【生成文法シリーズ補足⑤】
ゆる言語学ラジオの生成文法シリーズは、動画内でも述べた通り、正確性をかなり犠牲にしています。また、従来の生成文法の入門書で必ず触れているような基礎的な事項も、エンタメ性を優先させた結果、あえて言及していないケースがままあります。そこで本記事では、動画の補足をします。
以降、動画に出演いただいた金沢学院大学の嶋村貢志先生からいただいたコメントをもとに構成します。(文責:水野太貴)
今回の記事は、生成文法シリーズ第1回の補足です。
本編に出てきた例文の樹形図
まずは、2:34あたりで出てきた例文「東京へ」についての補足です。
上記の構造は X′ 理論を使って書いていますので、例えば名詞句は NP ではなく N′′ で書いています。また中間投射の P′ から最大投射の P′′ を投射する際に、指定部が選択されていません。
最近の研究では以下のように書くことが普通です。
ただし X′ 理論が中心の話ですので、今回は X′ 理論の記述方法に従って構造を書きます。
さて He is good at speech ですが、時制などの、動詞句より上の構造は無視しますね。なので「文=動詞句」として構造を書きます。
また動詞句の指定部に主語を書きますが、この考え方は X′ 理論が出た時にはまだありませんでした。
さて、フラクタル構造に関してですが、例えば名詞句の中に名詞句を埋め込んでいくという例が分かりやすいのではと思います。
「太郎のお姉さんの旦那さんの妹の彼氏」という名詞句を考えてみましょう。
続いて、「冠を被った赤ひげの王様」ですが、「冠を被った」は関係詞で形容詞ですし、「赤ひげの」も形容詞として扱うことになります。形容詞 (Adjective: ADJ) は文法的にあってもなくてもいいので、副詞同様、投射を拡大しない要素として考えます。つまり付加構造です。
X′ 理論では中間投射のレベルで付加するので以下のようになります。
最後に「言語はフラクタル構造だ」の構造ですが、これまで使ってきた前提に基づき書けば以下のようになります。
最後に
以上で、ゆる言語学ラジオの生成文法シリーズに関する補足は終わりです。お読みいただきありがとうございました。