リクシャーワーラーの話
インドでの私の交通手段と言えば、メトロ、UBER、そしてオートリクシャーである。
メトロは地下鉄のことで、デリーのメトロはとても発達している。駅の綺麗さは東京に勝るし、山手線にちょっと劣るくらいの間隔で列車が来る。しかも乗車料金が安い。正確には覚えていないが、デリーからグルガオンに行っても30ルピー(45円)くらいだった気がする。2000ルピー(3000円)もチャージした日には、日本に帰れるのではないかとも思える安さだ。デリーメトロ専用のPASMOのようなカードがあり、チャージしておけばワンタッチで電車に乗ることが出来る。
オートリクシャーは三輪タクシーのことで、東南アジアで知られるトゥクトゥクのようなものだ。定員は3人。相場はだいたい決まっていて、私の寮から最寄り駅まで2キロくらいで50ルピー(75円)、学内だとどこでも30ルピー(45円)。外国人だと舐められてありえないほど高い値段を提示されることもある。そういう時はあきれ顔で無言で立ち去ろうとすると、だいたい「やっぱり〇ルピーでいいよ!」と引き留めてくる。
UBERはお馴染みのアプリで車を呼ぶことが出来るサービスだ。ピックアップポイントと目的地を入力すると、アプリに価格が表示される。車なのでオートより価格設定は少し高めだが、長距離だとオートより安かったりもする。何人かで乗っても値段は変わらないので、シェアーするときほどお得だ。
距離と人数、時間帯(利用者が多い夕方や夜間はUBERの値段は高くなる)を考慮して、移動手段を決定する。
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私は先日ショッピングモールに行くためにリクシャーを使った。距離は3キロほどで、リクシャーワーラーたちが70ルピーを提示する中、60ルピーでいいという運転手がいたのでその人に決めた。リクシャーの運転手のことをインドではリクシャーワーラーと呼ぶ。
リクシャーに乗ると、まずインド人かどうか聞かれた。ヒンディー語で交渉していたからだ。基本的に、ヒンディー語で聞いた方がありえないような値段を提示されることが少ない。私はちがうよ、日本人だよ、と答えた。
リクシャーワーラーは「留学で来ているの?君たちにとってはリクシャーの値段なんて安いでしょう。」と言ってきた。私は内心まずいな、と思った。降りるときに最初に言っていたのと違う料金を求めてくるリクシャーワーラーもいるからだ。慌てて「奨学金で来ているから裕福ではない。」と答えた。
彼は「僕のうちも裕福じゃないんだ、だから僕は運転手になったんだ。」と言った。リクシャーの運転手はたしかに教育を受けなくてもなることが出来る。運転免許さえ持っているのか分からない。しかし彼の英語はとても流暢だった。「日本ってどんな国なの?」と、とても好奇心旺盛だった。
降りるときに「こっちに無印があるよ、無印は君の国のブランドだよね」と教えてくれた。インドのショッピングモールは価格設定が高く、基本的に富裕層しかいない。
彼は最後に「僕も日本に行くことが出来るかな?」と聞いた。私は「うん、ぜひ来てね。」と答えた。
そして降りるときに60ルピー(90円)を払った。
彼のように英語を流暢に話せる人だったら、日本で仕事を得ることが出来るだろう。しかし日本は物価が高い。そして日本までの航空券も高い。
60ルピーよりもっと多く払うべきだったかな、と考えた。しかし私が100ルピー払ったところで日本に来れるわけではない。それに私の家も特別裕福なわけではないし、奨学金で生活している身だ。貧しい人をお金で助けるほどの余裕はない。
彼はいつか日本に来ることができるのだろうか、と思ったら胸が痛くなった。