ロシアW杯 観戦記|日本代表ベースキャンプ|2
エスカレーターの先には、映画『未来世紀ブラジル』に出てきそうな、無機質な空間が広がっていた。シルバーの柱が等間隔に並び、格子状のシェードに覆われた、人工的な照明が僕たちを照らす。大理石なのか、灰色の地面はできたばかりの墓石のように艶めいていた。ほどなくして電車がホームへと入ってくる。扉が開き、足を踏み入れた。僕たちはここから三駅のアビアストロイテリィナヤ駅で降りる。電車の中は広告が張られていないせいか、病院の待合室のように簡素だ。見たくもない広告を眼にするよりは気持ちがいい。車両も小さく、前の席との距離が短い。人もほとんど乗っていないせいか、電車の揺れに意識が向く。アビアストロイテリィナヤには十分で到着した。この駅のホームも特徴的だ。ブルーグレーのパネルが半円を描くように壁に据えらえていた。列車に乗って宇宙に飛べるとしたら、こんな場所から旅が始まるのだろう。
ホームから改札へと上がり、眼の前にある出口から地上へと舞い戻った。正面には大きな公園が広がり、そちらに向かって横断歩道を渡る。右に曲がって公園沿いを五分ほど歩くと、赤と青で彩られた、ワールドカップののぼり旗が視界に入った。その横には仮設のテントが張られ、日本サッカー協会のエンブレムが描かれている。ここが日本のキャンプ地だ。しかし、当然ではあるが、いたるところにシートが張られ、1ミリも中を見ることができない。何人かサポーターがいて、遠目に選手たちが歩いているのを見ることくらいはできるのかと期待していたが、そんなアットホームな雰囲気は微塵も感じられない。セキュリティも巡回していて、時折こちらに鋭い眼を向ける。ぐるりと半周し、ルビン・カザンのユースと思われる選手たちの練習を眼にすることはできたが、その奥がベールに隠されている。不平を言っても、直面している状況に変化は訪れない。これは「ワールドカップ」なのだ。リークと思われる報道があったのだから、これくらいの警戒がなされても不思議ではない。正に日本代表の「追っかけ」をエカテリンブルクからしているわけだが、フェンスの周りで時間が過ぎるのを待っていても、状況が好転することはない。時刻は一時になろうとしている。途中にマクドナルドを見かけたので、そこに入って昼食を取ることにした。
続く
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?