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空の上司、雨のデザイナー
「空・雨・傘」という基礎的な問題解決のフレームワークがある。フレームワークの解説が本稿の目的では無いので簡単に触れるが、
空:事実
雨:解釈
傘:打ち手
の事である。空が西から分厚い雲に覆われ始めていた時、その事実を「しばらくして雨が降りそうだ」と解釈出来ると、「傘を持って外出できる」という打ち手に繋がる為、空・雨・傘はセットで考えるのが大事、という話である。
これを聞くと、なんだ当たり前じゃないかと思う人が大半だと思うが、世の中の大半の「傘」はポジショントークに塗れているので、この当たり前が重要なのである。資本市場下では、「自分の既得権益を守りたい」「自社の商品を良く見せたい」「ワクチンを不安にさせる記事タイトルでPVを稼ぎたい」「日本のM&A市場で最大のシェアを持っている様に見せたい」の様な、事実を自分に有利に解釈して発信するインセンティブには事欠かない。そもそも荷物を軽くしたいとか、絶対に濡れたくないという様なバイアスがあると、事実の解釈は歪められて、常に傘を持ったり持たなかったりという打ち手になるという事である。だからこそ歪みのない事実を提示し、それをバイアス無く解釈して打ち手を考え、その問題解決のプロセス自体をオープンに共有して議論する、この当たり前のアプローチの価値がある。
また、空・雨・傘フレームワークは、個人の問題解決の癖として捉える事も可能である。各人ごとにどの領域が得意かは明確に分かれ、それは各人の過去のキャリアに密接に結びついている。
空の人:論点に合った事実を集めるのが得意。投資銀行や官僚の出身者に多い
雨の人:解釈して意味合いを出すのが得意。圧倒的にコンサルタントとマーケターの領域
傘の人:要は何すればいいの、の人。法人営業の出身者に多い
空→雨→傘→空、の前プロセスの人に指摘されるとイラつくのもポイントである。雨の人は解釈してみせた後に、空の人にその解釈に当てはまらない反例を探し出されるとキレがちだし、傘の人はアクションを自分の中でイメージ出来た後に、雨の人に理解するのに脳力を使う解釈を出されると横を向くし、空の人はデータが集まる前に傘の人にアクション案を出されても全く納得しない。
なんか特定の上司との議論の相性が悪いなと思った時、自分と上司の得意領域を空雨傘で考えて、ずれてる様だったら、上司の得意領域をカバーする様に努めてみよう。文明の衝突を避けるにはエンゲージメントから、である。一方、考えてみた結果、もし得意領域がずれてない様だったら、どちらかのレベルがかなり下の可能性があるので、下なのが自分で無い事を祈ろう。
さて、ここから本論である。PEファンドの投資先では、大企業からのカーブアウト後のブランド変更だったり、創業オーナー引退後のブランド思想の継承と再構築だったり、大型の追加買収してのグループ統一CIの導入だったりで、PEファンドのプロフェッショナルスタッフが、ブランドレベルの変革に携わることがままある。僕個人としては、現在担当している投資先のうち3社が、同時期にコーポレートブランドや基幹商品のデザイン、店舗のブランドエクスペリエンスなんかを変革している。業種はB2C・B2B双方で多岐に渡るが、その変革プロセスで、それぞれで協業してるクリエイターの考えに触れ、素人ながら、この3名のクリエイターは下記の様な思考パターンだなと思った。例えとして、楽しさが価値に包含されるブランドを題材とした。
1) ポジショニングやターゲットから、自身のイメージのユニバースを一度拡張した上で、思考を煮詰めて結晶化させていく(例:固有のブランドミッションに楽しさを加えるとこういうデザイン、楽しさを逆に振って品質感を出した場合はこういうデザインになる)
2) 伝えたいメッセージの論理的構造化を先行させ、構築した構造に対して、タイトにデザインを意味付けていく(例:ブランドが伝えたいメッセージの30%が楽しさと定義したので、デザインの30%も楽しさを表象する色や素材、表現にする)
3) 圧倒的な言語化・アナロジー発見力で、自身のイメージ化能力を駆動させて一発でアウトプットする(例:このブランドの楽しさって、ディズニーランドの楽しさでも、温泉旅館の楽しさでもなく、スポーツ観戦の楽しさですよね。ただ、スポーツでも箱根駅伝感が出ると毎週は胃もたれして普段使いじゃ無くなるので、適度なライブ感と習慣性、中毒性がある、日曜夜のやべっちFC的なデザインがこれです!)
1)が空、2)が雨、3)が傘タイプなのだと思う。