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人種のサラダボウル(ニューヨーク)で英語を学ぶ

少し前からニューヨーク公共図書館が提供する英語クラスに通っています。通い始めたモチベーションとしては、もちろん英語力を高めたいというのもありますが、ニューヨークに住む人と仲良くなりたいうのが大きかったです。今のところ両方とも目的が達成されるかは怪しいですが、楽しく通っています。何が楽しいかって、ニューヨークに住む多様な人種、バックグラウンドを持つ人たちに会えるからです。妻がコロンビア大学の教育大学院に、娘は大学院付属の保育園に通っており、そこで知り合う人たちも人種的には多様なのですが、ただし所謂”エリート”たちなので、価値観は似通っています。脱線しますが、前に働いていたアメリカに本社のあるコンサルティング会社では、定期的に世界中のスタッフが一同に集まって研修をするのですが、その会社の人は、どこの国出身であろうと、研修が実施される場所の空港で見かけたら同じ会社の人だと分かる(くらい似通っている)という逸話がありました。人種が違っても、価値観が似てくると、来てる服装や持ち物、そして振る舞いや顔立ちまで似てくる気がします。他方で、ニューヨーク公共図書館に通う人たちは多様なのです。そんな楽しい英語クラスの体験をシェアできればと思います。


ニューヨーク公共図書館の英語クラス概要

ニューヨーク公共図書館(New York Public Library)、通称NYPLは、日本の図書館と同じような位置づけです。Public=公共と銘打っているものの、行政から独立して非営利組織によって運営されているといった日本の図書館との違いはありますが、ニューヨーク州・市からの予算投入もあり、市民のための図書館という位置づけは同じです。

そんなニューヨーク公共図書館では大人向けの無料の英語クラスが提供されています。1年を通じて10週間のコースが断続的に提供されており、英語BeginnerからAdvanced-levelまで、図書館での対面、またZoomを通じたオンラインでの授業が提供されています。授業は基本週2回 x 2時間/回で結構しっかりと授業してくれます。参加条件はニューヨーク市に在住する18歳以上の大人で、移民ステータスや市民権の有無に関わらず誰でも参加できます。受講にあたって何かしらの書類(ビザやパスポート)などの提出も不要です。なので、不法移民でも受けられます。

英語クラスをとるためには、まずは10週間のコースの各サイクル前に実施されるInformation sessionに参加し、クラス分けのテストを受ける必要があります。私は、できれば対面での授業をとりたかったのですが、娘の保育園の関係でちょうど良い時間帯の授業がなく、オンラインコースをとることにしました。

クラスの風景

私がとっているオンラインコースは20人強の参加者がおり、約8割は女性、出身地の構成でいくと、ラテンアメリカ>東アジア>中東>ヨーロッパといった感じで、10を超す国からの参加者がいます。Advanced-levelということになっていますが、英語のレベルはバラバラで、イギリス・アメリカに計10数年も住んでおり、素敵なブリティッシュアクセントの英語を話すマダムから、私のヒアリング能力ではアクセントが強すぎて何を言っているか10%くらいしかわからない人まで、英語のレベルも多様性に富んでいます。

20名を超すオンラインコースなので、Breakout roomで少人数で話す時間をなるべくとるように工夫してくれていますが、参加者全員が同じ部屋でやり取りする時間が過半を占めています。先生が質問すると、みんな積極性が◎で、一斉にマイクをオンにして話だすのでカオスです。先生の質問に対して誰かが間違えた答えをすると、すかさず誰から「No」と合いの手が入ります。そんなクラスの中での気づきをいくつか書き連ねてみたいと思います。

How are you? は戦略的に

毎回、授業にはテーマが設定されています。ハロウィーンの前はハロウィーンの歴史、大統領選挙の前は大統領選挙の仕組み(選挙人制度など)です。そして初回の授業のテーマはSmall talkでした。Small talk、もっというとHow are you? I'm fine. をどうやるかです。

この英語クラスを受けていると、表立って掲げられていませんが、受講生の「アメリカへの同化」という目的が通底しているように感じます。前述のアメリカの文化であるハロウィンや選挙制度の理解はもちろん、ハードワークして子どもを大学に通わせることができた中華系移住1世の話などが参考のテキストとして取り扱われています。同じ観点で、新しくアメリカに来た人が既にいる人とうまくコミュニケーションできるよう、そのきっかけとしてSmall talkを積極的に使っていこうという背景のもと、Small talkが初回のテーマとして扱われていると感じました。

先生によると、ニューヨークではHow are you? I'm fine.でSmall talkは基本は問題ない。みんな忙しいから、How are youを文字通り受け取らず、挨拶だと思ってI'm fine.とかI'm good.と返しておけばいいとのことです。ただし、理想は(アメリカ人と積極的にコミュニケーションとれるよう)Small talkを長く続ける、そのために戦略的にSmall talkをしようという話があり、そんなこと考えたこともなかった私としては新鮮でした。具体的にはどうやって会話はじめるか考えておく(例:How are you?でなくI love your jacket! Where did you get it?)、タブーなトピック(例:金、政治)は避ける、Exit planも用意しておく(例:Excuse me, I have to …)などなどです。Small talkを戦略的に使いこなすというのは、多様な人々にあふれるニューヨークで人々のコミュニケーションを促進させる仕掛けなんだと気づかされました。

ヨーロッパで話されている言語は知らない

冒頭に述べたように、このクラスでは多様な人々がいます。印象的だったのは、どういう文脈だったか覚えていませんが「ヨーロッパで話されている言葉は何か?」という質問を振られたヒジャーブ(スカーフ)を付けた女性が「ヨーロッパで話されている言語は知らない」と答えたことです。すかさず「英語もイギリスでしゃべられているよね。」とフォローしても、ぴんときていない感じです。あとは、大統領選挙のテーマの回で、大統領選挙のあれやこれやについて話しているとき、一人だけまったく発言しない人がいました。ちょっと話を振ってみると、「政治の話はしたくない」との回答。「どこ出身なの?」と聞いてみると「ロシア出身」とのことで、それ以上話は発展しませんでした。ちなみに、その人は、ある日Zoom入った瞬間に表示されている名前が、クラスで使っている名前と異なっていました。。。また、あるとき「お金とPurposeどっちが大事」みたいなべたなトピックがあり、「(まあお金も大事だけど)Purposeのほうが大事」というのが模範解答だという共通認識はこの多様なクラスの中でもあるなか、「Money! xxxx(以降アクセントが強く聞き取れず)」と一人強く訴える人もおり、なかなか新鮮な体験です。

おわりに

ニューヨークは「人種のサラダボウル」と言われています。昔は「人種のるつぼ」と言われていましたが、るつぼは金属を溶かす壺で、いろんな人種、マイノリティを強引にアメリカに同化していくというニュアンスを持っているという批判から、サラダボウルが使われるようになりました。個人的にもるつぼで溶かされる金属よりサラダボウルに入れられる野菜のほうが居心地よさそうだなと思う一方、この表現はなかなか同化が難しい現実を反映している側面があると思います。ニューヨークのチャイナタウンでは中国系の人が中国語で独自のコミュニティを築いてそこだけで生活が自己完結しているように見えますし、たまに見かける超正統派ユダヤ教徒(ハシディズム)は明らかに違ういで立ちで、なかなか違うカルチャー・バックグラウンドの人々が混ざりあうのは難しそうです。そして、混ざり合うのが難しいという意味だと、今回の大統領選挙の結果につながった背景には、人種のみならず、学歴・所得など、さまざまな切り口で分断が起こっているという点は各方面で指摘されている通りです。そういった意味で、このニューヨーク公共図書館の英語クラスは、少しだけですが、普段接点のない人々とのコミュニケーションを提供してくれたという意味で、そしてそのコミュニケーションのもととなる語学、その実践のための技術としてのSmall talkなどを教えてくれたという意味で貴重な経験となりました。

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