販売店リストは弊社公式ホームページにて公開しています。

ただ、やはり数多商談をしてきましたが、けんもほろろな反応が圧倒的に多かったです。
経営幹部はサステナビリティの一環で取り入れたい、バイヤーは現実的な商売としての壁があり責務として導入できない。ここで堂々巡りです。
ただ、確実に共感していただけるお店は存在していますし、私はこの事業である意味、本当に守り、残していかなければいけないお店が、たくさんある事が再認識できました。

この事業で最も悲しい事は
『流してきた国に仕返しをしろ』等、攻撃的な発言を聞く時です。
日本のゴミもハワイ等、諸外国に流れ着きます。
どこの国が悪いとかの話ではないんです、みんなが力を合わせてこの問題を解決しないといけません。
寧ろ、韓国の学生さん方は対馬市の海岸で清掃活動などにきてくれています。攻撃的な発言をする人はなんと悲しく、視野の狭い事でしょう。
どの国にも「ゴミを拾う人、捨てる人」がいるんです。平均化して見る事を強く反論させていただきます。

子供たちが回収している様子

【今後について】
この原因療法は私の個人の結論として
企業の説明責任と消費者の選球眼
・応援、愛情、贈与の文化醸成
・100年構想

これらを育む必要性があると考えます。

残念ながら、世の中で「解決がしやすく経済合理性の合う問題」はほとんど解決されました。(ありがとうございます)
今残っている問題の多くは「解決が困難で経済合理性が合わない問題」となります。
SDGsはもちろん大切な指標である一方で、資本主義に無理矢理に取り入れると本来のゴールである「誰一人取り残さない世界」とは逆の原理が働くと考えます。響きの良い、解決しやすい課題の奪い合いです。
経済合理性が高い、企業イメージの向上、ESG投資、ステークホルダーへの説明、それらを得る為に広告やマーケティングによって、消費者は大切な情報が見えなくなり、本当に助けを求めている人達は声すら聞こえない状態となっています。
非常に難しい問題ではありますが、これらの流れを止め、企業が本来の目的を今一度思い出し、本気で取り組まないといけません。
残念ながら、世の中のルールは企業にとって都合の良いものが多いです。
曖昧かつ広義な定義、ルール設定で消費者に正しい情報が降りにくくなっています。
だから、私達がこの事業で率先し、説明責任を果たし、発信し、様々は人を巻き込み
企業には「本来仕事とは何の為にあったのか?」
消費者には、「正しく選ぶ、捨てる、向き合うとは何か?」
を今一度、考えてもらうきっかけになればと思っています。

最終的には「人として愛のある消費ができるかどうか」ここに帰結すると考えます。
今の世の中は【安価、便利、機能的】なものが溢れています。
誰かの幸せを願い、一生懸命汗水流して造られた製品が、半年もせぬ間に、廉価なコピー品ができます。
それを二次創造と済ませてよいのでしょうか?
創造者と模倣者は能力が全く違います。
廉価コピーを選択し続けると、創造者は生まれてこなくなり、世の中の為の素晴らしい製品はなくなっていきます。
10回に1回でもいいです、広告やSNS、レビューに迷う事なく、自分の頭で考え、
「私はこの企業に共感するので、応援したい」
「この素晴らしい製品(サービス)を作る創造者たる企業を次世代にも残したい」
「仲間だからこそ、安くしてもらうのではなく定価で購入させてもらおう」
そうやって、消費者としての選球眼、応援、愛情、贈与的経済を少しずつでも確実に育み、醸成させていく。
そして、創造者も甘える事なく、日々研鑽し、関る全ての事業者や人々を輝かせ、誇りのある仕事ができるよう、彼らと共に世の中に出る。

この【贈与的・愛情的・応援的】な心の持ち方、消費の仕方で、世の中の様々な問題を解決していくと信じています。
海洋プラスチックだけではありません、森羅万象、海も山も全て繋がっています。
対馬では猪と鹿が増え続け、山の下草を食べ、海の砂漠化や農業被害など獣害もでています。これは人間が恣意的かつ、都合がいい方に生態系を壊し、他生物への思いやりを欠いた結果です。
どんな企業も、関係ないなんて絶対にないです。
自社の強みを活かして、各々が得意分野にて解決を図っていく、それを皆が正解に近づけるように努力をする事が大事なのではないでしょうか。

山への取り組みもこれからリングスターは始めます。海洋ゴミでだけで解決はできません。皆、一人一人が真剣に考え、未来の為に企業として、個人として行動していく必要があります。
今、動かないと本当に手遅れになるのは皆、わかっているはずです。
100年後の子供たちが、昭和、平成、令和の時代の大人達を誇ってくれるような、そんな時代を夢みて、生涯かけて取り組んでまりいます。
山の問題は間も無く開始できますので、また別noteにてご案内させていただきます。

山の問題への打ち合わせの様子

私の行動指針は「ひ孫が誇れる行動を成す」です。
自分の幸せ、子供の幸せ、孫の幸せは身近なので考える事は容易です。
けど、ひ孫はどうでしょうか、もちろん会う人もいるかもしれませんが、基本的には少し遠い存在です。
だから、100年後の子供たちを想う行動を全員ができれば、いつでも愛情のある豊かな世の中が循環していくと信じているからです。
皆で一緒に胸を張って、誇れる仕事をしていきましょう!!
最後までお読みいただきありがとうございました。皆様に愛が溢れる事を心から願っています。

最後に対馬の写真を皆様に見ていただき、ここで終わります。

あなごカツ
ジャックウェルチも舌鼓
ジャックウェルチ天昇

                    株式会社リングスター 唐金祐太

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