past.8 (Rose Garden:act.2.5 雨夜の品定め)

*前回のお話はこちら



雨は降り続ける。
世界の手触りが曖昧になる。
やはり、夜は冷える。


「で、何の用だ?アラン。」
エドワードはティーカップに手を伸ばす。
「何の用って…。大変なことになってるじゃないか!あのビアンカが帰ってきたらしいぜ!ご近所中、もう一週間はこの話題で持ちきりさ!」
アランは興奮気味に身を乗り出す。息を切らしながら続ける。
「エドワード、お前はさすがに何か知っているよな!なんてったって、婚約者なんだから!なぁ、教えてくれよ!お前の“可愛い子猫ちゃん”は一年もの間、一体どこで何をしてたんだよ!」
エドワードは深い溜息を吐く。
「アラン、何事かと思えばそんなことか。」
「大事なことさ!」
「みんな揃いに揃って大いに暇なんだな。」
モスグリーンの瞳が力強く睨む。
「俺は何も知らない。彼女がどこに行って何をしようが、それは彼女の自由だ。たとえ婚約者であったとしても、生憎俺は彼女を縛れない。」
エドワードはやれやれと肩を落とす。

「帰って来たビアンカに会ったのか?」
アランの好奇心は尽きない。質問が続く。
「ああ。ついこの間な。」
「どうだった?」
「…どうだったも何も。その辺のお話については、追々書くから少し待って欲しいそうだ。」
「誰が?」
「作者Yが。」
「そうか。俺たちはただのキャラクターだもんな。」
アランは、うんうんと妙に納得して両腕を組む。よく分かってるじゃないか。


「それにしても、ビアンカはいっつも唐突で型破りだよな!そこらのレディたちとは全く違う。綺麗な顔して、男勝りもいいとこだぜ!…お、これウマい!」
アランはクッキーをむしゃむしゃ頬張る。
「…彼女は特別だからな。」
エドワードは冷静に答える。ビアンカを慕う熱い氣持ちを悟られないように努める。
「特別、というか過激なんだよ!昔っからそうだ。長いスカートが邪魔で耐えられないから、ってドレスを膝上までびりびりに千切って街を歩いたり、裏サロンに出入りして経営者とタッグを組んだかと思えば、そこに通う馬鹿な貴族階級の野郎どもからかなりの金額巻き上げたり、かと思えばその金で孤児院を作っては、国内のどんな名門校より上等な教育システム立ち上げる始末じゃないか!どうなってんだよ、お前のフィアンセは。」
信じられない、という目でエドワードを見つめる。
「ははは。実に彼女らしい。」
エドワードはふふふん、と鼻を鳴らす。お氣に入りの古い地球儀をくるりと回す。
「はぁ、全く。揃いも揃って、変わりもんの考えてることは分からんね。類は友を呼ぶってか?」
アランはダージリンを啜る。
エドワードは静かに目を閉じる。


「そんな彼女とあのミシェル嬢が親友ってのが、俺としては腑に落ちない!」
アランは嘆く。栗色の髪がふわりと揺れる。
「…また何故?」
アランは熱く語り始める。
「彼女は破天荒なビアンカとは正反対だ!ミシェルはまさに男子の憧れじゃないか!みんなのマドンナだ!スクールの全員が彼女に夢中さ!大人しくて清楚。いつも柔らかい笑みを浮かべては、さらさらのブロンドを風になびかせてる!はぁぁん…、俺もあんな可愛い子とデートくらいはしてみたいぜ…。」
アランはうっとりとした溜息を漏らす。ミシェルの「魅力」を延々と続ける。
親友の戯言を適当に聞き流しながら、エドワードはぴくりと何かしらの氣配に氣付く。
「おい、ちゃんと聞いてるか?エドワード!」
「あ、ああ、聞いてるよ。」
少しの沈黙の後、エドワードは氣配の源を理解したようでアランを覗き込む。モスグリーンの瞳が悪戯に光る。
「…そんなにミシェルを愛しているなら、お前の想いを伝えたらいいじゃないか。」
彼の言葉にアランはぼふんと赤くなる。
「ばばばば、馬鹿なこと言うなよ!そそそんなこと、出来るわけないだろ!」
「まぁな。美人は敵に回さない方がいい。恐ろしいからな。」
「誰の名言?」
「俺の母さん。」
エドワードはふぅと息を吐く。
「父さんも被害者さ。」
「はははっ!面白い冗談だな!」
アランの華やかな笑い声が響く。雨はしとしと降り続ける。






●REC

「…という訳で、アランは貴女とお付き合いしてみたいようだけれど。」
ビアンカは一連のやり取りを見せる。
「…笑止。」




*ビアンカとミシェルって誰?と思った方はこちらから!


*長々読んで頂きありがとうございます。次回の更新は11/24です。よろしくお願いいたします!




憂鬱な月曜日が始まる前に、私の記事を読んで「あ、水曜日くらいまでなら、なんとか息出来る気がしてきた」と思っていただけたら満足です。サポートしていただいたら、大満足です。(笑)