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インフラ投資における、PPPスキームについて

1.PPPの定義について

 PPPは、Public-Private Partnershipの略で、鉄道や高速道路、病院等の公共施設の建設 のための一つの投資スキームのことを指します。
 PPPスキームの特徴は、以下のとおりです(Weber and Alfen, 2010)。
  ①通常、特定目的会社(SPV/SPC)が立ち上げられること
  ②高い借入に基づくキャッシュフローでプロジェクトを回すこと
  ③民間企業と公的機関との複雑なリスク分担構造であること
  ④契約関係において、当該リスク分担の複雑性が反映されること
 特に、PPPスキームにおいて、プロジェクトの成功の可否は、適切なリスク分担及びキャッシュフローの予測性が高いことがポイントとなります。リスク分担については、基本的には、SPV/SPCの資本構成と出資者・貸出人・施工会社等の合意に基づき行われます。

2.PPPプロジェクトのリスク分担について

 上記の特徴②で示したとおり、PPPスキームにおけるSPV/SPCは高い借入比率となります。概ね70-90%の借入比率が一般的です(Finnerty, 2007; The National Audit Office, 2015; Weber and Alfen, 2010; Yescombe, 2007)。この数字は出資者と貸出人の意向の妥協点であると認識されております。出資者は、プロジェクトにおけるIRR(内部収益率)を高めるため、高い借入比率にしたい一方で、貸出人は高い自己資本比率を求め、出資者のコミットメント度合いを求めるといった形です。
 また、官民でのリスク分担も適切にしなければなりません。民間企業(出資者)が過度にリスク負担する場合には、貸出人の金利が上昇、貸出額が減額され、より自己資本比率を求めることになります (PPP Knowledge Lab, 2017)。この高くなった金利は、施設完成後の収益で支払われるので、過度な民間へのリスク分担は、公共施設利用者の負担増につながります。

3.PPPマーケットの世界的なトレンドについて

世界的なPPPマーケットの状況(世界銀行のデータから集計)

 上図より、1990年からPPPマーケットの拡大が進んでいることが分かります。特に、ラテンアメリカやアジア圏のいわゆる発展途上国が主なマーケットになっております。ADB(アジア開発銀行)では、アジアのインフラ需要を満たすためには、年間で1.7兆ドル(日本円にて、221兆円(1ドル=130円))が必要とされております (Asian Development Bank, 2017)。日本のR4年度予算全体が105兆円となりますので、その2倍程度が、「インフラを作るのみだけ」に必要となります。ただし、どの国でもPPPスキームが活用できるわけではなく、経済や社会、金融等の法整備が整っていることが条件となります。The Economist Intelligence Unit (2019) によれば、タイやフィリピン、インド、ベトナム、インドネシアが、PPPスキームを適用できる経済・社会環境であると言われております。
 

分野別のPPP投資(世界銀行のデータから集計)

 上図より、世界的に見て、交通及び電力セクターがPPPのメインマーケットになっております。交通・電力セクターでPPP投資額のほぼ90%を占めております。前のグラフと合わせてみえれば、やはり交通や電力需要が高いアジアやラテンアメリカ圏の途上国において、PPPスキームが活用されていることが分かります。10億ドル以上の大規模プロジェクトも20-50%をPPPマーケットを占めており、大規模プロジェクトにおいてもPPPスキームが活用されていることが分かります。

4.まとめ

 今回はPPPスキーム定義・財務構成の基本・市場について簡単に紹介させていただきました。昨今でも日本においても、PPPスキームの活用がなされ、かなり浸透していたところがあります。特に下水道事業や高速道路、公共施設、公園での活用がメインかと思います。また、ダム事業でも活用する動きもあるところです(https://www.mlit.go.jp/report/press/mizukokudo03_hh_001128.html)。引き続き注視していきたい分野です。
 今後、Part2などで、イギリスでのPPP投資の現状やPPPスキームの資本構成の決め手等を執筆していきたいと思います。

※本執筆内容は、「東洋大学PPP研究センター紀要 第13号」(https://www.toyo.ac.jp/research/labo-center/pppc/society/rc-bulletin/rc-bulletin13/)における、「Determinants for Appropriate Financial Structures for PPP Infrastructure Megaprojects」を日本語訳にしたものをもとに記載しております。

5.引用元

・Weber, B., Alfen, H.W., 2010. Infrastructure as an Asset Class Investment Strategies, Project Finance and PPP. John Wiley & Sons Ltd.
・Finnerty, J.D., 2007. Project Financing Asset-Based Financial Engineering Second Edition, Second edition. ed. John Wiley & Sons, Inc.
・The National Audit Office, 2015. The choice of finance for capital investment.
・Yescombe, R., 2007. Public–Private partnerships Principles of Policy and finance, First edition. ed. Elsevier Ltd.
・PPP Knowledge Lab, 2017. PPP Reference Guide - Version 3. Washington DC.
・Asian Development Bank, 2017. Asian development outlook 2017 update : sustaining development through public-private partnership. Asian Development Bank.
・The Economist Intelligence Unit, 2019. Evaluating the environment for public-private partnerships in Asia: The 2018 Infrascope.


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