ロシアW杯 観戦記|日本 vs セネガル|3
マス目が変わるように、徐々に客席のオレンジがさまざまな色で埋められていく。両チームの選手が試合前の練習に姿を現す。当然ではあるが、僕の周りには多くの日本人がいた。一眼レフを真剣に構え、シャッターチャンスを狙う男性。黄色い声とともにスマートフォンを掲げ、選手たちを撮影する女性。会場にはそれぞれのチームにMCが立ち、サポーターたちを盛り上げる。それに呼応するかのように日本を応援するチャントが流れる。練習での先発組と思われるメンバーはコロンビア戦と同じ。芝生とボールをスパイクに馴染ませるように、香川がターンやドリブルを繰り返す。手倉森や森保両コーチの表情も明るい。選手たちがロッカールームへと引き上げる。
高揚感が徐々に高まっていく。巨大なフラッグと思われる布を持ったスタッフたちがピッチの脇へと姿を見せる。荘厳な音楽に合わせて所定の位置に歩き出す。まずは中央にワールドカップが、そして左右に両チームの国旗をかたどったフラッグが一気に広がる。戦いの幕を開けるかのように。歓声が場内をこだまする。耳慣れたベース音が壊れたようにリピートされる。ベースドラムを叩く音が打ち鳴らされる。今ではサッカーのアンセムと化したザ・ホワイト・ストライプスの『Seven Nation Army』がまるで火でも灯すかのように、ショーを戦いの場へと昇華させる。鳥肌が立ち、空気が引き締まったのを感じた。選手が入場し、整列する。最初に『君が代』。このピッチでこの曲を聴ける選手はサッカーをプレーする数多くの日本人の中で選ばれた十一人だけだ。才能に恵まれ、その才能を信じ、努力を重ね、運を引き寄せた者のみが立てるこの舞台。彼らの気持ちになって、僕も『君が代』を歌う。それは幸福な体験だった。異国で耳にする『君が代』の凛とした曲調に感情が揺さぶられる。呼応する観客たちの歌声。その二つが重なり、身体の芯から熱が生まれ、全身に行き渡り、すべての毛穴から蒸気が立つような感覚を覚えた。それは僕にとって待ちに待った瞬間だった。
セネガルの国歌『コラを弾け、バラフォンを叩け』の雄大なメロディが流れる。夕焼けに染まったアフリカの広大な大地を思わせる音色だ。メインスタンドから見て右に日本、左にセネガル。選手たちが円陣を組んで所定の位置へと散っていく。キックオフへのカウントダウンが始まる。明るい太陽が今も照りつける中、戦いの火蓋が切って落とされた。
続く