こつこつと積み重ねる タイパよりも大切なこと
4月に新聞寄稿した文章を掲載します。
新緑がまぶしい。早朝から草刈り機の音が響き、勢いのある生命力と対峙する中で、人のちっぽけさを感じる季節になってきました。足早に変化していく山里の風景は足早に変化していきます。
私事ですが株式会社M-easyは4月22日で20周年を迎えました。大学生のときに起業して20年、旭にきてからも12年が過ぎ、語り尽くせないほどの人のご縁により今があると改めて感じています。旭にきてから、地域のじいちゃんばあちゃんからは本当にさまざまなことを学ばせてもらいました。梅干し、味噌、こんにゃく、干し柿、山菜のとりかた、ヘボおいなど山ならではのことから、戦争後に暮らしをどう守ってきたのか、地域をどうつくってきたのか、昔ながらの生活と経済発展、葛藤、妥協、楽しさ、嬉しさ、悲しさ、寂しささまざまな感情も入り乱れながらもそれぞれの時代と向き合ってきた歴史がありました。ひとつ、いえることは、ひとりひとりができる範囲で精一杯力を発揮して、協力して、地域にかかわる営みを続けてきたおかげで今があるということだと感じています。人口が少なくなってきていますが、少なくなってきているからこそ、ひとりではなく、みんなで地道にコツコツと守り続けてきた小さな営みが山里では息づいていることを感じる毎日です。一方、世間では、デジタルの世界が広がっていく中で、いかにタイパ(タイムパフォーマンス)がよいか悪いかという価値観が広がってきています。いかに時間の効率を上げられるか、時間の効率が高いのか、仕事だけでなく、暮らしのなかでも好まれる傾向があるということです。私自身もさまざまな営みを重ねて暮らしはたらいていることもあり、なるほどと、よくわかる面もあります。しかし、都市部、山村部と分ける必要もなく、地域をつくる、みんなで協力する、関係性を築くことに、地道にコツコツほど近道はありません。体と感情をもった私たちの暮らしには、時間をかけることの大切さがあります。暮らしの営みの裏側に、今を生きるヒントがたくさん散りばめられていることをこの旭で学ばせていただきました。野山を裸足でけりあげて、草をさわり、食べて、遊んで、穴を掘る子どもたちをみて、奥深い学びの本質に触れているように思います。発想は本物に触れてきた量は質に比例して豊かに色づいていくと思うからです。私は、歌うこと、料理をつくること、食べること、ひとりでもできるけどもみんなでやること、好きだなぁ、と最近改めて思います。
タイパよって、コツコツが駆逐されていく、その先に本当に人が豊かに幸せな人生をつむいでいいく未来があるのか、今一度、足をとめてみてもよいのではないでしょうか。ゆっくりとした時間の流れの中に、暮らしを豊かに、地域を持続可能に、幸せな関係性を築く答えがあるのではないでしょうか。タイパを考えるのは、それからでも遅くはないはずです。今しかできない生の経験を積み重ねていきたいものです。
*2023年4月 新三河タイムズ 持論異論 寄稿文 編
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