隠すとよけいにはずかしい
イヤよイヤよも好きのうち、という言葉があるけれど、きらいきらいも好きのうちというのあるのではないか。「警察24時」にたいする自分の反応がまさにそうなので、そう思ってしまう。
この手の番組には、チンケでみみっちい犯人がたくさん登場するが、見ているうちに自分が彼らのことをきらいなのか好きなのかわからなくなってしまう。
以下は、「警察24時」ではないけど、チンケでみみっちい様子が、じつに警察24時的だ。
この犯罪が目に留まったのは太字の部分が気になったからである。
ところで、まず、被害にあった方はまことにお気の毒です。愛車をこんな風に傷つけられるのはつらいですよね。
ふつうの車でも腹立たしいけど、昔からあこがれていたクルマを傷つけられるのは余計につらい。
なぐさめにはならないけど、一家が惨殺されたり、子どもが拉致されたり、アタマの上から砲弾が降ってくるよりはましだと思ってあきらめていただくしかない。犯人も、そのはずかしい姿を全国ニュースにさらされていることだし。
さて、この犯人がいちばん恥ずかしいのは0:28あたりで人に見られていないかどうか確認しているところだ。いったんクルマの前をとおりすぎてから自転車を止め、引き返して周囲をうかがうあたり、なかなか用心深い。
ただし、2台の防犯カメラにばっちり映されて全国ネットで流されたので、その努力はまったく報われていない。
クルマに傷をつけるときにも精いっぱい背伸びして片足が浮いている。1cmでも広い範囲に傷をつけたいという意欲が伝わってくるので、それくらい憎らしかったのだろう。
とはいえ、被害者はこの人物と面識がないそうなので男性が憎かったわけではなくて、世間が憎かったのだ。うまくいかない自分の人生が憎かったのだ。
そりゃそうだ。これほど用心しているにもかかわらず、2台のカメラにばっちり映されてしまうような人生が、うまくいっているはずがない。
いま日本には500万台の防犯カメラが設置され、中国には2億台が設置されているそうだ。しかし、犯人のアタマの中は昭和のままバージョンアップされておらず、人影がなければ大丈夫と思っているあたりが哀れだ。
そこで一つの記憶がよみがえってきた。
はじめて海外旅行に行った時のこと。向こうで買った無修正のエロ雑誌をスーツケースに入れて持ち返ったんだけど、最初は税関で見つからないようにしようと思ってたたんで隠した。
しかし、なまじ隠すと見つかった時に「必死に隠している」という力みが相手に伝わってよけいに恥ずかしい。そう思ったので、最終的にはすぐ見つかる場所に置いた。
「なにか申告するものはございませんか?」
ときかれたときに
ありません
といいながら瞳孔が開いてしまった気がするけど、見逃してくれた。この犯人が必死に傷をつけている様子をくりかえし再生していると、あのときの自分を思い出す。
防犯カメラは、これから増えることはあっても減ることはない。令和の時代はどこでなにをやるにしても「撮影されている」と思っておいたほうがいい。
この犯人も、なまじ隠そうとするからちんけさが際立っているわけで、これから全国ネットの撮影なのだから、傷をつける前に髪形を直して身だしなみを整えるくらいでよかったのだ。
こう思ってみていると、最初は腹立たしかった犯人も、その昭和感が哀れに思えてきて、今では嫌いなのか好きなのかわからない。警察24時にはそういう味わい深さがある。