『ストコフスキー変奏曲』が示した意義と可能性
去る8月22日(月)から8月25日(木)まで、NHK FMにおいて『ストコフスキー変奏曲』が放送されました。
これは、今年生誕140年を迎えた指揮者のレオポルド・ストコフスキーに焦点を当て、その人となりと音楽を各種の録音や逸話を通して検討する番組でした。司会は東涼子さんで、指揮者の田中祐子さんと音楽評論家の増田良介さんがそれぞれの視点からストコフスキーの功績や交響管弦楽の発展に果たした役割などについてお話されました。
今回の放送の特徴の一つは、種々の映画に出演することを通して交響管弦楽の裾野を広げる教育者としての側面や先人の残した作品を大編成の管弦楽曲用に改めた編曲者としての取り組み、あるいはその時々の最新の技術を積極的に活用しながら録音を行う指揮者としての活動に留まらず、いかにしてよりよい音楽をより多くの人々に届けるか、あるいはより充実した演奏はいかにして実現できるかという音楽家としての模索や葛藤も視野に入れた構成となっていた点です。
こうした視点による問いかけは、主に音楽史や演奏史における位置付けを担当する増田さんと指揮者としての知見に基づきストコフスキーの音楽に対する態度を分析する田中さんというお二人の役割の分担により、一層明瞭な輪郭を描くことになりました。
特に「作曲家は自分の書いた譜面通りの音楽が演奏されることを本当に望んでいるのか」「指揮者は演奏のすべてを指示すべきなのか。演奏者に自分の判断により演奏する余地を与えるべきではないのか」といった趣旨の田中祐子さんの問いかけは、ストコフスキーという指揮者を通して音楽と指揮者の関係全般を考える際にも重要な手掛かりを与えるものでした。
また、全4回の放送を通して主題的には取り扱われなかったものの、例えば「後継者といえる指揮者はいるか」といった問いを設定することは、ストコフスキーの音楽の歴史における位置付けを相対的に把握するための一助になると考えれば、今回の特集の意義の大きさが分かります。
これまでも過去の優れた音楽家を特集する「変奏曲」の企画は良質な内容によって聴取者に多くの学びと示唆を与えてきました。
4回にわたる『ストコフスキー変奏曲』もその例に漏れないものであり、ストコフスキーを巡る過去と現在、そして未来についてよりよい理解を可能にする企画であったと言えるでしょう。
<Executive Summary>
Miscellaneous Impressions of a Radio Programme "Variations of Leopold Stokowski" (Yusuke suzumura)
The NHK FM Radio broadcasted a feature programme "Variations of Leopold Stokowski" from 22nd to 25th August 2022. In this occasion I express miscellaneous impressions of the programme.