ビンラディンと同じ時計を24時間身につけているけどファンではありません
ジェームズ・ボンドの腕時計は、ロレックスかオメガである。
ぼくには時計の趣味はないけど、それでも1962年の『ドクター・ノオ』でコネリーが身に着けている腕時計を見るとカッコいいと思う。時代を越えたデザインだ。
「サブマリーナ 6538」というモデルで、いまでは1400万円する。ボンドが身につけるとブランド価値が上がるので、各社が採用をめぐって競い合うのだそうだ。
ただしボンドの時計には「暗黒時代」があった。暗黒時代というのはぼくがそう名付けただけだけど。
1977年から1985年まで、なんとセイコーが採用されたのである。セイコーもカッコいい時計はいろいろあるはずなんだけど、『007 オクトパシー』でロジャームーアがはめた時計は、なぜかこれだ。
「セイコーデジボーグ」。「全画面液晶」がうたい文句で、ボンドが敵に発信機をつけると、この時計がピーピー鳴って方向を教えてくれる。
当時はハイテクな感じがよかったのだろうが、今見るとおそまつだ。極美品が5万円で取引されているので、全然ブランド価値が上がっていない。「5万円 vs 1400万円」。時代を生き残るものとそうでないものの差は歴然とある。
ボンドはカジノで1000万ドル(約14億円)の勝負をする男である。タキシードの下にこの時計をはめていたらカジノからつまみ出されるのではないか。
ところで、5万円のデジボーグを下に見るようなことを書いているぼくだが、カシオの1283円の時計(いわゆるチプカシ)を24時間はめている。
2019年1月に買ったので、ちょうどSNSを始めた時期だ。24時間はめているのはたえず時間を意識したいきもちがあるからだけど、ほかの理由もあった。
若かりし頃のビルゲイツが、これと似た時計をしているのをみて「カッコいい」と思っていたのだ。
実用本位というか、これぞシリコンバレーという感じ。そもそもキーボードを打つには大きな時計はジャマで、軽くて薄くてつけていることを忘れさせるような時計でないといけない。
サイバー時代にデカい時計をしている人は、キーボードを叩かなくていいほどエライ人か、またはキーボードの打てない人だ。
ゲイツは、今でもカシオを着けている姿が目撃されており、金持ちアピールをする必要のないほどの大富豪ぶりが話題である。これは7600円。
また、チプカシを愛用する有名人は意外に多くて、このローマ教皇モデルは2600円だ。
そして、ぼくと同じ「FW-91」モデルをはめている有名人はじつはビル・ゲイツではなくてオサマ・ビンラディンなのである。
ゲリラはいそがしいので、ミサイルを買うヒマは合ってもロレックスを買うヒマはなかったのだろう。それにしても、ビンラディンの背中を追っていたということに今日の今日まで気づかなかった。
人間はWindowsを開発するときや、WTCビルを破壊するときなど、さまざまな理由でチプカシを身につける。
歴史の影にチプカシあり
なのだ。
チプカシは、超実用本位の磨き抜かれた「ザ・ジャパニーズ・デザイン」である。これからも、軽トラックみたいに時代を越えて親しまれるのではないだろうか。日本人が本気を出したらこのくらいのことはやれるのに、いまは何でこうなんだろう?