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子どもの言語習得について知りたい人のためのブックガイド

本日、『きょう、ゴリラをうえたよ』(以降、ゴリラうえ)という本が出版されました。

本書のコンセプトは、「子どもの愉快ないいまちがいから、言語の不思議さを学ぶ」。
例えば、こんな感じ。

「パパ、いらなかったよ!」

『きょう、ゴリラをうえたよ』p40より

これは、親子でかくれんぼをしていたときのワンシーン。お父さんがなかなか見つからなかったことをお母さんに報告したのですが、わが子が動詞の活用を間違えたせいでお父さんは膝から崩れ落ちたそうです。
ただ、日本語の動詞は活用が複雑です。「居る」と「要る」は、発音はまったく同じなのに、否定形を作ろうと思うと「居ない」「要らない」と違った形になる。そんな興味深い事実に気づかされます。

本書に出てくる80のいいまちがいはどれも奇想天外で、言語学、認知科学的に見ても興味深いエピソードが盛りだくさん。
笑えてほっこりしつつ、学びにもなる一冊になりました。

盛り込めなかった話がいっぱい

ところで、本書にはページ数の都合上、残念ながら参考文献欄を載せることができませんでした。そこで、本書の執筆のために用いた文献をまとめるついでに、本書を読んで子どもの言語習得をもっと知りたくなった人向けに、ブックガイドをつくりました。

子どもは、想像以上にスマートにクレバーにことばを学んでいきます。『きょう、ゴリラをうえたよ』ではその一端をポップに示しましたが、ご紹介したかった驚きの実験や、盛り込みたかった言語学の面白いトピックはいっぱいあります。
こうしたことに興味を持った方は、ぜひここから新たな扉を叩いてもらえればと思い、筆をとりました。以降、前半はブックガイドを、後半は参考文献をご紹介します。

子どもの言語習得を知るブックガイド

◯ことばの発達の謎を解く

ベストの1冊を、と言われたらこれを推します。この分野で世界的に有名な今井むつみ先生が書いた本で、驚きの実験が盛りだくさん。
なお、同書の「ちくまプリマ―新書」とは中高生向けのレーベルで、文字も大きく、ページ数もそう多くありません。前提知識も求められないので、読書初心者でも言語学初学者でも読めると思います。

なお、もし事前知識を入れてから読みたいということであれば、手前味噌で恐縮ですが「ゆる言語学ラジオ」の以下のシリーズが役立ちます。

◯赤ちゃんはことばをどう学ぶのか

『ことばの発達の謎を解く』は幼児の話がメインですが、こちらは乳児にフォーカス。「ことば」という存在を知らない赤ん坊がどうやって習得するのか。実はそこにも、驚きの知見がいっぱいあります。

例えば、実は子どもの言語習得は母胎にいる時から始まっています。もちろん羊水の中からそこまでクリアな音は聞き取れないわけですが、そのころから会話のアクセントを聞いていることが実験で分かっているようです。
乳児の話はゴリラうえにはほとんど盛り込めなかったので、あわせて読むといっそう楽しめるはずです。

もしゆる言語学ラジオで予習してから読みたければこちらをどうぞ。

◯言葉をおぼえるしくみ

先ほどの二冊を書いた著者たちによる共著。もともと『レキシコンの構築』という、なんだかおっかないタイトルの本が文庫化したのが本書で、上記の二冊に比べればやや骨太なのですが、とはいえしがみついて読めばそれだけの見返りが約束されている、とも言えます。
上の二冊と内容的にかぶる部分もあるのですが、この本の魅力は学者がどうやって自説の説得力を補強していくかが追体験できるという点にあります。やってることは謎解きみたいで、ミステリ小説だと思って読むと楽しめるのでは。ぜひチャレンジしてみてほしい一冊です。

◯言語を生み出す本能

世界的な認知科学者、スティーブン・ピンカーの代表作。これを読んで言語学者を志す人が後を絶たないという、ある意味危険な本。
ピンカーは「言語は本能によって習得される」という仮説を提示しており、これには賛否あるのですが、とにかく筆さばきがうまい。
ゴリラうえを突き詰めていくと、究極的にはこうした議論に行きつくわけで、興味があるなら読んで損はないです。

◯ちいさい言語学者の冒険

タイトルの「ちいさい言語学者」とは、広瀬先生のお子さんのこと。そう、本書はひと言で言うと言語学者の子育て(&言語習得観察)エッセイです。面白くないわけがない。
おまけに著者の広瀬先生の、関西人的(?)サービス精神にあふれているのがうれしい。
ゴリラうえにも

「『は』に点々は」→「?」
「『ぱ』に点々は」→「ば!」

『きょう、ゴリラをうえたよ』p94より

という例がありますが、これは『ちいさい言語学者の冒険』でも報告されている例です。このほか、興味深い子どものいいまちがいと、言語学者ならではの視点での深い洞察がいっぱい提示されています。
なお、ゴリラうえをバリューブックスで買うと、本書の著者である広瀬友紀先生と、私水野の対談動画が特典としてついてきます。

〇音声学者、娘とことばの不思議に飛び込む 〜プリチュワからカピチュウ、おっけーぐるぐるまで〜

言語学者の子育てエッセイは、もう一冊あります。著者の川原繁人先生のご専門は、音韻論と音声学。要は、言語の中でも、さらに音のスペシャリストです。
サブタイトルにもなっている「プリチュワ」「カピチュウ」「おっけーぐるぐる」とは、何を指している? そして、音声学者である川原先生はどう分析する?
『ちいさい言語学者の冒険』と合わせて読むと、「ひと口に言語学者といっても、注目するポイントがここまで違うのか」という楽しみ方もできます。

◯あのね 子どものつぶやき&ママ、あのね。 子どものつぶやき

子どもの興味深い発言を公募した朝日新聞の投書欄を書籍化した本。細かな理屈はさておき、子どもの発言成分をもっと浴びたい人なら。
まるで詩人のようなオシャレな発言から、吹き出してしまうようなトンチの利いた発言まで盛りだくさんです。

◯子どもとめぐることばの世界

「音韻」「語彙」「文法」「やりとり」の章に分けて、ことばの不思議を解説。
というと、ガッツリことば関係の本に思えるかもしれません。ただ、これまでの著者を「言語寄り⇔子どもの発達寄り」で分けるとしたら、最も子どもの発達寄りと言っていい著者だと思います。
なので子どもの興味深い行動に関する知見の話も多く収録されており、幅広く発達に関心がある方にもオススメできる本です。

◯なるほど!赤ちゃん学

言語に限った本ではないのですが、「そもそも子どもって面白い!」と思った人にはお勧めです。赤ちゃんに対する面白い認知実験の話が盛りだくさん。

このほか、さらに知りたい人向けにタイトルをざっと挙げておきます。

◯ことばの学習のパラドックス

◯言語の本質

◯子どもに学ぶ言葉の認知科学

◯子どもとことば

◯よくわかる言語発達

ゴリラうえの参考文献

最後に、ゴリラうえの執筆にあたって参考にした書籍をざっと記しておきます。なお、上に上げた書籍は重複となるので再度挙げることはしません。

◯新明解語源辞典

語源的な記述は、基本的に本書を参照しました。

◯英語語源辞典

英語の語源についてはこちら。

◯新明解国語辞典 第八版

語釈を挙げているものについては、ほとんどが本書の記述を基にしています。

◯日本国語大辞典 第二版

また、場合によっては『日本国語大辞典』も参考にしました。

◯数え方でみがく日本語

2の事例の解説文で使用。

◯オノマトペの歴史1

9の事例の解説文。なお、「朝日が東からつるつる昇る」の究極の出典は『毛詩抄』です。

◯毎日読みたい365日の広告コピー

16の事例の解説文で使用。

◯限界芸術「面白い話」による音声言語・オラリティの研究

17の解説文で使用。なお、本書は論文集で、所収の論文「「私のちょっと面白い話」のフランス語訳をめぐって――フランス語訳をめぐる「後思案」」(山元淑乃)を参考にしました。

◯統辞理論の諸相

29の解説文で使用。

◯おいしさの表現辞典 新装版

43、58の解説文で使用。なお、究極の出典はそれぞれ『東海林さだおの味わい方』(東海林さだお(著)、南 伸坊(編)、筑摩書房)、『軽井沢うまいもの暮らし』 (玉村豊男、中公文庫)、『頬っぺた落とし う、うまい! 』(嵐山光三郎、ちくま文庫)です。

◯レトリックと人生

45の解説文で使用。

◯言語の力

54の解説文で使用。

◯たぶん一生使わない? 異国のことわざ111

61の解説文で使用。

◯ワインの香り

66の解説文で使用。

◯音とことばのふしぎな世界

74の解説文で使用。

以上です! 解説文を読んで気になったトピックがあったら、ぜひ当たってみてください。

最後になりますが、皆さまからの「子どものいいまちがい」エピソードを大募集中です。もしいいネタがあれば、以下のフォームよりお寄せください!


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