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食レポ|こんぴら茶屋

 風を受けて、身体が舞う。運ばれるようにして、店先へと降りた。決めていたわけではない。用事と呼ぶには大袈裟な雑務が重なり、風向きは決まった。寒気が差した昼の目黒。僕は「こんぴら茶屋」の扉を開ける。

 カレーのスパイスが鼻を突く。その傍で角の取れた出汁の香りが身体中に広がる。この温もりは、僕を安らかな気持ちにさせる。カレーうどんの名店。ここには入店して十秒の快楽がある。

 「牛かれーうどん」とライスを注文した。これ以外の品は眼に入らない。奥の席から店内を見渡す。人の気配が空気を伝う。

 たっぷりと盛られたカレー。茶色は光沢を帯びる。その趣は重厚だ。万能ネギの緑が華を添える。レンゲでカレーを口へと運んだ。これだ。この味だ。王道の和風カレー。入店した時の快楽が口の中で再び開花した。うどんのコシを楽しみ、カレーのスパイスが熱を上げる。

 ライスをカレーの海へと落とす。茶は白を包む。カレーうどんに続き、僕はカレーライスを楽しんだ。二重に満たされる。

 カレーで染められた昼。身体の中心に芯が通った。


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