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フットボールの記憶|マラドーナの咆哮

僕は十歳の時にマラドーナと出会った

記憶は定かではないが、「世界の名選手たち」のようなタイトルの雑誌を僕は開く

そこには「セレステ・イ・ブランコ」に身を包んだマラドーナがいる

彼は母国をワールドカップの頂に導いた英雄として紹介されていた

野生的な風貌と寸胴のような体型が印象に刻印を打つ

マラドーナは「選手」でありながらも、僕にとっては「歴史上の偉人」と表現したほうが肌になじむ

テレビを通して初めて目撃したワールドカップ

アメリカの大地を色とりどりのユニフォームで身をまとった選手たちが緑色のキャンバス上を疾駆していた

太陽を浴びながら、絵筆を走らせるように選手たちが跳躍していた

高揚感にあふれた世界はまだ見ぬ万国博覧会のようだった

その場面はニュースのハイライトとして切り取られていた記憶がある

アルゼンチン対ギリシャ

守備陣の隙間を縫うようにして、アルゼンチンの選手たちが高速のパスをつないでいく

マラドーナはその中心にいた

壁のように構えた左足はボールを寸分の狂いもなく、パスの出し手に戻す

マラドーナは前線へと侵入する

筋書きに書かれていたように、ボールは彼の足元へと舞い戻った

眼前に空白を作り、黄金の左足を一閃する

ボールはゴールネットの左上に突き刺さった

マラドーナの導火線に火が灯る

ピッチサイドのカメラへと駆け寄り、炎に包まれたかのような形相で雄叫びを上げる

それは水と油のように、優美さと狂気が混在したゴールだった

その二つを隔てる膜のようなものが存在すると仮定すれば、その薄さに一種の危うさを子どもながらに感じた

その後、マラドーナはナイジェリア戦後のドーピング検査で使用禁止薬物が検出され、大会から追放される

マラドーナを象徴する場面は数多くあれど、十歳の僕に狂気を意識させた咆哮が忘れられない


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