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反戦デモの話

私の弟はロシアに留学していた。
ロシア人もウクライナ人も友達がいる。

このご時世だ。 
戦争を肯定するつもりはない。
政治的な議論などするつもりもない。

でも、ロシアという国は、私にとってもけして遠い国ではないのだ。

「ロシアの日」にロシア大使館に行ったことは忘れられない。
ロシアの人々は、素朴で優しくて、ちょっと人見知りで、人懐っこくて。

テレビで見るロシアとは全く違った。

ロシア大使ガルージンさんの流暢な日本語にはびっくりした。
あそこまで綺麗な日本語は日本人でも喋れないだろう。

いつか行ってみたかった。エルミタージュ美術館や、サンクトペテルブルクの美しい景色。赤の広場。
バレエや演劇も、

見てみたかった。

こうなる前に行けばよかった。

個人で関わるとこんなに親切で優しい人達なのに、国が関わるとそうは言ってられなくなる。

戦争が始まり、弟は苦悩していた。
友達がどちらの国にもいるのだ。誰も黙して何も語らない。

彼は渋谷で行われた反戦デモにも参加した。
私もいてもたってもいられず参加した。

先頭集団はロシア語で、反戦を叫んでいたようだが、私は仕事の後に参加したので最後尾のグループだった。


最初は黙々と歩いていたが、先頭集団の白人男性が、

stop the war!

と叫んだ。発音の感じから先頭は合衆国の人だと思う。
すると後ろの男性が、Free Ukraine!と叫んだ。
思わず私も一緒に叫んだ。

すると叫んでいた前の人達が一斉にこちらを向いて目があって

お互いに微笑んだ。

いつの間にかそれがシュプレヒコールになり

全員で、

stop the war! Free Ukraine!

と大声が続いた。

私も大声で叫びながら渋谷の街を歩いた。
叫びながら涙が出てきた。
道端の外国人が大勢握手を求めてきた。
みんな同じ気持ちだと、伝えようとしているようだった。
泣いている外国人もいた。

どこか陶酔したような、叫ばなければ。
彼らの分も、声を上げなければ。
熱狂の渦の中で道路の真ん中を歩き続けた。

歩きながらふとレジスタンスのことを思った。
叫べば叫ぶほど燃え上がる使命感。
こんな感じだったのだろうか。

とにかく戦争は駄目だ。誰かが絶対に声を上げないといけないんだ。

そんな気持ちで叫んでいると、次々と背後から色んな人が追い抜かしていった。

ニェット[no]putin とその下にキリル文字でたくさんの言葉が書いてある紙を無言で掲げながら後ろから歩いてきた人

肩がぶつかりそうなくらいの勢いで、前へ前へと無言で歩いて行った。
声は出せないけど、あれは彼の精一杯の抗議なんだろうか。

あのデモから、数ヶ月たったが、
戦争はまだ終わらない。

ニュースを見る度に胸が詰まる。

またロシアの日にロシア大使館に行けることはもうないのだろうか。

あの素朴なロシアの人達と触れ合えることはないのだろうか。

またロシアが近くて遠い国になってしまった。

そのことが今はとても苦しい。







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