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成長を促すちょっとしたプラセボ効果

「プラセボ(偽薬)効果」って聞いたことあるでしょう?おなかが痛いときに医師が「胃腸薬です」と称してでんぷんの粉を処方しても、それを飲んだ患者の腹痛が治ったりする現象。

でも、プラセボ効果は、薬がホンモノかニセモノかというだけの話にとどまらないそうだ。

医師が患者に共感を示し、施術に自信を持っていることを態度で示すかどうかだけで、同じ治療をほどこしても治療効果が変わってきたりする。こんなのも全部プラセボである。

それだけではない。医師が白衣を着ているかどうかだけでも治療効果に差が出るし、病院という環境で治療を受けるかどうかだけけでも、効果が変わってくるという。

患者の心に影響を与えるあらゆるものが、治療に影響をあたえる。かんたんにいえば「病は気から」ということである。

この分野で一番研究が進んでいるのは、ハーバード大学医学部のカプチャク教授のグループだそうだ。ちなみにこの人は「博士」ではない。博士号も医師免許も持っておらず、大学卒業後はマカオで針治療の勉強をしていたという。そういう人がハーバードの医学部教授におさまっているのがアメリカのおもしろいところである。

さて、カプチャク氏に言わせると、プラセボ効果とは、

患者が何を言われ、医者がどんな態度をとるか。患者が待合室で座って待ち、検査を受けるなどは、いわば一連の儀式であり象徴的な意味を持つ。患者の期待感や信頼感、想像力を形成する心理的要素となる。実際のところ、科学とは相反する世界なのだ

「プラセボ効果の脳科学」、別冊日経サイエンス『意識と感覚の脳科学』p.60

現在では、プラセボの効果はMRIなどを使って、脳のさまざまな部位が関係していることが確認されている。医術にともなうさまざまな儀式や象徴が、「癒しをもたらす脳の仕組みを無意識に作動させている」のだと考えられている(同上、p.64)

しかし、こうしてプラセボが、儀式であり象徴だとすれば、これはもはや医学だけにとどまらないものだということがわかる。

人間が作り出したのは、病院や白衣や薬だけではない。自然界にはなかったさまざまなものを生み出してきており、都市空間なんていうのは、その典型だ。

たとえば、天井が高い部屋にいるか、低い部屋にいるかだけでも脳にあたえる作用は変わるだろう。高いビルの上だとか、地下街だとか、人の脳に影響を与えそうな象徴的な空間は無数にある。おまわりさんの制服を見ただけで体調を崩す人もいるかもしれない。

これらは、もともと人が作り出したものなんだけど、それらが無数に絡み合い、環境となって人にはねかえっていきている。無意識に人の気分を良くしたり、悪くしたり、癒したり、追い込んだりしていると思われる。

たとえば、ぼくがやっているプラセボを1つ書いてみよう。何かを壁に貼るときは、水平に貼らないのである。約1mmだけわずかに右側を上げる。

いま机の前に貼ってあるいろんな貼り紙も1mmずつそれぞれ右側があがっている。こうしておくと無意識のうちに

右肩上がり

というのが脳に刷り込まれるそうなのである(笑)。

しかし、そもそも「右肩上がり=成長」という図式は、自然界にはないものだ。X軸Y軸のグラフを描いたときに、第一象限が右上に来るから、ついつい時間は右向き、プラスは上向きに捉えてしまう癖ができているという「お約束」にすぎない。

でも、そういうお約束があるから、それを利用して、ポスターの右側を1mmだけ上げるという刷り込みができるわけだ。

プラセボも同じだ。もともと、自然界にはお医者さんなどいないし、薬もないし、病院もない。動物はみな自然治癒である。

しかし、人間はお医者さんという存在を作り上げた。そしてぼくらは「お医者さんが病気を治してくれる」と思いこんでいる。プラセボはその刷り込みを利用した儀式なのだろう。

というわけで、身の回りには見えないプラセボが無数に存在していると思われる。ところで、ぼくの父はカレンダーやポスターなどなんでもかんでも左肩上がりに貼るくせがあるので、帰省した時にいちいち修正しています。

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