真人間になりたい。繁華街で働くクズ、風紀の末、パパになる。1

「赤ちゃんができてた」

その一言に私はどんな顔をしていたのだろう?

満三十歳になる私は世間一般で言うところのクズである。 
酒、ギャンブル、タバコ、ゲーム、イメージの悪い趣味は全てやる男で、仕事も夜の仕事。
今まで遊んでいても子どもは作らないように心がけていたし、まだ子供だと自認していたので遊ぶだけ遊んでいた。そういう所も踏まえてクズだと、本当に思っている。
だから、結婚に縁なんてない男だと思っていたし子育てなんて以ての外。現に父親には私の代が末代だと豪語していたほどだ。しかし、ここ最近の私は年齢を重ねれば重ねるほどにクズとして弱くなっていた。人を騙すのも暴言を吐くのも嫌になり、一人でいるのも淋しくなっていた所に今の彼女がちょうど収まってくれた。それでも過去にしてきた事は無くならないし、クズのままではあるのだが、このままではいけないと漠然と感じていた。そんな折、同居している彼女に子供ができた、とそう言われた。

彼女とは私が働いている店で出会った。
その時はスタッフとキャスト、それ以上の関係はなくお互いに仕事上でしか関わらなかったが長く働くにつれ、お互いに戦友として仲良くなっていた。
同僚、それ以上でも以下でもなかった関係が変わったのは私が起こした交通事故がキッカケだった。
事故で落ち込んでいた私の側に彼女は居てくれたのだ。金銭での援助ではなく、ただ側に居てくれた。私にはそれが嬉しく、キャストではなく一人の女性として惹かれていったのだ。
そして、あれよあれよ同居が始まり、柄にもなく幸せを感じ、こんな生活も悪くないと笑っていた矢先での報告だった。

先ず思ったのが、金銭面。
私はクズなのでちゃんと借金があり、未だ返している途中。そして命を扱えるのかという漠然とした不安。
悲しいニュースがある度に、
「子供が子供を育ててはいけない」
みたいな事を無責任な立ち位置で私は無責任に常日頃から言っていた。そんな私が父親になる。口だけの男の真価を問われているような気がする。

私は短い時間だが熟考し、彼女に言った。

「産もうか」

今は勢いで言ったのかもう分からなくなったが、確かに本心で言った言葉だったと思う。

私たちの関係を夜の業界では風紀と言う。
文字通り風紀を乱しているし、キャストと言う商品を店側が勝手に扱うことなので、お客様への背信行為である為、どんなお店でも絶対タブー。厳しいところでは罰金の上、ボコボコにされる。誇張抜きで。そんな関係の上なので公にも出来ず、目に見えた繋がりもなかった。だからお互いに未来が欲しかったのかもしれない。何も考えずに子供を産むのは良くないと今でも思うが、私は家族が欲しい。一人はもう淋しいのだ。

だからこそ真人間になりたい。



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