距離を変える美術鑑賞プログラム
高松市美術館さんと実施してきた、オンラインの鑑賞プログラムシリーズ。
#3は、実際の常設展会場が使えるということで、展覧会場や作品との向き合い方を、体を動かして考えるエクササイズ的なプログラムを行いました。
#1の記事↓
昨年からオンラインでプログラムを行っていますが、これまでは左図のようにそれぞれの家庭を個々の機器でつなぐ方式でした。今年に入って参加者自体は集合できるという状況が徐々にできてきて、今回は右図のように僕だけ自室で、他の人は美術館に集まっているという方式。この街大好きのシゴック先生っぽい感じで、ちょっとおもしろかったです。
この方式だと、遠くの美術館や、学校での出前授業的な対応も可能になりますね。今回の依頼も、コロナ禍でのアウトリーチ活動の実験という側面がありました。
さて、3回目の今回は「展覧会場の巡り方」と、「距離を変えて鑑賞する」がテーマ。参加者は美術館の関係者など一般の方、約10名。
「展覧会場の巡り方」については、以前この記事に書いたので割愛。
実際のプログラムでも記事と同じことをお話してから、実際の会場をざっと巡って気になる作品を一つ選び、後でじっくり鑑賞してみるというワークを行いました。
この記事ではもう半分のワーク「距離を変えて鑑賞する」についてお話します。
このワークは作品を鑑賞する位置を「近・中・遠」の3つに分け、それぞれの距離から感じることの違いを共有する、シンプルなプログラムです。
作品から、「近:1m以内」、「中:1〜2m」、「遠:3m以上」と、距離別に3つのゾーンに分け、わかりやすく印などをつけておきます。
各3分で3つのゾーンを移動しながら、それぞれの距離で感じたことをワークシートに書き出します。
距離が近ければ、作品の細部が見えたり、質感が想像しやすくなったり、また作品のメディアによっては匂いなども感じられるかもしれません。回り込んで側面を見ることもできるでしょう。
反対に遠ければ、作品全体が把握できたり、額縁・台座・壁や、周囲の作品との関連性などに思いを巡らすこともできるでしょう。作品と距離が開けば、その間に他の鑑賞者が入ることもあるので、他の人の鑑賞方法を観察するのも面白いかもしれません。
このように、距離を意識的に変えて鑑賞すると、作品から得られる情報にいろいろと変化が起こりやすくなります。
鑑賞の楽しさというのは、自分の思考や想像に跳躍があること、要するに「気づき」が起こるかどうかが非常に重要で、その気づきを生むためには、視点を意識的に変化させることが一つのトリガーになります。
同じ地点から作品を眺めているだけでは、入ってくる情報に変化が起こりづらく、「気づき」への到達もしにくくなります。
視点の変化を起こすには、他の解釈に触れることであったり、表現する側の視点を体験させるなど、様々な方法がありますが、今回のプログラムでは、「物理的な距離の変化」に落とし込んで、参加者が実際に体を動かして体験してもらいました。
3つの距離で鑑賞したあとは、同じ作品を見た2〜3人で感想を共有し、軽い総括を行ってプログラムを終了しました。
<感想>
・遠距離で見る場合に、隣り合う作品との比較をする、空間とのバランスも見るということを気 づかせてくれてはっとした。今まで目の前の作品しか見てなかったので。
・絵との距離によって見え方が違うことを改めて感じた。
・見る距離は結構大事だなあと思いました。
・体の位置を変えることで、作品の見え方が変わる。その事を実際に体験してみて非常に楽し かったです。
・見る距離を変えて意識して見ることで、普段とまた違った楽しみ方ができました。
かなりシンプルなプログラムだったので、伝えたいこともストレートに伝わったようです。中学生などに向けての実験としての実施でしたが、中学生が参加者でも十分伝わりそうでした。
「近・中・遠」3種類の距離に注目してのプログラムでしたが、実際は感想の共有のワークで行ってもらった「椅子に座る」というのも、体制の切り替えやリラックスモードでスイッチが入り、思考に変化が起こるトリガーになります。
また、「超遠距離」として、作品が見えなくなるまで離れることや、館外へ散歩に行ったり、軽く飲食をすることなど、更に距離的・時間的に作品から離れることもトリガーになったりするので、実際に美術館などで鑑賞する際には、それらも意識しつついろんなアプローチを考えてみると良いと思います。
概ね成功したこちらのワーク、今度はこれを各自の自宅でも実施が可能かどうかを実験していきたいと思います。
今回のプログラムの詳細はこちらのページへ