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保育園の年末大掃除(先生視点エピローグ)


 冬の雲ひとつない快晴の中、私はいつもの道を歩いて保育園に出勤した。
 保育園の門をくぐって扉を開けると、そこはいつも通り朝の保育園だった。

「おはようございますー」

 職員室の扉を開けると、そこにはクリスマスを終えて片付ける最中の飾りと、新年を迎えるにあたって飾る予定のものが重なって置いてあり、入り口付近は踏み場もないほどだった。

「ごめーん、結構散らかしてるわー」

 園長の◻︎◻︎先生が奥の机に座りながら申し訳なさそうにそう言った。
 昨日までの保育園は怒涛のような毎日だった。学芸会が終わったと思えばクリスマスの準備と毎日が非日常の連続で、まさに多忙な毎日だった。ただ、今日からはクリスマスの片付けと新年の準備をするだけで保育園は休みに入る。今日も通常クラスは休みで特別クラスのみなため、園児の数も少なくいつもよりは楽だと思える日だった。

 「先生!おはよー!」
 次々と今日来る予定の子達が登園し、登園時間も終わりに迫った頃、いつも遅刻寸前でくる親子も来たようだった。

「おはよー、ゆうくん。今日も寒いねー」

「おはようございます!でも平気!」

 元気よくゆうくんは靴を脱ぎ捨てると、駆け足で保育室までの階段を上がっていった。
 年少クラスの中でもはなちゃんと並んで最も長くこの保育園に通っている子の1人であるゆうくんは、いつも私が掃除機をかけるのをじっと見ている不思議な子だ。まだまともに歩けるようになる前から掃除機をかけていると後をついてくるような子で、どの先生がやっていても昔はついてきていたが、最近は私の時に特に必死についてくる様子で、保育室の掃除が終わっても階段を降りてついてくるくらいに掃除機がけが好きな子供だった。親御さんにそのことを話すと、家でも掃除機は好きということだったが、ここまでではないということだった。
 私はそんなことを思い出しながらも、朝の会のための準備を始めることにした。

 今日は終業式を終えた後ということもあり、特に園全体でやることはなく、登園してきた子と一緒に遊ぶだけだった。難なく午後のクラスも終わりいつも通りお昼寝の後のおやつタイムになった。今日はいつもよりだいぶ人数が少ない分、みんな一人一人の眠そうな顔をくまなく見ることができた。やっぱり、自分よりも大きなふとんを運ぶ姿はすごくかわいいものがある。そう感じながらも、私は給食室から運ばれてきたおやつのクッキーとジュースを準備していた。

 みんながおやつを食べている間、私はその後の掃除の準備に移る。消毒のスプレーと雑巾をとってくると、みんなからは届かない高さの場所に置いておく。その後は掃除機を持ってきてコードを伸ばし、コンセントにプラグを差し込んだ。
 と、その時不意にこちらに視線を感じたのでその方向を見ると、やっぱりいつも通りゆうくんがおやつのクッキーをポロポロとこぼしながらじっとこちらを見ていた。その目は間違いなく、私が引っ張るコードに向いていた。

(気になってるな)

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