ぼくらは群れで生きている
よく「類は友を呼ぶ」といわれるけど、類とは共通点のことだ。「類は友を呼ぶ」とは「共通点のある者が群れをつくる」ということである。
そして、だれにでも群れの切り替えの時期はある。たとえば、小学校の入学がそう。
それまでに群れていたのは近所の子どもたちだ。共通点は「近所」である。
しかし学校に上がると「クラス」という群れができる。近所の子どもよりもクラスの連中と一緒にいる時間が長くなる。そうやって、成長するにつれて群れはどんどん切り替わっていく。
部活動を盛んにやっていた人たちは、クラスの群れよりも部活のきずなのほうが強くなる。
イチローさんは、引退してからよく「ほっともっとフィールド神戸」(旧:グリーンスタジアム神戸)で草野球の試合をしている。観戦できないのでどういうチームで試合しているのかわからないけど、たぶん愛工大名電高校の野球部OBだろう。
イチローさんは、高校卒業後、日本プロ野球という「群れ」に属し、オリックスという群れに属し、さらにメジャーリーガーという群れにも属したけど、それでも「愛工大名電OB」という群れでいまだに集まっているならば、その群れはそれだけ強いきずなで結ばれているはずだ。
さて、高校を出て就職したり大学に入ると、「近所」とか「地方」という共通点がリセットされて、付き合いの範囲がガラッと変わることが多い。
イチローさんもオリックスに入ったことで付き合いの範囲がそうとう変わったはずだ。
愛工大名電の野球部が集まるなら、地元のバンテリンドーム ナゴヤ(ナゴヤドーム)が近いはずだけど、かれらは神戸に集まっている。それはイチローさんと名古屋とのつながりよりも、オリックスとのつながりの方が強いということなのだろう。
イチローさんにかぎらず、高校を出て、地元を離れてから入った会社や大学などのつながりは一生ものになることが多い。
高校で同じクラスにいた友だちでも、その後工学部に進んだ人と、芸術学部に進んだ人とでは、就職先も全然違うし、生涯にわたってつきあう「群れ」がずいぶん変わってしまう。
そうすると共通の話題がぜんぜん変わってくるのである。
ぼく自身は文学部という群れに長く所属し、その後、大学教職員という群れにも属していたので、同僚とのあいさつが
最近どんな映画見た?
どんな小説読んでる?
になるのがフツーだった。
しかし、30代にその仕事を辞めてエンジニアになった。するとその会社は社長以下全社員ゴルフ好きで、全社員のゴルフセットが会社に置いてあるというところだった。当然ながらまったく話が合わない。
『ジョン・ウィック』見ましたよ
ではだめなのだ。
マルサリスの新しいアルバム聞きました?
もダメだ。
最近、西村賢太に凝ってましてね
こういうのも全部だめ。
アイアン買い換えてからスコアが伸びたんですよ
とか
あのパチンコホールけっこう出ますよ
とか
新車の燃費が悪くてね~
などと言わなければならない。
でも、それはそれで世界が広がっておもしろい。一生おなじ群れにぞくするのもいいかもしれないが、ぼくは世界が変わる方がおもしろい。
ところで、ぼくは文学部系以外にも、長年「超常現象好き」という群れにも属している。そういう群れの会話の定番は
K福のK学が出した「プーチンの霊言」読みました?
とか
ロズウェル事件には、地底人が絡んでいると思うんですけど
などである。
しかし最近また付き合う群れが変わってきている。社会科学系のバックグラウンドをもち、比較的エリート街道を歩んできた層の人たちと交わることが多い。そうすると
『ジョン・ウィック』見ましたよ。
でも通じないけど、
あのホール出ますよ。5、15、25日がお勧めです
もダメであり
ロズウェルには、地底人が絡んでるんじゃないでしょうか
もNGである。
パウエル議長のタカ派発言の影響をどう見ます?
とか
ゴラン高原の石油利権が大きいですよね
などといわなければならない。しかし、それはそれで新鮮でおもしろいし、どんな群れも住めば都である。