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食レポ|とんかつ とんき 目黒本店
空間にあふれる木の温もりと表面に浮かぶ照り。誰も体験したことのない、タイムスリップを僕は体験している。
「とんき」は食事の劇場だ。職人たちが披露する良質な技の数々。とんかつに衣をまとわせ、揚げ、切り、からしを皿の縁へと落とす。それらは有機的につながり、とんかつが乗る一皿へと帰結する。無駄がなく、適度な緊張感さえ感じさせる。そこに美を僕は感じる。
「とんき」のとんかつは衣が一体となっても、切り離されても、異なる形でおいしい。その歯触りを起点とし、快感が身体中に響き渡る。
ソースを上からかけることは喜びだ。とんかつの一切れずつに羽を与えるように、ソースが表面を染める。僕ととんかつにとって、それは自由への合図だ。
一つ一つの所作に嘆息が混じる。「ロースかつ定食」はたっぷりと盛られたキャベツ、豚汁、お新香とともに壮大な協奏曲を弾く。満足を超える満足を抱えて、異世界から現実への扉を開いた。夕景に浮かぶ「とんき」の外観が光り輝く。