急勾配な階段を登ったら
東京のある街の裏路地。
コンビニとイタリアンの境に生えている急勾配な階段を登る途中、換気扇から強烈なオリーブオイルの臭いが鼻にこびりついた。
後追いの揚げ物の臭いからは逃げるように、僕は上へ、上へと段飛ばしで登っていく。
捨てられた空き缶はラッパーのMVみたいに気だるそうに項垂れていて、この街の縮図のように見える。
最上段まで到達すると人がいないことを確認し、悪いことのようにマスクを外す。
無意識のうちに息を止めていたから余計に多くの酸素が必要だった。
階段の根っこのコンビニで買った中硬水をごくり、ごくりと喉越しよく流し込む。この歳にもなってまだ僕は軟水と中硬水の違いがよく分かっていない。今日はなんとなく陳列棚の奥にあった方を取ったに過ぎない。
きっとこんな奴は格付けチェックをしても順当に姿を薄めていくだけだろう。
呼吸が落ち着いて周りを見渡す余裕が生まれてくると、
電線に囲まれた奥から浮かぶ橙色の夕景が目を染めた。
そこは都会を見渡すには絶好のスポットではないが人は少なく、ぼんやりと電車の音が聴こえてなんとも居心地が良かった。ベンチでもあったらそこでぼーっとしたいほどのスポット。
たぶん何かに導かれて僕は階段を登ったのかもしれない。
最近は日が暮れるまでが早まっているように感じる。
見れる日はなるべくこの夕景を捕まえたい。
そんなことを思いながら、
僕はまたよく分かっていない水を飲み込んだ。
おわり