past.7 (Rose Garden:act.2 雨夜の品定め)


しとしと冷たい雨が降る。
霧が、世界の輪郭を曖昧にする。
静かに佇む森の中の別邸。
哲学に溢れた温かい書斎に、古書の黴臭い香りが満ちる。

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上質な革張りの椅子に、その少年は腰かけていた。
ギーッっと音を立て、深く後ろにもたれ掛かる。
はぁ、と一息ついて読みかけの本を置く。高い天井を眺めては目を閉じる。
誰かが訪ねてくる。そんな氣配を感じる。


コンコンとドアが鳴る。
「お坊ちゃま、アラン様がお見えです。」
…やはり。
「通してくれ、クラウス。」
少年は執事に告げる。年齢より成熟した声に品を感じる。
彼は椅子から立ち上がり、ドアに近寄る。


ガチャリ。
「よっ!親友!会いに来てやったぜ。」
ドアが開くやいなや、賑やかな声が飛び込んでくる。栗色の髪がチカチカ眩しい。ライトブルーの瞳は無邪気に輝く。まるで主人に三か月会えなかった犬の様だ。
「まぁたこんな古臭い所に閉じこもって!こんなところにいたら、すぐ爺さんになっちまうぞ?」
どこまでも陽気な声が、重厚な書斎と釣り合わない。アランのセリフに悪気の無い親切心が宿る。彼もまた、育ちの良さを感じる。


「そう思わないか?エドワード。」
モスグリーンの瞳がアランを捉える。
「ここが好きなだけさ。誰にも迷惑はかけてない。」
「そうだけどよぉ…」
アランは不服そうに口を尖らせる。ぶぅ、とまるで漫画のような効果音が聞こえてきそうだ。
「ははっ!アラン、お前って奴は…!ふははははは!」
エドワードが笑う。艶めかしい目尻がきゅーっと細くなる。感情に素直な友人を羨ましくさえ思った。


全てのアンバランスがとても可笑しかった。エドワードにはそれがコミカルにさえ感じられた。
「はぁ、笑った…。こんなに笑ったのは久しぶりだ!とても愉快だ!」
「…それはそれは、ようございましたね、坊ちゃん。」
エドワードの言葉にアランは複雑な表情を浮かべる。
彼はふぅと一息ついて、執事に優しく声をかける。
「すまない、クラウス。お茶を入れてくれ。」

*to be continued…


憂鬱な月曜日が始まる前に、私の記事を読んで「あ、水曜日くらいまでなら、なんとか息出来る気がしてきた」と思っていただけたら満足です。サポートしていただいたら、大満足です。(笑)