髭コームなんてものを買ってみた。
昨年12月に、昨年最後の衝動買いとして、ある出版物について書いた。
その著者、ラムダン・トゥアミ氏が経営するコスメブランド、オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリーのブティックのことが、とても気になっていた。たまたま横浜で用事があり、横浜駅に隣接するNEWoManに同店舗が入っているのを知っていたので、用事の予定の前、NEWoManの開店に合わせて足を運んだ。
アンティーク調の店舗、並べられている商品のデザインもアンティーク調。この店舗は、横長のカウンター形式になっていて、店員さんが対面で応対してくれるスタイル。向かって左端に、ポンプ式の香水瓶が並んでいる。
一昨年、ルーブル美術館とのコラボレーション企画があったそうだ。ルーブル美術館が収蔵する名画や彫刻。これらをインスピレーション源にして調香された、香水の数々。このコラボレーションについては、以下のウェブマガジンの記事に詳しい。
この記事にある、フラスコのような香水瓶が、横浜のブティックにも並んでいた。このポンプ式香水瓶、昔の実験器具のような趣がある。ポンプを押すと、漏斗のような形状になった開口部から、フッと香水がかおる。これがとても楽しい。
ひととおり試して、いちばん気にいったのは、ヘリオトロープ・デュ・ペルーというフローラルな香り。これを大きな扇型のテスターにつけてもらった。うん、扇子に香水というのもセンスいいな!
店舗の見た目どおり、このブランドは、アンティーク調のデザインにブランドイメージのこだわりがある。そのデザインに欠かせないのが、独自にデザインされた書体。カリグラファーによる手書きのラベルが添えられるところにも、こだわりの強さが垣間見える。オーナーの書籍の活版印刷も、そのこだわりのひとつだ。
わたしのようなタイポグラフィ好きには、そういうこだわりがたまらなく魅力的だ。店舗で売られているアクセサリ製品には、その独自の書体の刻印サービスがある。わたしは小さなヒゲ用の櫛を購入して、イニシャルのYKを入れてもらった。このnoteの見出し画像がそれ。
この櫛は、アセテート樹脂でできていて、職人の手によって加工されたもの。そのため、ちょっとずつ見た目が違っている。わたしは、うっすら縞模様になっている、色の濃いものを選んだ。
購入した髭コームは、新聞紙のような包み紙に、このようなステッカーで封がされていた。手書きのカリグラフィで、"Yusuke Merci!"とのメッセージがある。
左上のブランドマークも良い。ヨーロッパ紋章、とくにルネサンス以降の大紋章で見られる、天幕部分が使われている。紋章学では、この天幕やマントは、十字軍に由来するという。中東の強い陽射しを避けるために、十字軍の騎士が使ったマントが、紋章にも適用されたというわけ。紋章の本体、楯や兜やサポーターがなく、陽射しを避けるための天幕だけが残されているというのは、意味深な意匠だ。
オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリーのウェブサイトには、シリア生まれの作家マリー=セシル・ドタイヤックのインタビューがある。そのページには、「オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリーは型にはめられた美しさや美の常識には縛られません。」と、宣言されている。天幕のみのブランドマークは、紋章部分(=典型的なヨーロッパ的要素、すなわちヨーロッパ的な美の価値観)を削除することで、ブランドの姿勢を象徴しているのかもしれない・・・と考えるのは深読みしすぎだろうか。
とにかく、このマークは、わたしのような旗章学マニアにとって、これまたマニア心がくすぐられる嬉しいデザインだ。カリグラフィのメッセージといい、この包装紙、しばらく捨てられそうにない。
マスク着用がデフォルトになった新しい生活様式では、あまり髭が見られることはない。だけどせっかく素敵な櫛を買ったのだから、髭のお手入れ、ちょっときちんとやってみようか。