「老後の不安」を口にする人がやたら多い
最近、ぼくより若い人で「老後の不安」を口にする人がやたら多い気がする。
妻が小学校の同窓会に行ったときに、「老後が不安だからみんなで一緒に家を借りて住まないか」とかつてのクラスメートに声をかけられたそうだ。
ネットにはこういう不安がゴロゴロしている。たとえばこれ。
他にも、「46歳一人暮らし。「ねんきん定期便」の年金額を見て不安になりました」とか「43歳月収19万。無理してマンションを買い完済は78歳」などいくらでも出てくる。世の中、不安だらけだ。
こんなのヤラセじゃないかと思う人もいるだろうが、ぼくはそう思わない。プライバシーに関する箇所は修正されているだろうが、ぜんたいに誠実なやり取りが行われているという印象を受けた。
それにしても、質問に答えているファイナンシャルプランナーの人がじつにエライのだ。相手に「寄り添った」な現実的な答えを出している点に頭が下がる。
ビジネス本や自己啓発本の著者に質問したらこんなふうにはいかない。「あなたの考えがそもそもダメだ。さっさと会社を辞めろ」といったメンタル論で一蹴される。
ちなみに上記の「貯金はなく、かつかつの生活で楽しみもなく、老後の生活も不安」な42歳会社員の女性「ふゆ」さんに対してファイナンシャルプランナーの深野康彦氏は、
病気を乗り越えて正社員での復帰。がんばりましたね(中略)
今は、体調維持を一番に考えて、今の生活をキープすることを最優先してください。
と答えている。ボーナスが出れば状況は変わるから、それまでムリしないで親に頼れるところは頼りましょう、と。
できるだけ長く働けるよう、どうぞ体調維持を一番に考えて過ごしてください
と励ます。ふゆさんの世界観に寄り添った回答だ。けっしてカツをいれようとはしない。
それに対する「ふゆ」さんの感想も寄せられていた。
老後のために日々、節約して生活しなければならないということが客観的に示されたことで、一度ルートを外れると底辺まで落ちてしまい、こうなるんだと実感しました。人生設計の見直しと、今よりも年収の高い職場への転職を考えていきたいと思いました。
「老後のために日々節約しなければならない」ことが「客観的に」示され、「一度ルートを外れると底辺まで落ちる」ことを「実感した」のだそうだ。
そりゃぼくだって彼女の考えは残念だとはおもう。「あ~あ~」とは思うよ。自分の考えで自分の可能性を狭くしているなあと。でも深野さんは「ふゆ」さんに決してカツを入れようとはせず、彼女の不安に寄り添っているところがエライ。
ところで「ふゆ」さんはじつにマジメな人だ。世の中こんな人ばかりではない。というかごく少数かもしれない。
たとえば『警察24時』に出てくるシャブ中や、あおり運転常習者や、結婚詐欺師や、ギャンブル依存症の連中で「老後のために日々、節約」などと考えている奴はいない。「一度ルートを外れると底辺まで落ちてしまい、こうなるんだと実感」している奴もいない。
「ふゆ」さんは、底辺といっても30代で一度退職して奨学金を得て学校に入りなおして勉強している。卒業後に体調を崩してやむをえず無職で療養したために貯金がゼロになっているだけだ。底辺などとんでもない。
底辺とは彼女のような人のことではなくて、あおり運転常習者や、シャブ中や、パチンコ依存症の連中のことだ。しかしこういう連中にかぎって老後の不安などカケラもなく、日々楽しく、前の車をあおり、シャブをチュルチュルと打ち、パチンコでフィーバーしているのである。
「ふゆ」さんは、まじめすぎて損をしている。自分の世界を委縮させてしまっている。
ちなみに、ぼくは悩みのない人間なので、ふゆさんのようなことは思ったことがない。40代には1日100円で生きていたことがあるが、老後のことは一度も考えなかった。
「やれるだけやって、行き詰まったら樹海の肥やしになればいい」と思っていたので、メンタル的には「警察24時」に出てくるシャブ中や結婚詐欺師に近い。
言うまでもないけど、こんなのは自慢にならない。育ちが悪いとこうなるというだけだ。
だから、ふゆさんとの世界の見え方のギャップにまず驚く、彼女のまじめさにややギャップ萌えしている(笑)。ふゆさんが
現在、プライベートの交際費はなく、何の楽しみもない。習い事を再開したいが、月謝の6000円を捻出できない
と書いているのに対し、深野さんは「ボーナスが出たらぜひ、習い事も再開してください」と書いているが、まったく同感だ。習い事をやりたいってのは女の子らしくていいな。6000円の習い事でぜひ楽しみを見つけてほしいよ。まだ42歳だよ。
ただし一方でふゆさんは養老保険に月1万3000円も払っており、この点は深野さんも疑問視しているが、不安の強い人はこういうところで足をすくわれやすい。
つまらん保険なんかさっさと解約して月6000円くらいの習い事やったらいいのに。明日死ぬかもしれないんですよ。
それにしても、こう言うのを読んでいると、私小説を読んでいるようにシミジミして私小説よりもよっぽど読みごたえがある。でも、あまり読むと不安に感染してしまいそうな気もする。
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