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←『蝶のように舞えない』 和泉の髪は、日にあたると蜂蜜色に輝く。 そのことを憎む者は…
←1話 プロパンガスのボンベの搬入、その設置や配管、撤去は、沙羅の指示において行われる…
←2話 全身ずぶ濡れの、男か女かわからぬ者が、白い浴衣の裾を引きずりながら歩いていたも…
←3話 皮を剥き、食べやすいように小さく切った桃を、ガラスの器に盛って出した。 此紀…
←4話 目を覚ました時、隣にいた男の肌の匂いを感じて、此紀は安らいだ気分になった。 …
←5話 色舞にとって桐生は、情夫の息子である。当然産まれた頃から知っており、すくすくと…
←6話 甘蜜はしゃれっ気のある女だ。流行をよく知っており、身なりに金をかける。そのことを沙羅は救いのように感じもするし、単純に素敵だとも思う。 フレームが紫色の眼鏡というものを、沙羅はほかで見たことがない。形も凝っていて、レンズをふち取る楕円の隅がわずかに尖っている。 前髪を上げて紅をさし、その眼鏡をかけてノートパソコンに向かう姿は、いかにも仕事のできる女だ。実際そうなのであった。沙羅には一行も読むことのできない、おそらく中東の国の文章の束を、甘蜜は日本語に翻訳す
←7話 父の寄越した土産は、紺色の石を使った耳飾りで、鏡の前で和泉はほうと思った。 …
←8話 花模様の刺繍の入ったブラウスと、ベルベットのスカートという姿の沙羅に、そのスポ…
←9話 ――腕を回す運動です。大きい円を描くように―― 縁側に立てかけたタブレットか…
←10話 後悔のない生き方をしてきたと思う。 まだ若い身だが、だからこそ新品でいられる…
←11話 今日は顔色が悪い気がする。 斎観はそう思い、額に手を当てて熱を見てやろうとし…
←12話 無職の朝は早い。 松本は健康で長生きをしたいタイプの怠け者である。 朝は九…
←13話 小さな小さな、手のひらに乗るようなテディベアを、女は机の引き出しの中にたくさん座らせている。 ディスプレイというよりも、隠れキリシタンに近い。この屋敷で、熊といえば災厄の象徴である。人里で言えば鬼であろう。 尊属を熊に殺された者もいるから、この引き出しの世界を知られてはならないのだ、と女は思っている。禁じられているわけではないが、誰でも親の仇を愛玩されては不快だろう。 だからこの趣味を知るのは、師と姉弟子だけだ。どちらも、小さな熊をこっそりと買ってきて