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上司・部下の心理的距離を縮めるマネジメント会話術

1. はじめに

ピラミッド型の組織では、どうしても上司と部下の距離が大きくなりがちです。しかし、近年のビジネスシーンでは組織のフラット化や自律的なチーム運営が求められており、昔ながらの“一方的な指示”スタイルだけでは部下のモチベーション維持が難しくなっています。

そこで注目されるのが「心理的距離を縮めるマネジメント会話術」です。実際、Gallupの調査(2021年)によると、日本における従業員エンゲージメント率はわずか30%台にとどまっており、上司と部下の円滑なコミュニケーション不足が要因のひとつと指摘されています。(出典:Gallup “State of the Global Workplace 2021”)

本記事では、ピラミッド型組織におけるモチベーションアップの具体的な方法や、定期面談・1on1で活かせるフィードバック法について、第三者データを交えながら解説します。


2. ピラミッド型組織における心理的距離とは


組織内コミュニケーションの課題

2.1 上司の権威と部下の遠慮

ピラミッド型の組織では、権限が上位から下位へと流れる構造が明確です。上司は指揮命令系統の頂点に位置するため、部下から見ると“高い位置”にいて気軽に話しづらいと感じられがちです。

この意識の差が「心理的距離」を生む一因となります。2019年に実施された経済産業省の調査でも、若手社員が抱える職場不満の上位に「上司に相談しづらい」「自分の意見を言っても反映されない」などが挙げられており、権威勾配(上司と部下の立ち位置の差)がコミュニケーション阻害要因になると報告されています。(出典:経済産業省「若手社員のキャリア意識調査」2019年)

2.2 組織パフォーマンスへの影響

心理的距離が大きいと、コミュニケーションの量や質が低下しやすくなります。結果として、以下のような影響が懸念されます。

  • 些細な問題が放置され、大きなトラブルにつながる

  • 部下のモチベーションが下がり、離職率が上がる

  • イノベーションの種となるアイデアが共有されにくくなる

実際、Deloitteの2022年版「Global Human Capital Trends」によると、チーム内コミュニケーションの質が低い企業ほど、人材の定着率が悪化し、生産性も20%以上低下している可能性があると分析されています。(出典:Deloitte “Global Human Capital Trends 2022”)


3. 心理的距離を縮めるマネジメント会話術

3.1 親和的コミュニケーションの基本


親和的コミュニケーションを強化

上司と部下の心理的距離を縮めるためには、以下のような親和的コミュニケーションを意識しましょう。

  1. フィードバックのタイミングを早くする
    成果だけでなくプロセスにも目を向ける。部下が業務に取り組む段階で具体的なアドバイスや励ましを行う。

  2. 声かけの頻度を増やす
    ちょっとした会話や雑談など、部下の様子を気にかける回数を意図的に増やす。相手に対し「上司が自分を見てくれている」という安心感を与える。

  3. 相手の話を最後まで聴く姿勢
    上司側が“答え”を先回りして提示しない。部下の意見を一度受け止め、共感を示した上で見解を伝える。

3.2 ピラミッド型組織でも活きる“対等感”

ヒエラルキーが明確な組織でも、「対等な意見交換が可能」という雰囲気を醸成できれば、部下は心理的なハードルを感じにくくなります。2021年に実施されたMcKinseyのレポートでは、組織内の心理的安全性が高いチームほどイノベーション創出が活発で、業績に好影響をもたらすとされています。(出典:McKinsey & Company “Psychological Safety and Team Performance” 2021年)

具体的には、役職の上下ではなく、“業務目標の達成に向けたパートナー”という意識を共有するのがポイントとなります。


4. ピラミッド型組織でのモチベーションアップテクニック

4.1 ゴール設定を共有する


部下のエンゲージメントを高めるメカニズム

多くの企業では、組織全体や部門ごとにKPIや目標値が設定されています。しかし、それが部下の“自分事”になっているかは別問題。

  • 一緒に目標を設定する: 上司が一方的に決めた数値目標ではなく、部下と相談して実現可能なゴールを設定する。

  • 部分的な意思決定権を委譲する: やり方やスケジュールなど、部下が主体的に取り組める領域を増やすことで、当事者意識とモチベーションを高める。

研究者HackmanとOldhamのジョブ特性モデル(1980)によれば、タスクへの“自律性”が高いほど内発的動機づけが強まり、組織内パフォーマンスに好影響を与えると示されています。(出典:Hackman & Oldham, "Work Redesign", 1980)

4.2 成功事例の可視化


成功事例を共有

ピラミッド型組織では、下位から上位に成果やノウハウが上がりにくい構造もあります。その対策として、成功事例や学習したポイントを定期的に共有する仕組みが有効です。

  • 週次の朝礼やミーティングで事例共有

  • 社内SNSやチャットツールで小さな成功体験をすぐに報告

  • ロールモデルとなる人材を表彰し、組織内に“ロールモデルの成功体験”を循環させる

ある国内大手IT企業の事例(2022年、ITmedia掲載)では、週1回の定例会でメンバー各自が“先週の成功体験”を必ず報告する制度を導入した結果、部下同士の連携が強化され、年間離職率が5ポイント低下したと報告されています。(出典:ITmedia エグゼクティブ「社員エンゲージメント強化事例」2022年)

4.3 小さな“ありがとう”で信頼残高を貯める

モチベーションアップには、感謝の気持ちを明確に言葉にすることが大切です。特に上司の立場から部下に対して「〇〇をしてくれて助かった、ありがとう」と言うことで、部下の努力が認められたと感じられ、エンゲージメントが強化されます。

人材コンサルティング企業の調査(2020年)でも、「上司から感謝の言葉をもらえたときにモチベーションが上がる」と答えた従業員は全体の65%にのぼり、有形報酬(給与やボーナス)とは別の心理的リターンの重要性が示唆されています。(出典:人材コンサルティング国内大手「社員意識調査」2020年)


5. 定期面談や1on1でのフィードバック法

5.1 面談の前に“事前シート”を用意

通常の面談や1on1では、「何を話していいかわからない」という状態に陥る部下が少なくありません。そこで、あらかじめ質問や議題を記載した“事前シート”を用意しておきましょう。

  • 最近の成果や課題

  • 自分のキャリア目標

  • チームに対する提案や要望

部下側が自分の思考を整理した上で面談に臨むことで、より有意義なディスカッションが可能となります。さらに、Googleが公開している「re:Work」のガイドライン(2021年)でも、1on1の生産性を高めるために事前準備が重要だと明記されています。(出典:Google re:Work “One-on-one guidelines” 2021年)

5.2 フィードバックは「具体的」「前向き」「建設的」に

1on1でのフィードバックは、“一問一答”のような形ではなく、対話型で進めるのが望ましいです。以下の3つの要素を意識しましょう。

  1. 具体的: 「今回のプレゼンでは資料がわかりやすかった」など、抽象的な表現ではなく具体的に指摘する。

  2. 前向き: 改善点を指摘する場合でも、過去の失敗を責めるのではなく「こうすればもっと良くなる」という未来志向のフィードバックを心がける。

  3. 建設的: 問題があれば一緒に原因を分析し、再発防止策や次回のアクションプランを考える。

5.3 対話を深める「オープン・クエスチョン」

1on1では部下の意見や気持ちを引き出すことが目的のひとつ。

  • 「具体的にどう感じましたか?」

  • 「そのとき何が一番大変だと感じました?」

  • 「もし次に同じ状況があったら、どう行動すると思いますか?」

このようなオープン・クエスチョンを使い、部下が自分自身の経験を振り返り、主体的に話せる場を作りましょう。スタンフォード大学の組織行動学研究でも、従業員の自己認識とリフレクションを深めることでモチベーションが大幅に向上する傾向が確認されています。(出典:Stanford Graduate School of Business “Organizational Behavior Insights” 2020年)


6. まとめ:心理的距離の克服が組織を強くする


効率的な職場コミュニケーションの強化

ピラミッド型組織は指示系統がわかりやすいという利点がある一方、上司と部下の間に心理的な距離を生み出しやすい面があります。第三者の調査や研究結果からもわかるように、コミュニケーション不足が深刻化すると生産性や離職率の面で大きなマイナス要因となり得るのです。

  • 上司が積極的に声をかけ、部下が声を上げやすい環境を作る

  • 目標設定や意思決定に部下を巻き込み、当事者意識を高める

  • 定期面談・1on1では具体的かつ前向きなフィードバックを行う

これらを実践すれば、上司・部下間の信頼関係が深まり、組織全体のモチベーションアップにつながるでしょう。ピラミッド型のヒエラルキーはあっても、コミュニケーション面ではフラットに意見交換ができる土壌を作ることが、強い組織を育む近道といえます。


【参考文献・出典】

  • Gallup “State of the Global Workplace 2021”

  • 経済産業省「若手社員のキャリア意識調査」2019年

  • Deloitte “Global Human Capital Trends 2022”

  • McKinsey & Company “Psychological Safety and Team Performance” 2021年

  • Hackman & Oldham, "Work Redesign", 1980

  • ITmedia エグゼクティブ「社員エンゲージメント強化事例」2022年

  • 人材コンサルティング国内大手「社員意識調査」2020年

  • Google re:Work “One-on-one guidelines” 2021年

  • Stanford Graduate School of Business “Organizational Behavior Insights” 2020年

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南部湧祐
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