ユーススポーツ環境の改善を目指して④-Project Play
プロジェクトの概要
(picture from https://www.aspenprojectplay.org/)
アメリカ、ワシントンD.C.に拠点を置くthe Aspen Instituteによって2013年に始まったプロジェクトで、ユーススポーツに関する全国的な報告書の発行や、スポーツ環境の改善や生涯スポーツの普及に関する活動を、8つの戦略(The 8 Plays)を軸として積極的に展開しています。その8つの戦略は、下記の8つの障壁を乗り越えるために立てられたものです。
8つの障壁(THE 8 CHALLENGES)
1.Youth Sport is Organized By Adult:
大人によってコントロールされたユーススポーツ
2.Over-Structured Experiences:
構成され過ぎた環境
3.Sameness and Specialization:
(早期)単一・専門化
4.Rising Costs, Commitment:
高沸するコストと傾倒
5.Not Enough Place to Play:
遊ぶ場所・空間の制限
6.Too Much, Too Soon:
やりすぎ・早すぎ
7.Well-Meaning but Untrained Volunteers:
良い意図だが未熟なボランティア(コーチ)
8.Safety Concerns among Parents:
親からの安全面への心配
それぞれの障壁に対してのアプローチが、下記の8つの戦略です。
8つの戦略 (THE 8 PLAYS)
1.Ask Kids What They Want:
子供達の興味・関心を尊重する
2.Reintroduce Free Play:
自由な遊びの再評価と再導入する
3.Encourage Sport Sampling:
色々なスポーツを積極的に体験する
4.Revitalize In-Town Leagues:
地域リーグを再活性する
5.Think Small:
限られたスペースを有効利用する
6.Design for Development:
育成・発達を意識する
7.Train All Coaches:
全てのコーチに教育を施す
8.Emphasize Prevention:
怪我の予防に重点をおく
この8つの戦略は、一つずつ別の記事で紹介・説明していこうと思います。
保護者・コーチのための実践的な情報
上記の8つの戦略において、子供の運動環境に多大な影響を与える2つの存在である「親・保護者とコーチ」は大きなカギを握っています。Project Playは、親・保護者とコーチに向けた具体的なアドバイスと情報提供をホームページ上でも行っています。
親・保護者向けの情報は、下の動画やチェックリストを使った分かり易い形で提供しています(動画は別の記事にて要点を和訳したいと思います)。
コーチ向けの情報は、ユースアスリートを安全かつ支持的な環境の中で、社会・情緒・認知的側面を含め総合的に育むための”CALLS FOR COACHES”や、参考文献のリストが数ページに及ぶ”COACHING SOCIAL&EMOTIONAL SKILLS IN YOUTH SPORTS”など、体験や経験則ではない、学術的なアプローチをとっています。
活動の背景にある社会問題①子供の肥満増加
子供(2-19歳)の過体重と肥満の定義は、アメリカ疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention)による年齢と性別を考慮した体格指数(Body Mass Index)を用いた成長チャートを基準に以下のように行われています。
過体重(Overweight):成長チャートの上から5-15%
肥満(Obesity):成長チャートの上から5%以内
Project Playが立ち上げられた前年の2014年に発表された、2011-12年に行われた調査を元にした研究では、回答した3355人の子供達(2-19歳)のうち、31.8%が過体重もしくは肥満と報告されています(Ogden et al., 2014)。
*回答者を人種別に確認したところ、ヒスパニック系が3割強・黒人が3割・白人が2割強でした。U.S. Census Bureauによると2010年のアメリカの総人口における各人種の割合が順に16.3%、12.2%、63.7%であることを参考までに記しておきます。
活動の背景にある社会問題②身体活動量の低下
アメリカスポーツ医学会は、汗をかき、息や心拍数が上がる強度の身体運動をほぼ毎日、60分以上行う事を推奨しています。しかし、2018年にNationwide Children’s Hospitalが行った調査によると、5-18歳の子供達の5%しか、この推奨されている運動量を満たしていないと報告されています。また、同研究ではまったく身体を動かしていない子供達が5%いる事も報告されています。身体活動量の低下は、子供の過体重・肥満増加の大きな理由となっています。
また、子供の時の身体運動経験は、大人になった時の運動習慣に繋がる事は観察研究でも報告されており、Project Playが提唱しているSport for All, Play for Life 実現の為には改善が急務といえる社会問題です。
活動の背景にある社会問題③チームスポーツへの参加率の低下
The Aspen Instituteの報告書によると、2008年から2013年の5年間で6歳から12歳の子供達のスポーツ離れが進んでいます。以下、スポーツ別の数字です。
バスケットボール:570万人→550万人、3.9%減
サッカー:560万人→500万人、10.7%減
陸上:84.7万人→73.1万人、13.7%減
野球:530万人→450万人、14.4%減
アメリカンフットボール:180万人→130万人、28.6%減
ソフトボール:130万人→86.2万人、31.3%減
合計で260万人の減少という報告です。
スポーツ大国と呼ばれるアメリカですが、ユーススポーツを取り巻く環境には多くの問題があることを示唆しています。
多様な組織との連携
上記の社会問題を背景として始まったProject Playの特徴として、大手企業・プロスポーツリーグ・協会など多様な組織とのネットワークがあります。Don’t Retire, Kidでは、スポーツ専門チャンネル最大大手ESPNとの共同作業が話題になりました。
2013年にProject Playが発足して7年が経とうとしていますが、前項の社会問題は今もまだ根強く残っています。そこで、活動を次のレベルに上げる為に着手したProject Play 2020では、プロスポーツリーグ(NBA、MLB、NHL)、Nike、amazon、といった計20企業・組織が、個別にではなく、協力して活動を展開しています。これだけ巨大・強力なネットワークはアメリカのスポーツシステムと運動環境に強い影響を与える可能性を秘めています。
まとめ
Project Playを紹介する記事でしたが、どのような感想を持ったでしょうか?社会問題に対し、全国的な調査でデータを収集し、戦略を立て、情報発信をして周囲を巻き込みながら行動に移し、再評価によって軌道修正を行う、という彼らのプロセスは、国や文化が異なっても見本にする事ができると思います。
この記事やトピックに興味を持ちましたら、「人生を通して運動・スポーツを楽しむために」をテーマに僕が運営するHP、TMG athletics x LTADにも是非お越しください。