親子の「さんぽ鑑賞」と「からだ鑑賞」の実験1
先日、「さんぽ鑑賞」親子向けバージョン開発実験を行ってきました。
その報告ログを記します。
「さんぽ鑑賞」についてはこちらの記事で↓
会場は、「コレクティブハウスかんかん森」。
マンションのような住居の中で、住民の皆さんが空間や時間を
「一部」共有しながら、ともに生活をされている場所です。
協力してくれたのは、主に親子住民の方々。5組17人。
(8人チームと9人チームで、2回に分けて行いました。)
子供さんの年は5歳以下が5人ほどで一番多く、
あと2人ほどが7〜8歳という感じで、わりと低年齢に寄った参加者層でした。
なので、思考することや、発話の能力の比重がかなり大きい
通常の「さんぽ鑑賞」をそのまま移行するのは難しそうだったので、
今回は後半に体を使ったワークを試してみました。
参加者が集合したら、まずシートを広げ、
「糸なし糸でんわ(紙コップの底に穴を開けたもの)」を使って、
親子のペアでお話しながら絵を見てもらいました。
お話しするときには、以下のようなゆるい約束があります。
・親はなるべく自分の意見は言わない。子供の話をよく聞くこと。
・次のような質問をすると子供の話が広がるかも。
「何が描いてある?」「どうしてそう思ったの?」「他に発見したことはある?」
*他にも子供が答えやすいようなオリジナルな質問も可
このフォーマットは、以前行った「親子の糸でんわ鑑賞」をベースにしています。
で、やってもらっていたのですが、あまりスムーズにいってなさそう・・・
どうやら原因は8倍に引き伸ばした、作品の倍率のよう。。
大人ではそんなに感じませんでしたが、子供達には大きすぎて、
描いてあるものが何がなんだか、分かりにくそうです。
ということで、実物サイズから仕切り直して始めることにしました。
まず、実際のサイズでどんな絵か大体のイメージを掴みます。
それから、拡大したシートの方を歩きながら鑑賞してもらいました。
10分くらい鑑賞してもらって、感想を聞くと、
まず、多くの子が気になったのは・・ヒビ!
確かに400年前に描かれたこの絵には、
よくみるとたくさんのヒビが入っています。
しかも今回はそれが引き伸ばされているので、なおさら気になるのでしょう。
「なんで、こんなに『線』があるの?」と、
ヒビと認識してるかどうかには差がありましたが、
小さな子ほど、このヒビの線を気にしている印象がありました。
他には、「牛乳なのに(甕に溜まっている部分?)茶色い」
(この国には牛がいなそうだから、これはラクダの乳じゃないかという意見も)
テーブルにある青い布が「氷」に見える
(青い色とヒビの線のイメージからか??)
・・というように、
年齢が小さいと「色」「形(線)」にとても敏感な反応をするんだなぁと
感じました。
他に多くの子が気になったのは、この部分。
「なんでプツプツって描いてあるの?」と点描画の技法を感知した子もいれば、
左のが梨で、右のが生姜じゃない?
いやいや、左のはドーナツで、右のはクッキーなんじゃない?と、
モチーフが何なのか意見が割れているきょうだいもいました。
あとは、大人が鑑賞しても話題に上がるこの謎の物体について。
「横の穴から風を取り入れて、上の穴から送風する「扇風機」なんじゃない?」
「昔の人が手作りした「おもちゃ入れ」なんじゃない?」
「サイコロ?」「オルゴール?」
など、いろんな意見が出ていましたが、大人も含めて正解は出ず・・・
なので、これが何なのかは、休憩時間に各自検索するという宿題にしました。
あと、大人がこの絵を見ると、
この「女」が何を考えてるのか?どんな気持ちなのか?
ということを考える人が多いのだけれど、
そういうことが気になり出したのは、7〜8歳の年上の子たちという感じでした。
(「この人の被ってるの何?」っていうのは気にする子が多かったです。)
ある子は、
「この人は昔の人でお金持ちじゃなくて、一人で住んでいて悲しみがある。」と。
またある子は
「隣の部屋に病気で寝ている人がいて、看病のための料理を作っている」と。
イメージを伝えていました。
大人も「女」の表情については、悲しみなのか、慈しみなのか、
意見が分かれることが多いのですが、今回もそんな2通りの意見が出たのが、
興味深かったです。
ちょっと対象の絵が写実的すぎて、
幅広い年齢の子が、色彩や形態以外のイメージを膨らませるのには、
ハードルがあったのかなと感じました。
ファーストタッチとしては、もう少し色や形が豊富だったり、
抽象的な要素もあった方が良いのかもしれません。
他には、作者の作品の中から、絵の断片を探す「絵探し」をやって、
作者の自画像や、故郷の風景が描いてある作品を紹介しました。
そこから、生まれ故郷の「オランダ」を地球儀ビーチボールで探してみたり、
絵の青の部分に使われているラピスラズリの原石を手渡して、
「これなあに?」とクイズを出したりして前半は終了。
大体40分くらいでしょうか。
10分くらい休憩しつつ、宿題の検索をやったりして、
後半は、体を使った鑑賞を試してみました。
「さんぽ鑑賞」は言葉や思考に頼る部分が大きいので、
反対に、もう少し感覚的に即興的に鑑賞する方法として、
体を使ってこの作品をトレースすることを目標にしてみました。
といっても、いきなりはイメージしにくいので、まずは
体を使うことの練習として、形態模写みたいなことをやってみます。
ここら辺のワークは以下のワークショップがベースになっています。
うさぎー赤ちゃんうさぎーおじいちゃんうさぎ
ゴリラー赤ちゃんゴリラーおじいちゃんゴリラ
と、動物の真似をみんなでしていきます。
ゴリラ楽しい。
盛り上がってきました。
次に形のないものの表現に挑戦。
「火」と「雨」をチームに分かれてやって、
弱火ー強火ー大火事、小雨ー本降りー土砂降りと、強さの調整も行います。
で、「火」チームの方に「雨」チームが向かっていって、両者は合体し、
煙ー雲ー雷ー再び雨ー海ー海の中と、状態変化していきます。
海の中に何がいるか?をそれぞれが自由に表現して、
全体で「海の中」を表すと、ここで絵を体で表すワークに突入します。
海は海でも、「この海」を体で表して!と指示を出します。
いままで、自由にやっていた動きを全体で合わせなければならないので、
いろいろ相談が必要です。
「パパは背が高いから波やって。」
「私は富士山。」「船やりたい。」と。
相談しながら表したのはこちら>
やってる本人たちからのイメージだからか、像が反転しているように見えます。
これを写真に撮って、自分たちでもう一回調整し直したのがこちら↓
なるほど、まとまりや奥行き、重なりみたいな要素が増えているように感じます。
2チーム目の成果はこちら↓
波をやってる人が多いとまた印象が変わります。
寝転んで作った船の上に、ちゃんと人が乗っているのが可愛い。
さらに、みんなで絵の全体を表す大変さがわかってきたので、
「部分的にやってみる」というアイデアが出てきました。
すると、1チーム目では、「波が手みたい!」という声が上がり、
みんなでやってみると・・
おおっ本当だ!!
これは発見!
みんなでもう少し揃えると・・
すごい!「あの」波みたい!
最前列の子の髪の毛も、波に見えてきたとの声も。確かに。
2チーム目は「船」の部分をみんなでやってみました。
寝転がったお母さんの上に、子供達全員が乗ると・・
なんかバナナボート感が。。。
船に乗ってる人たちはどんな感じ?と聞いてみると、
必死で掴まってるとか、みんな吐いてそうとか、
大変なイメージのようだけど、いざやってみると。。
わーい。と、みんな現実の楽しさの方が勝っちゃいましたね。
アトラクション感満載。
・・という感じで、どんなものでも自分たちの体で表せる状態になったので、
いよいよ、「牛乳を注ぐ女」を体で表してみます。
要素が多いので、それぞれ自分のなりたいものになってみました。
「僕は机!」と真っ先に台形で机を表してくれました。
この絵の机は、実は遠近法をわざと無視した台形をしているという説も
あるのですが、何かそれを彷彿とさせる手足の角度なような気も・・
他の子はいろんなものに成り代わったりしていたのですが、
彼は頑なにずっと机。
それにつられ、私も!と机になった女の子。
こちらは立って立体的な机に。
着ていた服を脱いで、テーブルクロスも表現しています。
というような感じで、1チーム目の総観図はこちら。
「女」のスカートになったり、二の腕になったり、牛乳になったり、
右上のお父さんは額縁かな??
誰も「女」本体はやらないという、面白い図になりました。
2チーム目は人数が少ないこともあって、
一人で何役もこなしていました。
まずはテーブルの上のドーナツ。
お母さんが穴を調整しています。
壁にかけてあるカゴ・・ではなく、
彼女の解釈では、「時計」
すると、横の窓をやりたいという友達もやってきました。
窓と時計。
この足の折りたたみ具合が、彼女にとっての窓のイメージなのかなぁ。。
あと、宿題にしていたあの謎の小箱は、「暖房器具」だったのですが、
それになりきって、「女」を温めています。
手が暖かい部分のようで、「女」の方をしっかり向いてます。
こちらは、母と娘の合作で、牛乳を注ぐ女。
ポニーテールが牛乳です。
さらにお父さんも共演。
今度は手が牛乳になって、お父さんの甕の中へ・・・
娘さんは楽しくなって、何度も牛乳役をせがんでいました。
妹につられたお姉ちゃんも、ビックサイズの牛乳に変身。
あと、妹さんは壁のシミなのか、汚れにも見える下のものが、
「弾けた(潰れた?)ポップコーン」なのだと言っていて、
(テーブルの食べ物からの連想かな?)
ジャンプで弾けた様子を表してくれました。
(よくみると足元に、元ネタの画像が見えます)
締めは、姉妹が気になった壁の釘。
お姉ちゃん釘
姉妹釘
というわけで、実験だったのもあって、少々とりとめもない形で、
今回のプログラムは終了。
「言葉」で見ることと、「言葉以外」で見ること、
その2つの行き来をもっと意識的にしながら、
プログラムを組めたらなあと感じました。
ここに書いた以外にも、様々フィードバックがあって、
まだまとめきれていませんが、今月あと2回ほど実験する予定なので、
さらに楽しめる内容に改良して、詰めていきたいと思います。
参加していただいた皆さん。どうもお疲れ様でした。