Martha by Tom Waits
名曲揃いのこのアルバムからわたしが選んだのはMartha。
40年前の恋人マーサに電話をかけるという設定で、昔の思い出をポツリポツリと語る男トム・フロスト。時代を感じさせる電話交換手経由の通話。通話を繋いでもらう間に、涙を堪えられるだろうか、彼女は覚えていてくれるだろうか・・との不安を漏らす。通話が繋がったら「長距離電話だけど料金は気にするな」とか現実的なのか非現実的なのかわからない話ではじまり、「自分たちは若かった、馬鹿だった」「明日はなく、悲しみは袋詰めにして雨の日のためにとっておいた」という「薔薇色の散文詩の日々」が語られる。単調に続くピアノの旋律が耳に残る。
この曲を書いたトム・ウェイツは当時若干23歳。わたしが初めてこの曲を聴いたのも二十歳そこそこのときだった。この老成した若者は何者?! 遅れてきたビート詩人と呼ばれたデビュー当時のトム・ウェイツ。わたしもトムが影響を受けていたブコウスキーやケルアックの文学を読み、ハードバップ、ビバップのジャズを聴いた。タバコはダメだったけどウィスキーも呑んだ。
トム・ウェイツは、わたしにとって手塚治虫に次いで影響を与えた人物だ。
この6月には50周年を記念してCLOSING TIMEのリマスター盤が出る。聴きたおしたアルバムだけど、だからこそ新しい発見がありそうな気がしてとても楽しみにしている。