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中村俊輔がかけた五秒の魔法

 普段よりも空気の密度が高く感じられた。日差しが照りに包まれていた。人々のざわめきもウィンドチャイムのような音色を耳に残す。

 大西洋を越えて、僕はセルティック・パークにいる。画面越しに見た熱狂の舞台。世界の広さと狭さを同時に感じた。照明を受けて輝く緑色の芝生。その一本一本が呼吸をしている。青さをも帯びる鮮やかな緑。この日、僕は本物の緑色と出会った。

 あれほどまでに肌触りの良いパスを見たことがない。中央でボールを受けた中村俊輔は左へと流れる。黄色の衣をまとったキルマーノックの二選手が前へと入り込む。しかし、それは「阻む」のではなく、中村に「引き寄せられる」と評したほうが適切かもしれない。

 マクギーディが僕に向かって加速する。左足のキックフェイント。眼を開くと、中村の左足から繰り出されたパスは守備を切り裂き、僕の二十メートル先で弾む。計算されたかのように、ボールは走り込んだマクギーディの足元へと舞い落ちる。

 風を受けたかのように揺れるゴールネット。中村俊輔がかけた五秒の魔法。絹のような思い出。僕はその記憶の滑らかさを忘れない。

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