マガジンのカバー画像

小説エピソード集 「蝶のように舞えない」

19
新エピソード シリーズ
運営しているクリエイター

記事一覧

蝶のように舞えない 0話

 幼い頃、父はよくギターを弾いてくれた。  譜面があったのだろうか、即興だったのだろうか…

蝶のように舞えない 1話

←0話  蘭香が趣味で焼くパンは、香ばしいが水分が抜けていて、どうにも口あたりが悪い。  …

蝶のように舞えない 2話

←1話  今日も女のうめき声が聞こえる。  ああ嫌だと、蘭香はかぶりを振りたいような気分…

蝶のように舞えない 3話

←2話  あの女医は実に色気があると、豊満なバストや太ももを思い起こしながら、東雲は焦れ…

蝶のように舞えない 4話

←3話 「あん先生は変わりもんだっけん」  宇宙飛行士のような椅子に全身を預けている兄は…

蝶のように舞えない 5話

←4話  自分たちが、保護区域で飼育されている朱鷺ならば。  部屋に放していた青い小鳥を…

蝶のように舞えない 6話

←5話  姉は昔から、キャラメルのような匂いがする。  香水か、化粧品か、あるいは洗剤なのかもしれない。和風の大柄な女であるから、似合っているとは言いがたい香りだ。  要らぬことを言うと小突かれるから、口に出したことはないが。 「あら」  頭に触れられたと思うと、軽い痛みが走った。 「いて。何?」 「白髪があったから、抜いてあげたわ」 「マジかよ」  自分たちにも白髪など生えるのか。西帝は軽い衝撃を受ける。 「俺に白髪があるってことは、姉さんにもあるの?」 「さ

蝶のように舞えない 7話

←6話  どうやら、また蘭香がなにか菓子をこしらえているらしい。  鍋を使う音と、うす甘…

蝶のように舞えない 8話

←7話  東雲の運転する車は、丸みを帯びたフォルムの国産車で、後部の窓のところにぬいぐる…

蝶のように舞えない 9話

←8話  平然としている姉に代わって、自分が頭を抱えたいほどの損失額である。 「お菓子食…

蝶のように舞えない 10話

←9話  万羽は部屋のふすまを開け放ち、揺り椅子に腰かけていた。眠っているらしい。  差…

蝶のように舞えない 11話

←10話  確かによく見てみれば、色舞はなかなか綺麗な女と言えた。  顔が小さく、顎がとて…

蝶のように舞えない 12話

←11話    父の部屋にはいつものように、血と体液の臭いが籠もっていた。  うんざりしな…

蝶のように舞えない 13話

←12話  弟から八件の電話着信が入っている。それと、六件のメッセージ通知。  その通知を見た瞬間、血の気が引いた。指先がさっと冷える。  目の視えない弟の身に何かあったのではないか。マナーモードなどにするべきではなかった。まだ生きているだろうか?  崖から足を滑らせて、虫の息で電話を握りしめる弟の姿が思い浮かぶ。  震える指でメッセージのほうを開き、弛緩した。  生きているし、足を滑らせてもいないようだ。しかし電話は折り返したほうがいいだろう。  風呂の様子をうか