Youtubeチャンネルの文字起こしが著作権侵害になるのか

飯山陽氏のYoutubeチャンネルでの発言内容を文字起こししていたTwitterアカウント(文字起こし班氏)について、飯山氏がライブ配信で著作権侵害だと主張していた。さて、これは本当にそうなのか、考えてみる。
飯山氏の動画の該当部分(4分30秒過ぎから15分頃まで)の文字起こしは以下の通りである。手元で短時間で起こしたものなので細かいところで正確に起こせていないものがあるかもしれないがご容赦いただきたい。

(以下引用。太字部分は引用時に加工した。※は注釈として追加。)

今日はですよ、これは法的事案じゃないすかちゅう話ね。これも嫌な話でしょこれね。あのね。旧ツイッターね。旧ツイッターのXっていうところに、あのね、文字起こし班ちゅうアカウントが、すいません最初からずっと繰り返してますけど、だから皆さんがね、いやこれいかりちゃんの著作権侵害だし。ちゅうかこのまさにYoutubeのいかりチャンネルの権利を侵害してるわけですよ。いかりちゃんねるの著作権はいかりちゃんにあるので、つまりいかりちゃんの著作権を侵害してんすけど。こういう輩がね、X上で跋扈しておるんですよ。いやね、どういうのは、これね、こういう文字起こし、文字起こし班ちゅうアカウントそのまんまやん、ちゅうてね。そういうアカウントがね、いるんですよね。この文字起こし班っていうのは何をやってるかっていうとYouTubeのいかりちゃんねるを全部文字起こしして。ちょっと待って、見せる。見せるからちょっと待って。全部お見せしますよね。

いつからかな。見れば分かる。そこで見れば。全員で文字起こししてそれをね、ブログに、PC付けて全部文字起こしして、一言一句よ、全部文字起こしして、それをね、いつからやってんだろ。それをねブログに文字起こしを全部アップして、それをねXでシェアして、それを拡散してるわけや。X上でね。それはばーってずっとやってるわけでね、例えば、それをねいかりちゃんねはっきり言って、全部プリントアウトしました。見てくださいほら。全部、全部全部プリントアウトしました。つまりこれはね、この文字起こし班、これ文字起こし班って複数いるんだって。だって自分で言ってるから。1人じゃないって。仲間がいるって。てわけで何人いるかわかんないけど。とにかく1人じゃなく複数おるって。複数おる人間が文字起こし班なるアカウントを使って、このいかりちゃんのいかりちゃんねるを文字起こししたものを、拡散してるわけ。世界に向けて大拡散してるわけ。
で、これもひどい。例えば12月29日。これ全部あるから。いかりちゃんねるとか書いてて。これにいかりちゃんのねYouTubeをここに貼って、それでね、タイトルって。見て。これ。「冒頭挨拶約20秒 省略」つまりこれ「いかりちゃんでーす」というところを省略してるわけ。でね。こうやって書いてる。「0:25」。PC持ってる。

(以下引用されている箇所を読み上げているが省略)

全部文字起こし。一言一句文字起こししてる。全部ですよ。全部。異常。これ全部プリントアウトしたわけ。これね、警察に届け出す際も裁判する際も、物証というのは必要なんですね。これ物証です。これは。全部印刷しました。どるるるって全部印刷した、はい。
だってこれいかりちゃんの著作権侵害しとるんでしょ。でね。あの著作権ていうと、いかりちゃん本も出していますけど、著作っていうとね、本、文字をね、イメージする方が多いと思うんです。けれども、著作物っていうね、これは公益財団法人著作権情報センターっていうのがあるんですね。ここに行くとその著作権についていろいろ教えてくださるんですけれども、著作物っていうのは思想または感情を創作的に表現したものなので、これは文章だけではないんですね。例えば、YouTubeもそうなんです。いかりちゃんの場合は特にそうです。あるいはほら、音楽とか映像とかそういったものも著作物であるということは皆さん良―くわかっておりますよね。はいはい。そしてあの著作物の権利っていうのは、著作者が、持っておるんですね。はいですから、その著作者の許可を得ず、その著作物を勝手に複製したり、あるいは勝手に別の形に置き換えると、別の形に置き換えるっていうのは例えば具体的には、この人がやってるように、YouTubeのいかりチャンネルという映像番組を文字の形に勝手に置き換える、これはですよ。著作権の侵害なんです(※1)。なんかね、この人よく理解してないみたいなんですけどね。はい、そうなんですよ。皆さんよく知っておいてくださいね。いかりちゃんはね、このね、文字起こし班っていうやつをね、あの見つけたときにね、これはいつからやってんだろ、いつからやってんのかわかんないんだけども、いつからかやってるわけですよ文字起こしっていうのをね。いかりちゃんのYouTubeをね、全部文字起こしして、ブログにアップして、それをXで拡散するっていうずっとやっていたとね。これが気づいたときに、いかりちゃんはこういう忠告をしたんですね、この文字起こし班にね。YouTubeの文字起こしは違法です。文字起こし班なるアカウントの所有者は、私のYouTubeチャンネルいかりチャンネルの番組を私の許可なく勝手に文字起こしして公表することで、私の著作権を侵害しています。すぐに削除し2度と繰り返さないでください(※2)。というふうに丁寧なね、通告をお出ししたんですよ。このね、この文字起こし隊なるものに対してね。そしたらですよ。この人はですよ。それから1日経ってからね、

こういうねポストしたわけ。「文字起こしについては責任者は私であり、池内先生は、無関係です。」これ誰か聞いたのね。「著作者の飯山さんより削除要請がありましたので、削除に向けて現在、お仲間の方と話し合いしています。お静かにお願いします。」さっきいかりちゃんこのアカウント見たら、まだこのままなわけ。お前だってこれ、削除要請いかりちゃんが出したのいつ。13日でもう2日経ってるの。2日経ったけど、未だに現在削除に向けて、お仲間の方と話をしてるわけ。お静かにお願いします。はい。黙れっつってるわけ。お前、お静かにしますって。お仲間の方と話し合うも何も、あんただって自分で何やってんのか、自分で自分が何やってんのか知ってんでしょ。しかもいかりちゃんが削除しろっていってんのに、現在話をしていますって。あるいはねこの人こういうことを言ってるわけ。「利益は1円も得ていません。(※3)」そんなの聞いてないわけ。いやいや利益を得ようが得まいがあんたがいかりちゃんの著作権を侵害して、いかりチャンネルを勝手に文字起こししてブログにアップして、それをXで拡散していること自体が、いかりちゃんの著作権を侵害してるって言ってんの。つうのにこの人は「利益を1円も得ていません」とかっつって、開き直って、でね、こういうことを言ってるわけ。動画リンクを張ってくださいと書いてあるのは、見なくても済んだという方を出せば、飯山さんの権利を侵害することになるという考えです。同じ意味で全ての記事には動画リンクがあり、発話ごとの時間も細かく書いてあります(※4)。それでも飯山さんが自分の権利侵害とお考えにあるのであればどうのこうのと書いてあるわけ。

だから自分は、いかりちゃんの権利を侵害してないって言ってるわけよ。だって利益を得てないもん、だって動画にリンク貼ってるもん、侵害してないもんって言ってるわけ。いや、あんたね、根本的に間違ってる。あんたね、何が違法か、違法じゃないか、判断するのはあんたじゃないからっていう話なんですよ。日本には法律がある。そこで、法の専門家が判断するんですよ(※5)、あんたじゃないんすよ。私のやってることは違法じゃない。適法なんだってあんた盛んに言ってっけどね。そりゃあんたが判断するんじゃないんだよっちゅう話なんですよ。

ふざけてるんですよ。子供なんですよ。完全に。なめてる。だってちゃんと合法的にやってるもん。一円ももらってないもん。動画張ってるもんって、いや、はあちゅう感じなんですね。なんですかっていう話ですよ。こうしてどわーって文字起こししたと見せた所、すごくないっすか。これ。

(引用終わり。飯山氏の発言に突っ込みどころが多かったので動画一本分全て文字起こしして色々突っ込もうかと思ったが、作業量があまりに多くなるので断念した。。。文字起こし班氏は偉大である。)

上記を要約すると、飯山氏の立場としては、①Youtubeの文字起こしは著作権侵害で違法である(※1)、②したがって文字起こしは至急削除すべきである(※2)、③文字起こし班が利益を得ているか否かは著作権侵害の成否とは関係ない(※3)、④文字起こし記事において動画へのリンクを貼ったり発話時刻を引用することも著作権侵害の成否とは関係ない(※4)、⑤判断するのは法の専門家である(※5)、ということのようである。

これについて、飯山氏の発言の問題点は以下の通りとなる。

まず、※1について。
著作物性の有無においては思想・感情が表現されているか否かが問題となり、思想性の高低は問題にならないから、飯山氏のYoutube動画は著作物になる。したがって、その文字起こし(無断複製)が原則として著作権侵害になる。これが出発点である。
ただし、何らかの著作権の制限規定に該当する場合は侵害にはならない。いかりちゃんねるについては、文字起こしを見た池内恵教授が「目を覆わんばかりの中傷の連続」と評したように、他者への誹謗中傷にあたる発言が多いと指摘されており、文字起こし班氏が文字起こしを作成・公表したのも、誹謗中傷表現の存在を知らしめるためであると考えられる。この場合、批評目的の引用(著作権法32条1項)に該当すれば、飯山氏の著作権は制限されて文字起こし行為は違法とならない。
なお、些細な話だが、飯山氏は、著作物を「別の形に置き換え」られたと主張しているので、翻案権侵害の主張をしていると思われる。だが、機械的な文字起こしには創作の入る余地がないので、二次的著作物の作成(翻案)ではなく、単純な複製の議論になる可能性が高いので、備忘のためことを指摘しておく。

上記を前提にすると、※2文字起こしが至急削除されるべきかどうかは、結局のところ文字起こしが引用として許容されるかどうかにかかる。
これについては先例も乏しくクリアな判断は難しいだろう。公正とされる慣行がある分野であれば判断しやすいが、Youtubeの動画配信が他者への誹謗中傷に該当するかどうかの批評目的での引用については先例は乏しい。通常であれば著作物全部の機械的な引用は公正目的が否定される方向となるだろうが、いかりちゃんねるの場合は台本のない動画配信なので、全文を読んで文脈を見ていかないと誹謗中傷かどうかの批判は困難であり、例外的に全文の引用も許容される可能性があるように感じる。

そうなってくると、※3営利性の有無や、※4元動画へのリンクやタイムスタンプの表記についても無意味とは言えない。なぜなら、これらは適法引用かどうかを判断する要素となるからである。営利性がないことは批評目的での引用であることを示すし、元動画へのリンクやタイムスタンプの表記は引用であることを明確にして適法引用であることを示す要素になるからである。飯山氏はこれらについて著作権侵害の成否とは関係がないと言い張っているようだが、そんなことはない。
また、※3営利性についてはもう一つの要素があり、仮に本件が著作権侵害と判断された場合に損害賠償が認められるかどうかの問題である。Youtube動画はストリーム型で著作権法114条1項の損害推定が使えないため、著作権法114条2項で損害額を推定できるかどうかが問題になるが、営利性がなければ同項によって推定される損害額もゼロとなる。つまり、損害賠償請求がされた場合には賠償義務を否定する方向に働く。

最後に、※5著作権侵害の成否を判断するのは法の専門家であるという点だが、これはまさにその通りである。いかりちゃんねるの文字起こしは著作権侵害に該当する可能性があるが、先例のない事案であり裁判所がどのような判断を示すのかは分からない(かつ、上記の通り114条1項/2項で推定される損害も生じていないように思われるので、著作権侵害状態が継続したとしても損害額には影響しない可能性もある)ことから、文字起こしをアップロードした者(文字起こし班氏に限らない)としては、裁判所による判断が示されるまではひとまず文字起こしを公表し続けるという判断もできるだろう。

ということをつらつらと考えた。なお、この投稿は池内教授とも文字起こし班氏とも無関係な第三者によるものである。

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