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ポメラート展ふたたび

昨年の9月に表参道でのポメラート展について書いた。

この昨年の展示会の際に登録していたポメラートのLINEアカウント。そのLINEから今年も展示会があるとの案内が届いていた。今度は明治神宮前駅からすぐのjingが会場(公式サイトはこちら)。

昨年と同様に金曜日の仕事帰りに向かった。同行した同僚によれば、この会場ではわりと頻繁にいろんなブランドの展示会がおこなわれているらしい。わたしの通勤経路の反対側なのでまったく知らなかった。

原宿駅を降りてすぐ、日没後の暗がりに浮かぶPomellatoの文字が目にはいる。側面にまわると今回の見出し画像のように、街並みを模したチェーンのモチーフ。「ミラノから東京へ」のイベント名から、このチェーンで表現されているのはミラノか東京かその両方か、なんてことを考えながら入口へ。

展示されている作品は昨年のラインナップと似ていて、昨年観た展示の記憶が鮮明によみがえる。今回印象に残ったのはジュエリー作品よりも演出のほうだった。コーナーごとに個性あふれるインスタレーション。プロジェクションマッピングで空間全体が演出されている。

最初に案内された部屋に椅子が展示されていたのは意外だった。ほかのメゾンやブランドとも共通するような気がするけど、身につけるだけのジュエリーではなく生活空間で人生そのものを彩る存在としてのジュエリーを提案しているのだろう。そうそう、身につけるものの個性って服飾からライフスタイルまで共通しているものだよねぇ。

その椅子のある空間は1980年代ポストモダンの中心地ミラノを回顧するデザイン。椅子しか写真に撮らなかったけど、この上部にブランドのロゴがあり、まわりを「ヌード」ラインナップの色石が流れつづけている。

「プルーストの安楽椅子」レプリカ。解説によるとポール・シニャックの絵画から着想を得た点描デザインらしい。

空間全体にプロジェクションマッピングが映写されているのだけど、小窓のジュエリーにはプロジェクションがかからない仕組みになっている。この丁寧なこだわり演出がニクい。小窓のなかのジュエリーには空間演出とおなじように遊び心とエレガントさが同居している。

「ヌード」ラインナップの色石をあしらったアイテム。無色のトパーズとマザー・オブ・パール(貝殻)を合わせたものもあって、その発想がおもしろい。鑑別だと”ダブレット(張り合わせ石)”とされてしまうものなのだけど。

つぎにはポメラートの主要モチーフである大ぶりなチェーンを模した照明がぶら下がっている。照明器具のデザインとしてもインパクトがあるけど、こんな照明は見たことがない。インテリアとしても秀逸なデザインだと思った。けど、部屋全体を照らすほどの明るさはないので照明器具というよりはオブジェか。

暗闇に浮かぶチェーン照明。これってそれぞれの輪っかに電池が入ってるのかな。だとしたらやっぱり実用的ではないのかもしれない。中央のネックレスはチェーンの長さが調整できるつくりで、いろいろな使い方が想定されているのだろう。

チェーンの間を抜けると、壁に正方形の金箔が等間隔に並べられたトンネルのような廊下がつづく。金属を叩く音が響く演出で、なんらかの技術を見せてくれることを予感させる。

トンネルを抜けるとそこは雪国ではなく、職人さんの実演コーナーだった。実演は週末だけとのことで、このときは無人だった。そこに置かれていたものを見るかぎり、あのヌード・リングだ。昨年ミラノから来た女性の職人さんが実演してくれていたのとおなじ内容なのだろう。

いくつかの展示があって、宮廷の中庭をおもわせる空間に出た。周囲は鏡張り。足元にはプロジェクションマッピングでダイヤモンドが敷かれている。ダイヤモンドの遊歩道を歩く感覚。

鏡に映った自分の脚を自撮り。わたしの生活を支えてくれているダイヤモンドを踏みつけてしまって良いものだろうかと、心の隅っこに罪悪感をおぼえた。

ここにあったエメラルドをあしらったジュエリーが気になった。この手のデザインには、よくツァボライトやデマントイドなどのグリーンのガーネットが使われる。屈折率が高くてシャープな印象を与えるだけでなく、そもそも頑丈だからだ。もろくて光の鈍いエメラルドがつかわれているのはとても意外だった。

これだけ小さなエメラルドでしっかりグリーンということは、コロンビア産ではなさそう。

石畳のように小さな石を並べた「サッビア」というラインナップ。感心したのはブラックダイヤモンドがきちんと処理石(treated)として表記されていたところ。ジュエラーのこういう姿勢が信頼獲得につながる。ものすごく高価な石でなければ、じつは売る側も買う側も、とくに処理についての知識がなければなおさら、おざなりになってしまいがちなところ。

きちんと処理石であることが明記されているブラックダイヤモンド。

ブラックとの対比でブラウン、ホワイトと書かれているけれど、ホワイトダイヤモンドはよくある透明度の高いほぼ無色のダイヤモンドとは分けて扱われる。インクルージョンがおおくて透明度が低く、白っぽく見える。スフェーンのときに書いた分散による虹色が見えない。だから輝きはないのだけれど、統一感はある。ポメラートのアイテムには、このホワイトダイヤモンドが多用されているように思う。

ここに来るまでにあったアイテムでは、カボションやおおきな中石と一体化したようなデザインのリングも個性的だった。

左:フルーツみたいなカボションの色石をあしらったリング。ガーネットのはメタルと曲率が一致していて一体化している。右:メレダイヤが効果的なリング。こちらも曲面が印象的。

最後の部屋はハイジュエリー「ラ・ジョイア」のラインナップ。劇場のようにエレガントな空間演出。4つの壁面にそれぞれアイテムが展示されている。部屋の中央にはそれぞれの壁面に向けてソファが設置されていて、それぞれの展示を眺められるようにデザインされていた。

タンブルしただけのような不定形の色石をあしらった作品の有機的なデザインが意表をつく。

不定形の色石がインパクトあるデザイン。左はムーンストーンとブルーサファイアのチョーカー・ネックレス。右は”溶けた”ようなアクアマリンのペンダント・ネックレス。

大粒のムーンストーンにまとわりつくように配置された小さな石はブルーサファイア。照明のせいか紫がかって見える。モンタナサファイアみたいな印象だけど、たぶん玄武岩由来のものだろう。以前わたしはムーンストーンには古代人のセンスが宿っているなんて書いた。このジュエリーはそんな感覚が造形であらわされたような感じだ。

平らなアクアマリンは、蝕像(アクアマリンの話を参照)だろうか。ポメラートらしい大ぶりなチェーンで吊り下げたようなデザインがワイルド。海中から引き上げたかのようにも見える。これ、ディスプレイでは首の横から下がっているけど、実際に身につければ中央に来てしまう。この展示のようにするにはどうすれば良いのだろう。

昨年の展示ではチェーンひとつひとつに違う色石が埋められた虹色のネックレスが目をひいたけれど、今年はブレスレット。小さい石ばかりで繊細ながらも華やかなのが良い。

使われている石が羅列されたラベルを見ながら、ついついどの部分がその石なのかを確かめたくなってしまう。職業病か?

このブレスレットには、これまでポメラートのジュエリーではあまり見かけなかったトルマリンが多用されている。カラーバリエーションの豊富なトルマリンはこうしたデザインのものには大活躍だ。さりげなくパライバ・トルマリンが使われているのも嬉しいところ。

展示はこれでおしまい。昨年は企業理念などについての説明パネルが続いていたけれど、今年はあっさり終わっている。もう説明は不要だということなのかもしれない。

いつも思うのだけど、この展示会は誰をターゲットにしているのだろう。新規顧客の獲得が目的?ブランドのさらなる周知?ファンサービス?

すでにファンだったり顧客だったりすると、近ければ確実に観に来てくれそうだ。だけど高級ジュエリーは、広く浅く周知させることが必ずしもプラスになるとは限らない。知る人ぞ知るような存在だからこその価値だってある。ラインナップがハイジュエリーばかりではないので、やはり新規顧客の獲得とそのなかからのトップ顧客の発掘が目的なのだろうか。

職人の街として知られるミラノ。この展示会でもそのミラノらしさが強調されている。ミラノという都市は、そのいっぽうでデザインの最先端のイメージもつよい。コンテンポラリーアートのアートフェアでも存在感がある。伝統の職人技術もさることながら、ポメラートにはデザイン都市ミラノの気鋭の雰囲気と自由さが漂っている。わたしにはそのように感じられる。ミラノは未踏の地なんだけれども。

このところ、noteのダッシュボードに昨年のポメラート展の記事のビュー数が増えていた。これは今年のポメラート展を検索しての訪問かもしれない。そう思って、ちょっと急いでまとめておいた。

2年連続でおこなわれたポメラート展、来年もあるだろうか。なぜか昨年はそのときだけだと思っていたので、今後も期待できるのは嬉しい。あ、これがポメラート展のねらいだったかもしれない。

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