「経験則」も駆使してみよう!:"地すべり地形"で頭の体操~その1-3~:埼玉県中西部平坦~中山間地域【災害から身を守るvol.34-3】
地すべり地形で頭の体操をしてみようと言うことで、埼玉県秩父市のとある地域の地形を題材にしています。
今回は前回の最後に出した「お題」について検証してみます。
地形を見る
ではさっそく、地形図を再確認します。
青線は「スーパー地形」で断面図を作成する際に表示されるものです。
この断面図(地すべりに対して縦方向なので縦断図とも言う)は、一般的には地すべりが動いている方向に設定します。その方が調査・解析をする上で何かと便利だからです。
今回見直してみると、もう少し南南東方向によせても良いかな?とも思いましたが、末端部の標高が低い上図のままで進めることにします。
地すべりの外周
ではまず、地すべりの外周に線を引いてみます。
北東の地すべり地形との境界部分は少々迷いましたが、まぁだいたい、こんな感じで良いでしょう(笑)
やはり概ね南東方向が移動方向だと推定されます。
ちなみに、この地すべりは分離小丘(上図の青線)や陥没帯(上図赤点線)がハッキリしていて分かりやすいです。
これで地すべり地形を見分けるコツをつかむ人もいるかも知れませんね。
また地すべりの末端部の沢沿いには、小規模な崩壊跡(上図茶色点線)と思われる地形が沢山あります。これについては後ほどまたお話しします。
断面図で考える
次に断面形状を考えてみましょう。
今回もコレが手掛かりです。「なべぶた(亠)」のような記号が沢山ありますよね。この「ヒゲ」が出てる方向が傾斜方向です。その近くに書いてある数字が傾斜角度。
傾斜方向は南南東方向が多く、角度は10~30度です。
地すべりの断面図の方向は概ね南東方向と、層理面の傾斜方向とは多少ズレているので、すべり面の傾斜を5~10度の範囲で検討してみます。
まずは5度の場合。
あくまでの私の経験的な勘所ですが、地すべり断面として「ありそう」な断面形状ではあります。
でも少し「厚い」かな?とも感じます。
では!と、10度で線を引いてみます。
お!これもこれで「ありそう」ではあります。
どっちやねん!
って思うかもしれませんが、大丈夫。解決方法はあります。
経験則を使え!
どんな分野でもそうかもしれませんが、計算結果や理論ではなく「経験則」を使う場合があります。
例えば土砂崩れの場合、崩れた土砂が到達する距離は、だいたい「落差の2倍程度」と言われています。
なぜか?は別として、確かに実例を見ると、だいたいはその範囲になっています。なお土砂災害警戒区域の範囲の決め方は、この経験則に基づいていますので、信頼性のある経験則と言うことになります。
今から使う経験則は、そこまで信頼性のあるものではないですが、検討の目安にはなる法則です。
では、どんな法則か?
「地すべりの厚さ(最大層厚)は、地すべり幅の1/7程度」
と言う経験則です!!
さっそく見てみましょう!
幅は真ん中あたりで約400m。400÷7=50~60mです。
次に、すべり面傾斜角度が5度の場合と10度の場合で、地すべりの厚さ(一番厚いところ)を見ます。
・5度の場合
100mはだいぶ厚いですね。滅多にない規模です。
・10度の場合
お!60mってドンピシャじゃないですか!!
でも実は、これだけでは10度が正しいとは言えないんです(;^_^A
どういうことか?次週へ続きます♬
参考文献
牧本 博・竹内圭史(1992) 寄居地域の地質.地域地質研究報告( 5 万分の 1 地質図幅),地質調査所,136p.