どうなる新時代のエアレース
季節は秋。いつからか世間では読書の秋、芸術の秋、食欲の秋、スポーツの秋と、○○の秋と言われている。理由は知らないけれど、夏の暑さから解放されて活動的になれるからなのかもしれない。
これらのうち、わたしのnoteでは読書と芸術にはほぼ毎回どこかで触れている。食欲は、最近あまり書いていないけど、以前はレシピをいろいろ書いていた。極端に少ないのはスポーツ。だから今回はわたしにしては珍しくスポーツの話題にしよう。つい先日はスポーツの日だったしね。
なぜ唐突に普段やらないスポーツなのか。それは数少ないわたしが好きなスポーツ種目のタイムリーな話題があるから。スポーツは普段あまり縁がないからか、ちょっとだけ書いて下書きに保存してそのまま放置していたnoteの記事がある。
そして今回、そんな2年以上も下書きに眠らせていたものを引っ張り出すことになろうとは思いもよらなかった。消さずにいてよかった。その下書きは、空の F1または究極の3次元モータースポーツと呼ばれた、曲芸飛行のレース(通称エアレース)についてだった。
◆
一昨年の春に、わたしは2022年から始まる予定だったワールド・チャンピオンシップ・エアレース(WCAR)について書いた。その記事はほとんど読まれることなく、ひっそりと膨大なnote記事群の奥底に沈澱している。
このように、2019年に突如終わってしまったレッドブル・エアレース世界大会(RBAR)。そのあと、香港のあらたなスポンサーによって立ち上げられたのがワールド・チャンピオンシップ・エアレース(WCAR)だった。
ところが、運営体制と参加パイロットの発表まではされたものの、いつまで経ってもはじまる気配はなかった。世の中はなかなかコロナ禍からなかなか回復できず、スポンサーの本拠地である香港では政治上の混乱があった。
結局WCARは一度も開催されることなく自然消滅。膨大な運営コストのかかるエアレースの実施はやはりそう簡単にはできないのか。レッドブル時代の遺産を活用できるとは言っても、パンデミックを経たあとの世界では同じ様にはことが運ばなかったのかもしれない。
エアレースの大会実施には自治体や住民の理解と協力が不可欠。さらにはプロペラ機の騒音などどうしても発生する問題もある。よくレッドブルが何年も何年も続けていてくれていたものである。
そんな中、今年になってからエアレースパイロットの室屋義秀選手がSNSで含みのある発言をされていた。そして3月には室屋選手が同期のピート・マクロード選手、マット・ホール選手とともに新たな構想のエアレースを立ち上げることを発表。まさかのパイロット側から立ち上げられるエアレース!これには驚いた。
上のリンクは室屋選手のウェブサイトより、「エアレースのトップパイロットたちと新たなエアレースの立ち上げを表明」と題された3月28日付けのニュース。
記者会見のリンクはもう無効になってしまっているけど、それはARを駆使した新技術を活用したものとのことだった。このARはAir RaceではなくArgumented Reality、拡張現実のことだ。これはいったいどういうことだろう。運営体制だけでなく、いやそれ以上にその内容にも驚かされた。
◇
冒頭に触れていた下書きに眠らせていた内容は、2018年と2019年に千葉の幕張でエアレースを観戦したときのことだった。いや、書きかけていただけなので、観戦にいたる前段階で止まっていたんだけど。たぶん公開する機会はもうなさそうなので、ここでしれっと出しておくことにしよう。
下書きに書いていたのはここまで。子供たちが観てみたいと言ったことでチケットを買って観戦した2018年のエアレース。
下書きのなかに書いていたように、その後は子供たちよりもわたしがすっかり気にいってしまった。そのハマり具合たるや過去のレース映像をひととおり観たり出版物やグッズを購入したりといったそれなりの濃度。その後もしっかり楽しむつもりだったのだけど、まさか2019年に観戦した千葉大会が最後になるとは思いもよらなかった。
下書きでは、そんな終わってしまったエアレースにたいして、noteの記事としてどこから手をつけたものかと足踏みしたままになっていたのだ。実際に観戦した様子については今後これから小出しにでもできるだろうか。あらたなエアレースに関連づけて思い出しつつ書ければいいかな〜程度にゆるく考えている。
◆
さて、あらたに立ち上げられたエアレースに話を戻す。運営体制だけでなく内容にも驚かされたそのエアレースの名称は“エアレースX”。今この名称を聞くとなんだかイーロン・マスク氏が関わっていそうに聞こえるけど、そうではなさそうだ。Xとつくのはきっと今の時代に合ったネーミングなのだろう。
エアレースXの大会は特定の会場ではなくバーチャルの会場でおこなわれる。パイロットはそれぞれの本拠地でフライトをおこなう。その飛行条件を補正したうえでバーチャル会場で映像を合成し、勝敗が決まる。
先に書いたように、このエアレースはAR(拡張現実)を駆使した新技術を活用するとのことだった。観客は各自のデバイスを通して目の前の空間に合成されたエアレースパイロットのフライトを観るのだという。それを実現できるだけの技術が整備されているのはすごいことだ。
百聞は一見に如かず。
エアレースXの公式You Tubeチャンネルの動画を観てみよう。近未来SFの映画かと思うような映像が出てくる。
初戦の舞台はなんと渋谷。レッドブル・エアレースの大会ではブダペストなど街のど真ん中でおこなわれた例はあるけれど、さすがに東京ほどのビル群での実施は安全面からも不可能だ。なるほどバーチャルならばそれも可能になる。こういうのは現実には絶対にあり得ない会場設定のほうがインパクトがあっておもしろい。
いつだったかメタバース関連の催しでエアレースXの記者発表があり、全体の計画が説明されていた。今後はニューヨークのマンハッタンやドバイのブルジュ・ハリファも候補になっているそうだ。
本戦では、総当たりでタイムを競う予選を経て、4名のパイロット(実際はパイロットのチーム)がファイナリストとなり、準決勝、決勝をトーナメントで競う。これを世界各地で何戦かおこない、2025年には現実のレーストラックでグランド・チャンピオンを決めるという。
観戦するファンにとっては、完全にバーチャルだけではなく、現実の楽しみも残されているのが救いだ。
◇
さて、エアレースXの初戦のコースは以下の動画のようになっている。
パイロットは架空のパイロンにぴったり照準を合わせてフライトをおこなうのだから、その操縦技術たるやどうなっているのか想像がつかない。
実際のレース同様、パイロンに触れるパイロンヒットは大きなペナルティ。パイロンヒットだけでなく、入るときの角度がほんのわずかに傾いていてもペナルティになる。
パイロンに触れるとパイロンは裂けて崩れてしまうので、このパイロンヒットは実際の観戦では視覚的にわかりやすい。パイロンヒット時の会場のどよめきを知っていると、それがないバーチャルにはちょっと物足りなさを感じてしまう。
あと、ジグザグにパイロンをよけるシケインが設定されていないのは技術的に限界があってのことなのだろうか。シケインでサッと機体を横倒しにしてすり抜け、またサッと水平に戻ってパイロンの間を抜ける動きの切れ味は、実際に観ているとぞくぞくするスリリングさがあって、わたしは好きだ。今後のシケイン復活に期待。
◆
エアレースXの初戦では8名の選手がエントリーしている。計画倒れになったWCARで挙がっていた12名とは若干顔ぶれが違っていて、WCARで外れていたチェコのペトロ・コプシュタイン選手が復活。レッドブル時代の2軍(?)チャレンジャークラスからは南アのパトリック・デヴィッドソン選手ひとりが入った。
もしいればレースが面白くなりそうだった英国のベン・マーフィー選手が入っていないのが意外だった。あと、唯一の女性パイロットだったメラニー・アストル選手が抜けたのもちょっと残念。わたしが贔屓にしていたフランソワ・ルヴォット選手は復活ならず。今後のレースに戻ってきてくれると嬉しいのだけど。
10月8日から予選が始まっていて、その結果は逐一ネットで流れてきていた。14日土曜日現在、ファイナリストが出揃った。決勝は明日15日。
結果は順当に前評判の高かったパイロットが勝ち残った。首位はわれらが室屋選手。発起人のひとりだったピート・マクロード選手が機体メンテナンスの都合で棄権して飛べなかったのが残念だ。
さて。公式サイトによると、決勝は日本時間10月15日の午後4時から。渋谷には有料席のラウンジのほか、無料観戦エリアもパルコに用意されるそうだ。首位の室屋選手は本拠地の福島で飛ぶ。あとの対戦者たちもそれぞれの拠点オーストラリア、チェコ、スペインで飛ぶことだろう。
天気予報では東京は雨模様だけど、その時間にはあがっているだろうか。あ、雨の渋谷でのエアレースというのも、非現実さに拍車がかかって良いかもしれない。新時代のエアレースがどんな形になるのか、とても楽しみだ。