Moon River by Audrey Hepburn
これは単なるジュエリーの展示会ではない。特別に制作された巨大タペストリーでの歴史紹介にくわえて、石留めや研磨、手彫りの職人さんの実演などもある。こうしたジュエリーの展示以外のひとつに、ティファニーの名を冠した映画「ティファニーで朝食を」のコーナーもあった。
ヒロインのホリーを演じたオードリー・ヘプバーンの衣装や小物とともに大型スクリーンで流れる映画の一場面。そこにはアパートの非常階段前の窓際でオードリーがテーマ曲Moon Riverを歌う映像もあった。
歌手ではないオードリーが口ずさむ飾らない歌声。彼女の狭い音域にあわせて作曲されたなんて話があるけど、だからこその自然さ、気取らなさが、ひとりの女性の本来の姿を浮かび上がらせている。そこにあるのは、歌手の歌声ではない、俳優の歌声の魅力とでも言うべきなにか。
ある人を想って歌う歌、思い出を振り返って歌う歌、そうしたテーマはありきたりだけど、それらをさり気なくにじませたこの曲の歌詞はこの場面のオードリーにぴったりだ。
映画の中ではティファニー社は、高級娼婦的なホリーの側面を象徴するラグジュアリーブランドとしての役割だった。しかし、この歌とオードリーのイメージがあったからこそ、ラグジュアリーなのにどこか清楚なブランドイメージが定着したのではないか。
たまたま昨日虎ノ門ヒルズで聴いたこのMoon River。歌のプロではない、市井の人びとの口ずさむ歌って、こうだよな。心を揺さぶる歌唱力や超絶技巧の演奏力はもちろん良いのだけど、これもまた素晴らしい音楽だという気づきがあった。