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4が刻まれた日

 “KING OF ASIA”のバナーが踊る。アジアの王として臨む、ワールドカップ最終予選。大陸を席巻した煌びやかな攻撃。その攻撃は本田圭佑や香川真司といった名手たちによって彩られる。その華やかさは緊張という名の冷水によって引き締められ、高揚感が埼玉スタジアム2002を包んでいた。

 すべての動作が流れるようでありながら、同時に止まっているように見えた。優雅な舞を連想させる、軽やかな余韻。今野から前田へ。前田から香川に落としてリターン。スペースへと駆け出す長友を追うようにボールが転がる。ボールは緩やかに上空を翔ける。本田がボールに合わせるのではない。ボールが本田に吸い付くように、空間を移ろいゆく。

 ボールは左足と衝突する。その瞬間に起こった摩擦。一斉に飛び上がる青きサポーターたち。どよめきと歓声。波がスタンドを駆け巡る。幾多のフレームに分割できそうなほど、鮮明にそのすべてが脳裏に残っている。

 コーナーフラッグの傍らに作られた歓喜の輪。一人離れた本田は、両手の親指を背へと向ける。そして、視線はメインスタンドへと注がれた。左の人差し指を右胸の4に添える。圧倒的なまでの不敵な笑み。初めて背負った数字を我が物とし、その場に存在する幾万の視線を釘づけにした。

 4が刻まれた日。その支配的な佇まいと絶頂に達した興奮を僕はきっと忘れない。

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