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幼い頃、父はよくギターを弾いてくれた。 譜面があったのだろうか、即興だったのだろうか…
←0話 蘭香が趣味で焼くパンは、香ばしいが水分が抜けていて、どうにも口あたりが悪い。 …
←1話 今日も女のうめき声が聞こえる。 ああ嫌だと、蘭香はかぶりを振りたいような気分…
←2話 あの女医は実に色気があると、豊満なバストや太ももを思い起こしながら、東雲は焦れ…
←3話 「あん先生は変わりもんだっけん」 宇宙飛行士のような椅子に全身を預けている兄は…
←4話 自分たちが、保護区域で飼育されている朱鷺ならば。 部屋に放していた青い小鳥を…
←5話 姉は昔から、キャラメルのような匂いがする。 香水か、化粧品か、あるいは洗剤なのかもしれない。和風の大柄な女であるから、似合っているとは言いがたい香りだ。 要らぬことを言うと小突かれるから、口に出したことはないが。 「あら」 頭に触れられたと思うと、軽い痛みが走った。 「いて。何?」 「白髪があったから、抜いてあげたわ」 「マジかよ」 自分たちにも白髪など生えるのか。西帝は軽い衝撃を受ける。 「俺に白髪があるってことは、姉さんにもあるの?」 「さ
←6話 どうやら、また蘭香がなにか菓子をこしらえているらしい。 鍋を使う音と、うす甘…
←7話 東雲の運転する車は、丸みを帯びたフォルムの国産車で、後部の窓のところにぬいぐる…
←8話 平然としている姉に代わって、自分が頭を抱えたいほどの損失額である。 「お菓子食…
←9話 万羽は部屋のふすまを開け放ち、揺り椅子に腰かけていた。眠っているらしい。 差…
←10話 確かによく見てみれば、色舞はなかなか綺麗な女と言えた。 顔が小さく、顎がとて…
←11話 父の部屋にはいつものように、血と体液の臭いが籠もっていた。 うんざりしな…
←12話 弟から八件の電話着信が入っている。それと、六件のメッセージ通知。 その通知を見た瞬間、血の気が引いた。指先がさっと冷える。 目の視えない弟の身に何かあったのではないか。マナーモードなどにするべきではなかった。まだ生きているだろうか? 崖から足を滑らせて、虫の息で電話を握りしめる弟の姿が思い浮かぶ。 震える指でメッセージのほうを開き、弛緩した。 生きているし、足を滑らせてもいないようだ。しかし電話は折り返したほうがいいだろう。 風呂の様子をうか