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帰ってきたドラキュラ

うまくいかない日

「いろんなことがなんだかうまくいかない日」ってあるでしょう?

目の前の信号機がつぎつぎに赤に切り替わってなかなか前に進めないような感じ。それと似たようなことが生活全体に生じて、ものごとが前に進んでいかない日というのはだれにでもある。

ぼくは今日がそれだった。ただし、「うまくいかない」といったところでしょせんは些細なことで、進退窮まるというほどのことではない。

世の中には「国民全体がうまくいかない日」とか「地球全体が停滞する日」などもあるわけで、それにくらべればたいしたことなかった。しかも、最終的にはギリギリで結果オーライだったので、見方を変えれば運のいい日だったといえるかもしれない。

レンタルDVDショップにて

5~6個連続でトラブったんだけど、一つ上げるならレンタルDVDショップでのことだった。これをとりあげるのはおもしろかったことと、人間の誠実さについて考えさせられたからだ。

そもそもいまどき「レンタルDVDショップって何時代?」という人のほうがおおいと思うので、あらかじめ答えておくと

昭和後期~平成前期時代

である。

ぼくはレンタルDVDショップという「終わった場所」が好きなので、懲りずに行っている。とはいえ、しばらく足が遠のくとネット配信ばかり見てしまうのは事実なので、今日は

ショップを応援する意味でもプリペイドしてしまおう

とつまらぬ漢気を出してショップでカードに1000円チャージしようとしたのだった。そしたら、1000円を飲み込んだマシンがいきなり固まってしまったのだ。今日はこういう日である。

うんともすんとも言わないのでレジに行ったのだが、いろいろあって、ともかく

確認させてください

と言われたのでイヤな予感がし、

返金していただけるんですか?

と念を押してみると

結果によります

と言われてしまったので、結果によっては1000円ガメるってこと?と思ってなんか言い返そうかと思ったんだけど、

まあいいや・・確認してください

といってカードを差し出した。ちなみにぼくが店員だったら「しかるべく対応させていただきます」とかなんとか言っただろうが、女子大生風の子だったのでそんな感じなのだ。そして、しばらく操作したのち

チャージ金額ゼロ円ですね

とあっさり言われてしまったのである。

そのタイミングでチーフらしき女性が割って入ってきて女子大生を制して「もういいから!」といって引き継いでくれた。ただし、チーフ(仮)の作業も難航した。

1000円が途中に挟まっていたのを見つけてくれたのはいいけど、ヨコの別のマシンで再チャージしようとしたので、ぼくのほうから「そちらはチャージ機能ありませんよ」と言っても聞かない。

大丈夫ですから商品をスキャンしてください

というのでチーフ(仮)に言われるままに、今日借りようと思っていた

帰ってきたドラキュラ

をイヤイヤスキャンしたのである。

なぜイヤイヤかというと、このタイミングで「帰ってきたドラキュラ」をスキャンしてしまえば、この先、どう転んでもしょせんは

帰ってきたドラキュラ

扱いになってしまうからである。

二人で「帰ってきたドラキュラ」を挟んでごちゃごちゃと操作したのだが、すでに言った通り、マシンにチャージ機能がないのだからチーフ(仮)がいくらがんばってもチャージできないのであった。

結局、チーフ(仮)は元のマシンに戻って、

それではもう1度操作してください。

といって千円差し込んでから、またマシンが固まった。ぼくも

ほらね。こうなるんですよ・・

とは言ってみたものの、どうがんばってみても

マシントラブルを指摘する帰ってきたドラキュラ

以上にはならない。

これが『アマデウス』やら『リンカーン』などであれば、もうちょっと歯切れよくトークできたと思うのだが、こういうときにホラーファンは損だ。

なんども「失礼しました!」と頭を下げられてしまったが、こちらも「帰ってきたドラキュラ」にすぎず、フニャフニャしながら出てきてしまった。それにしても、たかだか137円の旧作14泊15日にあんなに頭を下げていたら身が持たないと思う。

「帰ってきたドラキュラ」でよかったこと

チーフ(仮)としては、「帰ってきたドラキュラ」も「すずめの戸締り」も変わりないかもしれない。ぼくも古本屋でバイトしていた頃、エロ本を買っていく客が恥ずかしそうにしていたけど、こちらは何とも思わなかった。

とはいえ、客の心情としては「ワールドトレードセンター」を借りた場合と「帰ってきたドラキュラ」を借りた場合では、やや

押し出しがことなる

のである。気にしすぎだろうと思われるかもしれないが、どのショップに行っても「ホラー映画コーナー」はアダルトコーナーの入り口のわきにあるわけで、「エロ・グロ」と呼ばれるように双子の兄弟なのだ。

「アナと雪の女王」や「トイストーリー」などからなるべく離れた場所に置いてあるのは事実であり、表面では差別がないことにされているがあきらかに

構造的差別

が存在する。

ちなみにアダルトはどうなるのか?と思う人もいるだろう。たしかにアダルトも恥ずかしいが、ショップでもアダルトコーナーはカーテンで仕切られている。あれは「別腹」であって、オモテの顔とウラの顔を使い分けている人も多い。

オモテの顔で「JFK」を借りてFBIの不正にいきどおりつつ、ウラの顔で「誘惑奥さん 美乳のゆらめき」などを借りているのが大人というものである。つまり大人には

ジキル博士とハイド氏

のような人が多い。一方、ホラーは、エロコーナーの一歩手前にありながらもカーテンはなくいつもむきだしであって、晴れの日も雨の日も、オモテもウラも「血まみれ農夫の侵略」なのである。

ただしそれでよかったと思えることもある。オモテの顔が「悪魔の毒々モンスター」で日々暮らしていると、基本的に腰が低い。

日本はもともとオモテとウラを使い分ける社会であり、かつ年功序列社会なので、オモテの顔で「インビクタス/負けざる者たち」を借りて、ウラの顔で「痴漢電車の告白 乳首開発」などを借りる人生を長く送っていると、オモテが「オレ様」になり、周囲に疎んじられていく。

年をとるにつれて耳の痛いことを言ってくれる人は去っていくのだが、それを自覚していない中古年を目にすると身につまされる。しかし、ぼくとしても厄介ごとはごめんなので、そういう人のことはなるべく避けて歩く。

その点、オモテの顔で「人肉村」を借りるような人生を生きていると、全般的に見下される分、耳の痛いことを言ってくれる人もいるので、ありがたいことである。

グレーでいこう

さて、日本語で「誠意」というと、honesty(オネスティ:正直さ)みたいにおもわれがちだが、英語で「誠意」と言えばまずはintegrity(インテグリティ:統合性)だ。

オネスティというのは、「ピュア」ということなので、オモテの顔として清純ぶって見せることはいくらでもできる。

一方、インテグリティならば、オモテとウラがインテグレート(統一)されているということなので、「ジキル博士とハイド氏」のように使い分けていない、というのが英語の「誠実さ」なのである。

オモテの白とウラの黒を混ぜ合わせればとうぜんグレーになっていく。つまり、表裏が少ない人ほどオモテの顔もややグレーになっていくはずであり、「世界の中心で、愛をさけぶ」よりは「血まみれスケバン・チェーンソー」のほうがグレーなので、その分誠実な人なのではないか。

つまり「エロコーナーに近いけど、カーテンで隠されていない作品」を見ているほうが健全なんじゃないかな~と思っているのだ。

それをいうなら、チーフ(仮)が何度も頭を下げるのだってあきらかにオモテの「ジキル博士」の部分なのであって、オモテを白くすればするほど、ウラの黒い部分(ストレス)が溜まっていくのは誰でも同じで、それがたまりにたまるとSNSで罵詈雑言のようなものになっていく。

そういうのはイヤなので、チーフ(仮)にもあんまり頭を下げてほしくなかった。

しょせんは「帰ってきたドラキュラ」なので1000円だけ返してください

という感じなのである。その意味では最初の「結果によって・・」の女子大生は裏表がなったので、彼女が1000円返してくれたら言うことなかった。

バランスを取る

ただし、ぼくだって24時間365日「ゾンビ特急 地獄行き」ばかり見ているのではない。昨日の記事のように

サルトルが、ハイデガーが・・

と言っているのも自分の素顔なので、記事があまりに「血のバレンタイン」っぽくなってきた場合は、

英語で「誠意」はですね・・

などといってバランスを取っている。

それはともかく若いうちからあまりにオモテをきれいに見せていると、年をとってから人にウラを見せられないほど汚れてくる場合があるので、ややエロコーナー手前くらいに見せておくと楽に生きられるのでおすすめだ。

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