ゼルダの伝説 知の試練はアクセシブルにできたか?
続編のティアーズオブザキングダムが待ち遠しい。先行プレイ動画を何回観たことか。ゴールデンウィークはこれで潰すと決めている。そのくらい楽しみだ。
さて、それにあたって任天堂がブレスオブザワイルドの「知の試練」という知識クイズがオンラインで開催された。連日の朝と夜の30分間だけ配信され、全国でランキングつける催しだ。開催自体は終了し、現在はアーカイブが残っている。
さてこのオンラインクイズ、プラットフォームはウェブで開催されたわけで、スマホ限定ではあったが、ブラウザで挑戦できるゲームとなっていた。つまり、技術的に自分の生業とするところである。
普段、ウェブアクセシビリティの専門家として仕事をしている関係で、やはりそのあたりが気にならなかったかというと嘘になる。「またいつもの専門家がマサカリを掲げてものを申すのだろう」と思われるのは、もう仕方ないことだし甘んじて受け止よう。
だがしかし!!この、ゼルダに関しては、もう本当にすごいゲームなので、マジでいろんな人にやって欲しいと思っていて、このゲームが『できない』人にも躊躇なく薦めることができたらどんなに嬉しいことか……!
そういうファンの推し活の戯言だと思っていただけると助かる。
知の試練
まず、そもそもゲームに限らずイベントやキャンペーン系のウェブページのアクセシビリティが惜しいのは毎度のことなので、正直にいうとスクリーンリーダーで操作できたらラッキーくらいの期待度で操作してみる。練習問題を画面キャプチャをしてみたのでYouTubeに上げた。
できる!操作はできた!次に進める!と、まあ初歩的なところだけど、ちゃんとインタラクティブ要素をおそらくbutton要素で実装しているのを確認できてちょっと安心している。世の中にはこれすらできないものも存在するからね。(※引用としてこの動画を掲載しますが、任天堂からの連絡があればこの動画は削除します。)
しかし、見てもらったらわかるとおり、それぞれの選択肢は「ボタン」としか読み上げられず、内容が視覚的にしかわからない。要するに代替テキストの不足なわけで、例えばアイテムがきちんと読み上げられれば、そのアイテムの性質を名前からヒントを得て答えられたかもしれないし、アイテム名も性質もバッチリ覚えていれば完璧に正解できたはずだ。
動画には収録していないが、音声からキャラクターを当てるクイズもある。本番の問題ではBGM当てもあった。これは聴覚でしかわからないものになってるので、こういった問題も一工夫できたかもしれないと考えると、とても惜しい。
ゲーム自体のアクセシビリティ
本編のNintendo Switchのゲーム自体のことも考えてみたい。
が、その前に少し前置きを。「結局元のゲームがアクセシブルじゃなければ、プラットフォームがウェブに移ったからアクセシビリティを気にしたって意味ないじゃないか」という意見があるかもしれない。一見その通り筋が通っていそうだが、実はそうでもない。たとえば2017年ブレスオブザワイルド発売当時からやり込んでプレイしていた人がいたとして、ここ数年で何かのきっかけでロービジョンないし全盲になってしまったとしよう。いわゆる中途失明というケースだ。5年以上経っても未だ根強い人気を誇るこのゲーム、続編の発売、そしてウェブのオンラインクイズ。その人がやりたいと思わないとでも?どう考えてもアクセシブルであったほうがいいに決まってるじゃないか。他には、先天全盲である人が見ているゲーム実況系YouTuberがたまたまゼルダをやっていて、プレイはできないかもしれないけど知識は抜群にある人がいたとしよう。この知の試練に参加したいと思うはずだし、ランキング上位の好成績を残す可能性だってある。そういった人がいる可能性を消してしまっているのがクイズ内容やインターフェイスのデザインと実装の問題だとしたらあまりにも悲しいと思わないか?
さて、ゲーム自体のアクセシビリティに触れていこう。まず、昨今のアクセシブルなゲームと比べてゼルダに足りない部分を挙げてみよう。
テキストおよび台詞の全読み上げ
ボタン配置変更
同時押しなど特殊コマンドのショーカット設定
配色、フォント変更、サイズなどインターフェイス変更
音声の代替エフェクトや音声解説
まあ、このあたりはラストオブアスなどのアクセシビリティが高いことで有名なゲームにもあって今更それらを解説する必要はないだろう。いかに世界観を壊さず、かつ世界観やゲームデザインにそれらを溶け込ませ、あたかも必然のように振る舞うシナリオとシステムの融合ができたら最高だが(カービィの生みの親、桜井政博さんもそれに近いことにこの間言及してた)、それはそれで任天堂なら近い将来やってくれると期待しつつ、それらはどうやって実現できるだろうか。
それを考えるにあたってヒントになったのは、まさに知の試練だ。たとえばアイテムの特徴の問題がある場合に、画像だけでなくアイテム名も記載したり代替テキストを用意すれば知の試練はアクセシブルになり得た。というのも、ゲーム本編ではアイテムには解説がテキストで用意されており、アイテムが画像だけに頼らないシステムになっている。つまり既にその点はアクセシブルで、解説が読み上げられさえすれば、視覚障害当事者でもアイテムとアイテムの特徴を覚えることができるわけだ。当たり前のようでいて、このあたりを意識的に紐づけることができるかどうかでデザインやコンテンツやシステムがアクセシブルになるかどうか変わってくる。
祠や設定したアイテムに近づくと反応するシーカーセンサー。あれもひとつアクセシブルになり得るシステムだ。しかし、さらにそれだけじゃなく、たとえばあれが拡張されて活用できるゲーム上のシナリオやサブゲームがあったとしたら面白い。現在の座標や、壁の位置、落とし穴の位置、敵との距離、そのあたりのセンサーやエコーロケーションのような振る舞いができれば、普段の行動にも応用できて遊べる人は増えるかもしれない。
空中で矢を引いた時に発生するスローモーション。集中モードのような機能でがんばりゲージと引き換えに、矢で射抜くアクションをより慎重に正確に時間をかけてできるようになるシステムだ。たとえば、これを平時にでもこのモードに入れるアイテムやシステムがあれば、操作に時間がかかるプレイヤーによりアクセシブルな戦闘を提供できる。がんばりゲージ引き換えに関していうと、イージーモードなどで「がんばりゲージ消費なし」みたいなシステムがあれば安心できる人は増えるかもしれない。戦闘の補助に関しては、次作のティアーズオブキングダムの「キースの目玉とスクラビルドした追跡矢」だったり「ケムリダケで敵から逃げる」みたいなアイテムによる工夫が一層強化されたので、遊べる人は実際に増えると思っている。こういった進化はおそらく狙ってやっているんだろう。
謎を解いた時の音、あれこそゼルダの伝説のゲームの象徴ともいうべきサウンドロゴだが、それの視覚的なエフェクトがあっても面白いかもしれない。ブレスオブザワイルドの祠攻略ではわりとわかりやすい視覚効果もあったので、既にそれは達成できているかもしれないが、たまに「あれ?今のでOKだったの?」ってタイミングで謎解き音が鳴ることがあったので、そういたったところも合わせて説得力が増す演出がされると世界観がより一層魅力的になるんじゃないだろうか。
最後に
自分はゲーム製作については門外漢で、本当にただ「もっとここがこうだったらいいのになあ」と拗ねるただのファンであるだけなんだけで、文句の内容がちょっとばかり自分の専門性が入っちゃっただけである。本当にただそれだけなんだ。別に任天堂のゲームはダメだとか、言いたいわけじゃないし、責めたいわけでもない。ただ、本当に面白いゲームだと思うし、いろんな人に『本当にいろんな人に』世界観やプレイの爽快感を味わってほしいと思っているだけだ。
「ゼルダやりました?!」とか「ゼルダ最高だよね!」とか、すべての知人友達に言いたいだけなんだよ。