2023年、生物多様性の危機は底をつくのか?今こそ保全と再生への転換の道を!
現在、地球上にはどのような動物が、どれくらいの数いるかご存知だろうか?想像してみてほしい。ある人はライオンやシマウマが駆け回るサバンナを、またある人はオランウータンやテナガザルが森の木を飛び回るジャングルを思い描くかもしれない。
現実の世界では、哺乳類の60%は牛や豚などの家畜である。36%が人間で、大地を駆け回れる哺乳類の動物はわずか4%に過ぎない。全ての鳥のうち70%は鶏やガチョウなどの家禽であり、空を羽ばたく鳥はわずか30%である。地球上の動物の半分がたった50年で失われたとも言われている。
人間の活動によって、約100万種の生物が絶滅するおそれがあると国連が報告するなど、「生物多様性」は危機的な状況にある。最も深刻なのは、地球上の生物種の半数以上が生息する熱帯林の減少だ。現代は、恐竜が絶滅して以来の6回目の大量絶滅期だと指摘する学者も数多くいる。
筆者が所属するウータン・森と生活を考える会が活動するボルネオ島では、スーパーに並ぶ商品の半分に使われている植物油脂パーム油を作るために熱帯林が皆伐されている。アマゾンの熱帯林破壊の最大の原因は肉用牛の放牧であり、森を守る最後の砦である先住民は、当時のボルソナロ政権により権利を奪われ、ブラジルはさながら国家自体が無法者となったかのようであった。
人類が生存できる地球の限界を表すプラネタリー・バウンダリーでは、気候変動や化学物質の汚染をはるかに超える危機として、生物多様性の損失が挙げられている。とりわけ絶滅してしまった種はもう二度と戻らない。筆者も人類の絶滅もそう遠くない現実になってしまうのかと絶望的な気持ちになっていた。
土壇場で踏ん張ったのは、2022年10月30日のブラジル大統領選挙の決戦投票でルーラがボルソナロを破ったことだ。ルーラは森林破壊ゼロを目指すと公言し、ブラジル初の先住民系閣僚が生まれた。ボルソナロ政権が続いていたらアマゾンの熱帯林は本当に無くなったかもしれない。筆者も10年前に訪れた壮大なアマゾン川の自然を思い出しながら喜んだ。
同年12月にカナダのモントリオールで開催された生物多様性条約締約国会議(COP15)では、ポスト愛知目標となる「昆明・モントリオール2030年目標」が採択された。2030年までに陸と海の30%以上を保全する「30 by 30目標」、自然の損失を止めてプラスに転じる「ネイチャーポジティブ」など、野心的と言われる目標が掲げられたが、先住民や女性や若者のグループがそれを後押ししたと言う。
長い地球の歴史を俯瞰すれば、その時代に繁栄を謳歌した種はあっさり消え去っている。人新生とも名付けられた現代で、我が物顔で地球を支配するのは、ホモ・サピエンス(ラテン語で賢い人間の意)と自らを名付けた人類だ。その傲慢さと強欲によって、ボルソナロを生み出すフェイクに塗れた自らを見抜けなくなってしまっている。
しかし、立ち止まって冷静に現実を直視する人々も増えてきた。代表はCOP15でも活躍した若者たちだ。その眼差しの先にあるのは持続可能な未来だ。アメリカの先住民は「地球は子孫から借りている」と言う。私たちウータン・森と生活を考える会も生物多様性の保全と再生へ粘り強く取り組みを続けたい。