ユーススポーツ環境の改善を目指して⑥-コーチング哲学
先生の言う事を、何も考えずただひたすら繰り返していて、気が付いたら(高校)日本一になっていた。だから、その過程で何を得たかとか、その後の人生にどう活かしているかとか聞かれても、何も答えられない。
日本に帰国してから、さまざまな人に会う機会に恵まれています。僕自身が学生だったころに、雑誌の中や観客席から観ていた選手達(元・含む)との交流もその一つです。毎日汗を流していた部活時代、そのトップに君臨していた彼・彼女らが見ていた世界というものに、強い関心を抱きます。
冒頭のコメントは、高校生の時に日本一になった元選手によるものです。彼は、そのチームのキャプテンでした。
当時と今は、違うのかもしれません。同じチーム内で多くを学んだ選手もいるかもしれません。しかし、多くの高校生たちが目指した山の頂点に立った彼の口から発せられた言葉は、聞き間違えたと本気で思ったほど衝撃的であり、また悲しくもありました。
競技スポーツを行う以上、勝利を目指す事は何の間違いではありません。しかし、ユース・学生スポーツにおいて指導者が一番重きを置くべきは、その過程で選手達が何を学ぶか、だと思います。子供達が自分達で考える機会を与えずに、決め事の遂行によって勝利を目指す指導は、指導者のエゴでしかありません。
前の記事で紹介したNBAのスーパースターKobe Bryantは、指導者が自分のエゴをユーススポーツの「公式」から除外する重要さをDon’t Retire, Kidsのインタビューで訴えています。
また、バスケットボールの最高峰NBAでコーチとして11度の優勝を誇るフィルジャクソンは、著書ELEVEN RINGS:The Soul of Success(イレブンリングス:勝利の神髄)に記しているように、以下のような哲学を持っていました。
・Lead from the inside out(内側からの導き)
・Bench the ego(エゴを横に置いておく)
・Let each player discover his own destiny(1人1人の運命を自分で発見させる)
・The key to success is compassion(思いやりが成功の鍵)
・Keep your eye on the spirit, not on the scoreboard(目を向けるべきはスコアボードではなく、自分の魂)
・When in doubt, do nothing (迷いがある時は、何もするな)
勝利の優先順位が最も高いと考えられるプロスポーツの世界で、です。
「子供達が過程はどうであれ”勝ち”を望んでいる」という意見もあるかもしれません。それが事実だとしても、その子供達はスポーツにおける”勝ち”以外の価値観を持っているのでしょうか?
他の価値観を持っている上で勝利だけを選んでいるのと、そうでないのでは大きな違いがあります。勝つこと”も”含めたスポーツの多様な価値を子供達に伝える事がユーススポーツにおいて重要視されるべきです。
伝統校や強豪クラブチームでは、コーチ・監督に対しても「勝ち」への重圧が、学校や地域からかかっているのかもしれません。仕事がかかっているのかもしれません。ですが、そこに子供達を巻き込んではいけないと強く思います。
あなたの子供の指導者は、どんな哲学を持っていますか?それを知らずに、知ろうとせずに大切な子供を預けていませんか。そのスポーツを良く知らないから、と及び腰になる必要はありません。フィルジャクソンの例が示すように、コーチング哲学は「信念」「行動原理」「価値観」から成るものであり、スポーツの専門知識は必要ないはずです。
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